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第5章:闇
12・千隼の考え
しおりを挟む今日はもう訓練をせずに帰る事になった私を、ちい兄が家まで送ってくれる事になった。
明日からはしばらく、妖気浄化の訓練をしないようにと言う大樹さんたちに見送られ、私はちい兄と一緒に学校を後にした。
「ちい兄、忙しいのに、ごめんね」
ちい兄は西園寺家の跡取りとして、少しでも多くの妖気浄化を行わなければならないはずだ。
それなのに私のせいで時間を取られてしまったと思い謝ると、
「馬鹿、いいんだよ、そんなの。他家からの嫌味は聞き慣れてるし、今はお前の方が心配だ。それに……」
「それに?」
「多分俺も、今日は妖気浄化をしない方がいいんだ。麗華のせいで、めちゃくちゃムカついてるからな。あいつら、俺を気遣って外に連れ出してくれたんだよ」
確かにそうかもしれない、と私は納得した。
麗華さんの私への態度で、ちい兄はかなり怒っていたから。
「四家の人たち、みんないい人だよね。とても仲が悪いように思えない」
ぽつり呟くように言うと、そうだな、とちい兄は頷いた。
「俊秀や大樹はわかるけど、将成や蘭華までが気遣ってくれるとは思わなかった。お前が来てから、なんとなくだけど、みんな変わったような気がする……」
「そうなの?」
あぁ、とちい兄は頷いた。
私が入学してくる前は、大樹さんは我関せずという感じで、蘭華さんは基本的に西園寺家の事を無視、将成さんはいつも威圧的な態度だったらしい。
大樹さんも蘭華さんも将成さんも、みんな優しいから、私はちい兄の話が信じられなかった。
「なぁ、小花……」
「何?」
「麗華の事、ごめんな……。俺さ、あいつがお前に会いに来る事なんて、絶対にないと思っていたんだ。だからあいつらの事をお前に教えなかった。でも、先に言っておいた方が良かったのかもな。嫌な想いをさせちまってごめんな。あんな奴が姉ちゃんで、がっかりしたろ? あいつ、最低だよな」
そう言ったちい兄に、私は首を横に振った。
確かに生まれて来なければ良かったのになんて言われて、ショックではあったけれど、麗華さん側の話を聞くと、仕方ないのかなって思うところもあるのだ。
「さっき将成が、麗華が努力したって言ってただろ。確かに努力と言えばそうなのかもしれない。でも俺の目には、あいつが双子の兄貴の足を引っ張って、蹴落とそうとしたとしか思えなかった。まぁ、それだけ麗華が必死だったって事なんだろうけど」
西園寺のおじいさんは、麗華さんのその姿を見て、そして簡単に双子の妹に足を引っ張られる優介さんを見て、呆れてしまったらしい。
だから、私と一緒に真中家で育ったちい兄が、跡取りとしての教育を受けるために、西園寺家へ呼ばれたのだと続ける。
「西園寺のじいさんが俺に言った事は、俺が西園寺家で自由に過ごしたければ、この家の跡取りになるしかないという事だった。あと、狙われているのが真中のじいちゃんたちだっていう話だから、もうやるしかねぇって思ったのもある。正直な話、俺はまだ妖滅の腕では麗華に劣るだろうけど、それでもあいつよりは自分はマシな人間のはずと思ってる。本当は西園寺なんか継ぎたくねぇけど、麗華に無茶苦茶にされて真中のみんなやお前が危ない目に遭う可能性が出てくるくらいなら、俺が西園寺を継ごうと思ったんだ」
ちい兄の気持ちや西園寺側の話を聞いて、私は今まで自分が何も知らなかった事を、申し訳なく思ってしまった。
ちい兄は私に何も知らせたくなかったみたいだけど、私は今回の件で、いろいろと西園寺家の事を知る事ができて、良かったと思ってる。
まぁ、お姉さん――麗華さんには、思い切り嫌われているけど、ね。
麗華さんは、私のせいでお母さんが亡くなった事も、私だけが何も知らずに真中家でのうのうと育ってきた事も、全てが気に入らないのだろう。
それに、もう一人のお兄さん――優介さんも、私の事を嫌っているんじゃないかなと思う。
それを口にすると、ちい兄はわからないと首を横に振った。
麗華さんは時折感情をぶつけてくるけれど、優介さんは大人しい性格のようで、ちい兄に何かを言ってくるという事はなく、何を考えているのかわからないのだそうだ。
「でも、優介は俺よりも弱いし、麗華の言いなりになっている弱い兄貴だ。あいつが小花の事をどう思っているかはわからないけれど、あいつにも期待しない方がいいと思うぜ」
「そう……」
自分よりも弱いから、麗華さんの言いなりだから、優介さんは情けない兄という事らしい。
私は実際に会った事がないからまだなんとも言えないけれど、優介さんという人は、もしかすると名前の通り、とても優しい人なんじゃないかと思った。
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