西園寺家の末娘

明衣令央

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第5章:闇

14・謎の青年

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 嫌な夢を見て早く目が覚めてしまった私は、いつもと同じように、朝練に行く時間に家を出た。
 おじいちゃんもおばあちゃんも叔父さんたちも、いつもの通り笑顔で私を送り出してくれた。
 だから、あれはただの夢なのだと自分にそう言い聞かせて、私は朝練に行く事にした。
 大樹さんからは、しばらくの間は妖滅の訓練を休むようにと言われていたけれど、昨日訓練できなかった分を取り戻したい。

「あ、あの、こ、小花ちゃん」

 私がその人に声をかけられたのは、家と周央学園の間にある公園のところだった。

「はい?」

 この人は一体誰だろう、と私は自分の記憶を探る。
 だけど全く思い出せなくて、だから初めて会った人のはずだと結論を出した。
 私に声をかけてきたのは、茶色の髪をした、細くてとても整った綺麗な顔をしている男の人だった。
 どことなく、叔父さんに似ているような気がするなぁ……なんて考えていると、彼は私の顔を見つめ、言った。

「小花ちゃん、大丈夫?」

「え? ど、どうしてですか?」

「小花ちゃん……暗い表情をしてる……体調も悪そうだ……。あまり眠れなかったのかな?」

 ずばり言い当てられて、驚いた。
 そんな私を優しい目で見つめ、彼は続けた。

「あのね、もしも小花ちゃんが今から妖滅フロアに向かおうとしているのなら……行っちゃいけない。あそこは、心が弱っている時には、絶対に行ってはいけない場所なんだ」

「え?」

 どうしてこの人は、私が妖滅フロアに向かおうとしている事を、知っているのだろう。

「あの、あなたは、どなたですか?」

「僕は……」

 男の人は、悲しそうな表情をすると、俯いてしまった。

「僕の事は、どうでもいいんだ……。とにかく、小花ちゃんはしばらくの間は、妖滅フロアに行っちゃいけないよ。わかったね?」

 男の人はそれだけ言うと、逃げるように走っていってしまった。
 後を追いかけようかと思ったけれど、私は遠ざかる彼の背中を見送った。
 あの人は一体誰なのだろう?
 妖滅の事を知っているから、あの男の人は四家の関係者なのだろうか。
 もしかして、という気持ちはあるけれど、それが正解なのかどうかは、今の私にはわからなかった。

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