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第2章:オトメゴコロとオトコゴコロ
5・パワフルガール
しおりを挟む「これは、聡兄さんと叔父さんにあげよう」
灯里がカップケーキを尊に渡すのを諦めて、教室に戻ろうとしたときの事だった。
「何? 灯里、新堂にあげないの?」
一人の女子生徒が灯里に声をかけてきた。
小麦色の肌に明るい茶色の髪をした、ふっくらとした少女は、持っていたビニール袋を握りしめると、
「もう、あいつら邪魔ね」
と呟き、尊と、彼を囲む女子生徒へと、ずんずん歩いていく。彼女は、
「邪魔よ!」
と声を荒げると、尊に群がる女子生徒を弾き飛ばし、尊に持っていたビニール袋を突き出した。
彼女――秋元雅の行動を見て、灯里は感動していた。
なんて積極的で行動力があるのだろうと思う。
昔に比べればだいぶマシにはなったとはいえ、灯里はまだどちらかと言えば内気な性格だから、雅を見て、すごいなぁ、羨ましいなぁ、あんなふうになりたいなぁ、と思う。
「み、雅、も、俺にくれるのか?」
「そうよ! チョコクッキーよ、あげるわ!」
「そ、そうか、サンキューな」
尊は雅が差し出したビニール袋を受け取った。
渡せていいなぁ、と思いながら、灯里は尊の顔を見上げた。
ほぼ同じタイミングで尊も灯里へと視線を移したらしく、彼が自分を見つめたのに気付いた灯里は、どくんと大きく胸を高鳴らせた。
「ん」
尊は灯里を見つめたまま優しく瞳を細めると、灯里に手を差し出した。
「え?」
驚く灯里に、
「古城は、俺にくれないのか?」
と尊は苦笑する。
「い、いえ、あのっ……ど、どうぞっ……」
灯里は差し出された尊の手が引っ込められる前に、慌てて持っていたカップケーキの入った袋を尊の大きな手に置いた。
「古城は、何を作ったんだ?」
「あ、あのっ……カ、カップケーキですっ……せ、先生の、お、お口に合えば、いいんですけどっ……」
「そうか、サンキューな!」
尊は白い歯を見せて爽やかに笑うと、女子生徒からもらったお菓子の山を抱えて、体育教官室へと戻って行った。
「雅ちゃん、ありがとう……」
雅のおかげで、灯里は尊にカップケーキを渡すことが出来た。
灯里が礼を言うと、
「何が?」
と雅は首を傾げたが、彼女は灯里が正志と卓也用に包んでおいたカップケーキの袋を見ると、手を差し出した。
「そう言えば灯里のカップケーキ、すごく美味しそうだったわね~」
そう言ってにんまりと笑った雅に、
「うん、どうぞ。ありがとう、雅ちゃん」
灯里はカップケーキの袋を一つ差し出した。
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