106 / 108
第6章:不和
9・大樹さんの怒り
しおりを挟む「ねぇ、だいちゃ、けんちゃは?」
大樹さんのジーンズを引っ張って、昌央が言った。
そう言えば、確かに賢さんが居ないなぁ。
大樹さんと賢さんはいつも一緒っていうイメージだから、大樹さんが一人なのが不思議な感じだ。
昌央もきっと同じ事を思ったんだろうなぁ。
「賢は、もう居ない……」
「え? どういう事?」
「こはな?」
不思議そうに昌央が首を傾げ、私を見上げる。
どういう事なのか教えてほしいっていう事なんだろうけど、私だってわからないよ。
「大樹さん、賢さんが居ないって、一体……」
「言葉通りの意味だ。賢が今後、お前や真中家の方々の前に姿を現す事はない。賢は首にした」
「え? 二人、あんなに仲が良かったのに……何かあったんですか?」
私がそう聞くと、大樹さんは深いため息をつき、頷いた。
「何かあったどころじゃない。あいつは俺に、いろんな事を黙っていた……」
「いろんな事って?」
「……例えば、東野の娘がお前に辛く当たっていた事とか……」
「それ、真紀ちゃんの事ですか?」
「あぁ」
そうか、賢さんは真紀ちゃんの事を、大樹さんに黙っていたんだよね。
確か、大樹さんまで報告する前に態度を改めるように言っていたって、真紀ちゃんのお姉さんの亜紀さんが教えてくれたけれど、真紀ちゃんの態度は変わらなかったんだ。
それでも賢さんが真紀ちゃんの事を報告しなかったのは、真紀ちゃんや亜紀さんが東宮司家から罰を受けないようにするためだろうね。
賢さんって、すごく優しいと思う。
だけどそれは、大樹さんにとっては許せない事だったらしい。
「浦西家の娘も、お前に辛く当たっていたと聞いた……。千隼も、将成も、蘭華も知っていた事なのに、賢は俺の耳に入らないようにした……。俺が知っていたら、少なくとも東野の娘をお前から遠ざける事ができた。そうすれば、お前はこんなひどい怪我をしなかったはずだっ! 俺は賢を……東野の娘を、絶対に許さないっ」
「大樹さん……」
賢さんに対し、大樹さんがこんなに怒っているのを、初めて見た。
大樹さんと賢さんは、主従の関係ではあるのだろうけど、主従というよりも親友同士という感じだった。
だから、賢さんが大樹さんの事をからかうような口調で話しても、大樹さんは気にしていないようだったし、怒る事もなかった。
それなのに今の大樹さんからは、まるで賢さんを憎んでいるかのようだ。
「賢さんが真紀ちゃんの事を大樹さんに内緒にしていたのは、真紀ちゃんや東野家の人の事を考えて黙っていたんだよ! それは、賢さんの優しさだよ!」
「優しさ? どこがだ! どう考えても、東野の娘が悪いだろう! 俺に知らせずに、賢が自分だけで解決できると思っていたのなら、それは奴の思い上がりだ! その結果、お前にこんな怪我をさせてしまったんだからな!」
どうやら大樹さんは、私の怪我が賢さんのせいだと思っているようだった。
賢さんのせいじゃない……そう言いたかったけれど、今の大樹さんには聞き入れてもらえないような気がする。
「大樹さん、賢さんや真紀ちゃんは、今、どうしているんですか?」
「知らない……賢の事も、東野家の事も、処分は父と裏東家に任せている……」
「処分って……どういう事ですかっ!」
「死んではいないとは思うがな……そこはじいの……裏東家の当主が決めているだろう」
裏東家の当主って、賢さんのおじいさんだっけ?
ものすごく東宮司家を大切にしていて、厳しい人って聞いたような気がする。
だとしたら、賢さんも真紀ちゃんも、死んではいなくても、相当ひどい目にあっているんじゃないの?
「大樹さん、賢さんたちを許してあげてよ! 私の怪我は、賢さんのせいじゃないよ!」
必死に頼んだけれど、大樹さんは「無理だ」と言って首を横に振った。
大樹さんは賢さんが、真紀ちゃんが、どうしても許せないのだと言う。
「お願いだから!」
「だから、無理だと言っているだろう! 俺は絶対に賢を許さない!」
「大樹さん、心狭いよ!」
「どう言われようと、許せないものは許せない!」
さっきまでの甘い雰囲気はどこへ行ったのやら。
「うわぁぁぁんっ」
大声で怒鳴り合う私と大樹さんに驚いて、昌央が泣き出してしまった。
小さな体でドアを開けると、部屋を飛び出して行く。
「あ、昌央!」
慌てて昌央を追いかけて部屋を出ると、そこには昌央を抱いたおじいちゃんと、亘先生が居た。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
王子が主人公のお話です。
番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。
本編を読まなくてもわかるお話です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる