僕の二度目の恋と彼女の初恋は、卒業式まで実らない

明衣令央

文字の大きさ
上 下
14 / 43
第2章:オトメゴコロとオトコゴコロ

5・パワフルガール

しおりを挟む


「これは、聡兄さんと叔父さんにあげよう」

 灯里がカップケーキを尊に渡すのを諦めて、教室に戻ろうとしたときの事だった。

「何? 灯里、新堂にあげないの?」

 一人の女子生徒が灯里に声をかけてきた。
 小麦色の肌に明るい茶色の髪をした、ふっくらとした少女は、持っていたビニール袋を握りしめると、

「もう、あいつら邪魔ね」

 と呟き、尊と、彼を囲む女子生徒へと、ずんずん歩いていく。彼女は、

「邪魔よ!」

 と声を荒げると、尊に群がる女子生徒を弾き飛ばし、尊に持っていたビニール袋を突き出した。

 彼女――秋元雅の行動を見て、灯里は感動していた。
 なんて積極的で行動力があるのだろうと思う。
 昔に比べればだいぶマシにはなったとはいえ、灯里はまだどちらかと言えば内気な性格だから、雅を見て、すごいなぁ、羨ましいなぁ、あんなふうになりたいなぁ、と思う。

「み、雅、も、俺にくれるのか?」

「そうよ! チョコクッキーよ、あげるわ!」

「そ、そうか、サンキューな」

 尊は雅が差し出したビニール袋を受け取った。
 渡せていいなぁ、と思いながら、灯里は尊の顔を見上げた。
 ほぼ同じタイミングで尊も灯里へと視線を移したらしく、彼が自分を見つめたのに気付いた灯里は、どくんと大きく胸を高鳴らせた。

「ん」

 尊は灯里を見つめたまま優しく瞳を細めると、灯里に手を差し出した。

「え?」

 驚く灯里に、

「古城は、俺にくれないのか?」

 と尊は苦笑する。

「い、いえ、あのっ……ど、どうぞっ……」

 灯里は差し出された尊の手が引っ込められる前に、慌てて持っていたカップケーキの入った袋を尊の大きな手に置いた。

「古城は、何を作ったんだ?」

「あ、あのっ……カ、カップケーキですっ……せ、先生の、お、お口に合えば、いいんですけどっ……」

「そうか、サンキューな!」

 尊は白い歯を見せて爽やかに笑うと、女子生徒からもらったお菓子の山を抱えて、体育教官室へと戻って行った。

「雅ちゃん、ありがとう……」

 雅のおかげで、灯里は尊にカップケーキを渡すことが出来た。
 灯里が礼を言うと、

「何が?」

 と雅は首を傾げたが、彼女は灯里が正志と卓也用に包んでおいたカップケーキの袋を見ると、手を差し出した。

「そう言えば灯里のカップケーキ、すごく美味しそうだったわね~」

 そう言ってにんまりと笑った雅に、

「うん、どうぞ。ありがとう、雅ちゃん」

 灯里はカップケーキの袋を一つ差し出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...