西園寺家の末娘

明衣令央

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第5章:闇

17・再会

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 初めて優介さんと思われる男の人に会ってから、三日後の土曜日の午後――私は一人、公園のベンチでため息をついていた。
 土曜日だから、今日の授業は午前中で終わりだった。
 その後、他のみんなは妖気浄化に向かったけれど、まだ訓練を止められている私は、一人だけ帰って来たのだ。
 帰り間際、「また休み? 西園寺家の方は、お気楽でいいわね」なんて、呆れたように真紀ちゃんに言われ、渚ちゃんには冷たい視線を向けられた。
 その後、茉莉花や厚くん、武くんが気にするなって声をかけてくれたけれど、やっぱり気になっちゃうんだよね。
 そして、今は帰り道にある公園で、一人反省会中、というわけだ。

 私はね、お気楽なんじゃないんだよ、真紀ちゃん!
 本当は、妖気浄化訓練をしに行きたいの!
 だけどそれを、まだ大樹さんから止められているわけなのよ!
 毎日大樹さんに、もう妖気浄化訓練に行ってもいいですよねって聞いてはいるんだけど、そのたびに大樹さんに駄目って言われるの!
 だから行きたくてもいけないんだよ!
 絶対にお気楽なんかじゃないんだから!

 だけど、そういうのは多分わかってもらえないんだよね。
 今の真紀ちゃんは、私の言葉なんて聞くつもりはないだろうから。

「上手くいかないなぁ~」

 深いため息をついて俯いた時、じゃり、という砂を踏む音がした。
 なんとなく視線を感じたのもあって顔を上げると、目の端に誰かが映ったような気がした。
 だけどその誰かはすぐに私の視界から消えようとするから、私は逃すまいと立ち上がる。

「あの、待ってください!」

 声をかけると、彼――三日前に会った男の人は、びくりと体を震わせて立ち止まった。

「あの、あなたは、西園寺優介さんですよねっ」

 と聞くと、違う、と彼は首を横に振った。
 正体はとっくの昔にバレているんだぞ、と思ったけれど、彼は違う違うと首を横に振り、私を無視してどこかに行こうとする。
 これだけ否定されると、ちょっと悲しくなった。
 この人が優介さんではなく別人だという可能性は、低いはずだ。
 それなら考えられるのは、彼が私と話をしたくないという事――つまり、麗華さんのように、私の事を嫌っているという事だ。
 悲しいなぁ、と思いながら、私は彼を追いかけようとするのをやめた。

「私みたいな子とは、話したくないって事ですよね。興味がないって事ですよね。あなたも、麗華さんみたいに、私の事が嫌いって事ですよねっ」

 私はそう言うと、再びベンチに腰を下ろした。
 悲しくなったら涙が零れてきてしまい、それを見られたくなくて俯く。
 私と話す気がないなら、興味がないなら、私の事が嫌いなら、どうしてこの人は、私の前に現れたんだろう。
 しかも、この人は、この間、私を気遣うような事まで言ってくれているのだ。

 無視するくらいなら、話しかけなければいいのに。
 期待させるような事を、言わなければいいのに。

 期待するなよ、と言うちい兄の言葉を思い出した。
 私は大樹さんや茉莉花の言葉に、優介さんへの期待を膨らませてしまったけれど、正しかったのは、ちい兄だったと言う事だ。

「私の事が嫌いなら、興味ないなら、私の前に現れなかったら良かったじゃないっ!」

 俯いたまま叫ぶようにそう言うと、顔を覆って泣いた。
 すると、じゃり、じゃり、という砂を踏む音が近づいて来て、私の前で止まる。

「ご、ごめんね、小花ちゃんっ……泣かないで?」

 優しい声が聞こえて顔を上げると、目の前には私の前でしゃがみ込んだ優しそうな男の人が居た。
 彼は心配そうに私を見つめ、目を潤ませながら、ごめんね、ごめんね、と繰り返す。

「ごめんね、小花ちゃん……。妹を泣かせるなんて、やっぱり僕は、頼りない駄目なお兄ちゃんだね」

 彼は――優介さんはそう言うと苦笑して、もう一度私に、ごめんね、と謝った。

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