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第2章:オトメゴコロとオトコゴコロ
9・彼女の悩み事
しおりを挟む「古城? どうした、こんなところで」
灯里は屋上へと続く階段から降りてきた。
灯里と会う前に雅とすれ違ったから二人で話していたのかもしれないが、雅はスキップしながら降りて来たのに対し、灯里の足取りは重く、彼女自身は俯いている。
「古城、何かあったのか?」
どうしたのだろうと気になった尊が声をかけると、灯里は顔を上げて尊を見つめたが、今にも泣き出しそうな表情をした。
「こ、古城?」
尊は灯里の泣き出しそうな表情に驚いた。
尊の顔を見て、今の自分の表情に気付いたのだろう、灯里は、
「な、何もないですよ?」
と言って首を横に振り、無理矢理作ったような笑顔でしとやかに深々と頭を下げると、尊の前から立ち去った。
「な、何もないっていう表情じゃねぇだろうっ……」
灯里の様子に、尊は彼女に何かがあったという事を確信していた。
ただ、何があったのかまではわからない。
ここで彼女を追いかけて問いただすことも出来たが、尊はそれを堪えて彼女の華奢な背中を見送った。
灯里に何かがあったという事は、確かだろう。
一体何があったか……考えられる事は、いくつかあった。
その一……尊とは別の、他に好きな男が出来て、その事で悩んでいる。
「いや、有り得ねぇ……」
尊はすぐにその考えを却下した。
例えば彼女に尊を諦めるという選択肢があったとしても、子供の頃からずっと自分を想っていた灯里が、今さら別の男を好きになるはずがないと尊は思っていた。
だから、他に好きな男が出来たというのは、まずないと思っていいだろう。
その二……勉強の事。
「多分、違うな……」
灯里は高校三年生……受験生でもある。
だが、勉強の事で悩む必要なんてないほどに、灯里の成績は良かった。
彼女が望み本気で勉強さえすれば、どの大学でも受かるだろう。
その三……家の事。
「これは有り得るな……」
はぁ、と尊は息をついた。
灯里の家庭環境は複雑だ。
彼女は財閥令嬢でありながら、子供の頃に父親から出来が悪いと家を追い出され、叔父の家で育つという複雑な過去を持つ。
もしも家の事で彼女が何かを悩んでいるのだとしたら、この問題に関しては、尊はあまり役に立てないかもしれない。
近い内に聡に連絡を取ろうと尊は思った。
そして、その四……安藤当麻という男の事。
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尊は当麻の件が一番有り得そうだと結論づけた。
ただ、灯里が暗い表情になる前に一緒に居たのが雅なのが気にかかる。
暗い表情の原因が当麻だとしたら、雅は全く関係ないからだ。
尊は、まさか自分が雅の事を好きなのだと灯里が思い込んでいるなんて、全く思いつかなかった。
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