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第5章:闇
30・それぞれの闇
しおりを挟む「おい、あんた、いい加減にしろよ!」
「そうだ、もう我慢ならねぇ。あんたが西園寺家のお姫様で、うちの若の婚約者だとしても、もう限界だ!」
一方的に麗華さんから負の感情をぶつけられる私を見て、厚くんと武くんの我慢は限界を迎えたらしい。
二人は私と麗華さんが居る妖滅室へと向かおうとしてくれたんだけど、二人を睨みつけた麗華さんが、七海さんと渚ちゃんへ命令をする。
「七海! 渚! 邪魔させないで!」
「麗華様!」
七海さんは悲鳴のような声で麗華さんの名前を呼び、首を横に振ったけれど、渚ちゃんの方へは自分の得物である苦無を構え、厚くんと武くんの前に立ちはだかった。
「浦西、マジかよ」
「おい、お前、もういい加減にしろよ!」
「私は本気よ。だって、麗華様の命令だもの。麗華様のためなら、私は何だってするわ!」
渚ちゃんはそう言うと、厚くんと武くんに向かって、苦無を投げつけた。
これには明奈さんや伸彦さんも怒ったようで、
「七海! 妹を止めて!」
「お前ら、何やってんだよ!」
と、渚ちゃんのお姉さんである七海さんへと叫ぶ。
七海さんは渚ちゃんを止めようと走り出そうとしたけれど、
「七海! 私の命令が聞けないの!」
と麗華さんに言われると、動けなくなってしまった。
「すいません、貴美さんに連絡してくださいっ!」
明奈さんは間家の人たちに声をかけたけど、いつの間にか間家の人たちは倒れていた。
倒れた間家の人のそばに居たのは、真紀ちゃんだった。
もしかして真紀ちゃんが、間家の人たちに何かしたの?
明奈さんは目を見開いて真紀ちゃんを見つめ、伸彦さんが震えた声で、真紀ちゃんに何をしたかと問う。
「だって、邪魔が入ったら面白くないじゃない。せっかく大嫌いな奴が痛めつけられている、最高に楽しいショーが見られるっていうのに」
「え?」
ニタリ、と笑う真紀ちゃんの顔を、私は気持ち悪いと思ってしまった。
真紀ちゃんは驚く明奈さんと伸彦さんに近寄ると、自分の武器である薙刀で攻撃をする。
う、と呻いて、明奈さんと伸彦さんの体がその場に崩れ落ちた。
「姉ちゃん!」
「兄貴!」
明奈さんと伸彦さんは気を失ってはいないようだけど、真紀ちゃんの一撃を受けて、すぐには立ち上がれないようだった。
真紀ちゃんはそんな明奈さんと伸彦さんを見下ろすと、くすくすと笑い、私へと目を向けた。
「今、とても楽しいわ、小花ちゃん。だって、あなたが、ものすごく困っているんですもの。ずっとこんな場面を夢見ていたわ。私、大樹様に優しくされるあなたが、憎くて仕方がなかった! あんたなんか、消えてなくなればいいのよっ!」
「ま、真紀ちゃんっ!」
今は嫌われているのかもしれないと思っていたけれど、まさかこんな事を言われるくらい憎まれているとは思っていなかった。
真紀ちゃんの言葉にショックを受けた私は、耳を塞ごうとした。
だけど、それを麗華さんが邪魔をする。
にぃ、と笑う麗華さんの顔を見て、私はゾッとした。
「そうよ! あなたさえいなければ、麗華様も優介様も、千隼様だって、幸せだったはず! 私は、子供の頃から麗華様が苦しまれているのを、ずっと見て来たわ! 一人だけ真中家で大切に育てられて、能天気に笑うあなたが、ずっと腹立たしかった! あなたなんて、居なくなればいい!」
「渚ちゃんっ!」
厚くんと武くんをこちらに来ないように邪魔をしながら、渚ちゃんが叫ぶ。
入学して最初に声をかけてくれたのが、渚ちゃんだった。
あんなに私を気にかけてくれて、仲良くなったっていうのに、心の中ではずっとそんなふうに思っていたの?
悲しすぎて、涙が溢れて止まらなかった。
「ふふっ、私と同じようにあんたの事が嫌いな人間がいるのね。本当に、あんたなんて生まれてこなければ良かったのに……あんたなんて、居なくなってしまえばいいのにっ」
「もう止めて! 聞きたくないっ!」
どうしてみんな、そんなひどい事を言うの?
私はこんなにひどい事を言われるくらい、悪い事をしたの?
それとも、生まれてきた事が罪なの?
私は、生まれてこなければ良かったの?
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