上 下
62 / 325
第1章・異世界転移と異世界転生

オブルリヒトの王①

しおりを挟む

「おい、部屋から出るなよ」

 部屋の外には私を見張っている兵士が居るから、私を部屋へと戻そうとするのだけれど、私は兵士を無視して部屋を出た。
 以前の太っていた私ならともかく、今の私には乱暴な事ができないのだろう、兵士はぶつぶつと小言を言いながらも、私の後をついてくる。

「おい、ジュン様と会ったら、どうする気なんだ」

 と言われ、思わず笑ってしまった。
 兵士の言葉は、ジュンが私を襲う事が前提になっているものだ。
 彼は、ジュニアスやノートンから、私とジュンを会わせるなという命令を受けているのかもしれない。

 王宮の中庭へと足を向けると、褐色の肌に銀髪、金色の瞳という、ユーリと全く同じ色を持った男性と、白い肌に黒髪、赤い瞳をした美女の姿を見かけた。
 二人の方も、私に気付いたようだったが、美女の方は侍女と思われる数人の女性と共に、すぐに立ち去ってしまい、男性だけが残された。
 男性は私のそばに居た兵士も含めて人払いをすると、私の方へと歩いてきた。

「盾の聖女だな。ジュニアスの言った通り、見違えたよ。さすが聖女だ。美しい……」

「あ……ありがとう、ございます……」

 男性の年齢は、多分、五十歳前後で、以前の私と似たような年齢だろう。
 ユーリに良く似たこの男性は、おそらくユーリとジュニアスの父親である、オブルリヒト王国の王様だ。

「私は、フェルゼン・オブルリヒト……この国の王であり、ユリアナの父親だ。盾の聖女よ、ユリアナの呪いの毒を消してくれて、ありがとう……」

 王様はそう言うと、私に頭を下げた。
 王様が頭を下げるなんて、と私は思ったけど、王様はこのために先程人払いをしたのかもしれない。

「ユリアナも、アルバトスの事も、もう諦めなくてはと思っていた……。本当にありがとう……。アルバトスはユリアナの母の双子の兄でね、母を失ったユリアナを育ててくれた恩人なんだ」

 王様はそう言うと、ユーリとアルバトスさんの事を、私に教えてくれた。

「ユリアナの母は、水の精霊のような綺麗な人でね、私は彼女に一目で恋をして……彼女を妻にしたんだ。だけど……」

 ユーリのお母さんは、ユーリを産んだ後、儚く亡くなってしまったのだそうだ。
 そして、ユーリのお母さんを心から愛していた王様は、ユーリのお母さんが死んだのはユーリを産んだせいだと思ってしまったらしい。
 だからユーリを自分の元で育てずに、アルバトスさんに託したのだという。

「だけど、冷静になってみると、とても後悔したよ。ユリアナは愛した妻が命がけで産んだ宝だというのに、私は何てことをしたのだろうと……。だからすぐにユリアナを自分の元に引き取ろうとしたのだけれど、できなかった。ユリアナが生まれる前に、二人目の妻が生んだジュニアスの世話で、みんな手一杯だったんだ……」

 だから、結局王様はユーリを引き取る事ができずに、ユーリはアルバトスさんの元で育てられたのだそうだ。
 王様は自分がユーリを引き取る事ができなかったから、そのせいでユーリとの間に溝ができてしまっていると思っているらしい。

「この手でユリアナを育てる事はできなかったけれど、私はユリアナを愛している……。だから本当にありがとう」

 王様はそう締めくくって、もう一度私に頭を下げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~

あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい? とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。 犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...