西園寺家の末娘

明衣令央

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第5章:闇

13・良くない夢

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 夢を見ている、と思った。
 私がいつも夢を見る時は、夢だ、と思ったら、そろそろ目が覚めるものなのだけど、今日は夢だとわかったのだから、早く覚めてほしいと思わずにはいられなかった。
 それは、何故か――夢にでてきたのが、昨日初めて会ったお姉さん――麗華さんだったからだ。

『あんたなんて生まれてこなければ良かったのよ! あんたを産んだから、お母さんは死んじゃったのよ!』

 そう言った麗華さんが、きつい眼差しで私を睨みつける。
 私は夢の中で、やめて、やめて、と何度も叫んだ。
 だって、麗華さんの顔は、写真でしか知らないお母さんにそっくりなのだ。
 言っているのは麗華さんだけど、まるでお母さんに言われている気分になってしまって、とても悲しい。
 こんな夢、嫌だ。辛すぎる。お願いだから、早く覚めて。

『あなたを産んだから、私は死んだのよ』

 麗華さんの顔つきが、少し落ち着いて大人っぽくなった。
 麗華さん? ううん、違う。
 私を産んだって言ったって事は、あれは、お母さんだ。
 だって、お母さんの隣には、今よりもだいぶ若いおじいちゃん、おばあちゃん、そして叔父さんがいる。

『お前が生まれたせいで、美華は死んだんじゃ』

『美華は、まだ二十二歳だったのに、お前を産んだせいで』

『僕の自慢の姉さんを返してくれ』

 おじいちゃん、おばあちゃん、叔父さんは、そう言いながら私に詰め寄った。
 嘘だ、これは、夢なんだ。
 だって、私を育ててくれたおじいちゃんたちが、こんなひどい事を言うはずがないもの。
 だけど、絶対にあり得ない事だとも、私は思えなくなっていた。
 口に、態度に出さないだけで、みんなはそう思っているのかもしれないのだ。

『そうだ、お前が生まれたから、母さんは死んでしまったんだ。母さんさえ居てくれれば、俺たちはいがみ合う事もなく、西園寺で幸せに暮らせたんだ……。お前が、お前が生まれたせいでっ』

 最後にちい兄が現れて、私を指差し、言った。
 私を気遣ってくれたちい兄が、こんな事を言うはずがない。
 そう思いたいのに、そう思い切れない自分が嫌だった。

「もう、お願いだから、やめてーっ!」

 私は絶叫し、目を覚ました。





「夢だ、夢、夢、だっ!」

 夢で良かったと、私は泣きながら自分で自分を抱きしめた。
 あれが夢でなく現実だったら、耐えられる気がしない。
 おじいちゃんに、おばあちゃんに、叔父さんに、そしてちい兄に、あの夢のように生まれてきた事を責められたら、私はこれから生きていける気がしなかった。
 あれは夢なのだから大丈夫だと、自分で自分を抱きしめながら、何度も繰り返す。
 だけど、もしもおじいちゃんたちが口や態度に出さないだけで、私の事をあの夢のように思っていたとしたら――。

「私が生まれてこなければ良かったのなら、どうして私は生まれたの?」

 私は自分を抱きしめながら、声を殺して泣いた。

 私は、生まれてきてはいけなかった人間なのだろうか。

 その事は私の胸の奥に、取れない棘のように深く突き刺さった。

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