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第5章:闇
7・麗華
しおりを挟む「ねぇ、賢、答えてよ。あなたはこういう子が好きなの? それとも、この子の事が好きなの?」
女の人は私を指さし、賢さんに問う。
賢さんは彼女の登場にとても驚いているようで、彼女の顔を見たまま、固まっていた。
同じように驚いているのはちい兄もで、彼女に向かって、
「お前、どうしてここに……」
と呟くように言い、ちい兄の後ろでは、七海さんと渚ちゃんが片膝をついていた。
「お、珍しい顔だな。俺に会いに来たのか?」
将成さんが声をかけてきたけれど、女の人は将成さんを振り返ると、
「馬鹿な事を言わないで! そんなはずないでしょ!」
と言い放った。
そんな彼女を見て、将成さんは少し肩を落としたように見えた。
もしかして、だけど、ちょっとがっかりした感じ?
「では、何をしに、ここに?」
次に聞いたのは、蘭華さんだった。
蘭華さんは隣に茉莉花、後ろに明奈さんと厚くんを従え、腕を組み女の人に問いを重ねる。
「この場所は、妖気浄化を行う場所……。ここから逃げたあなたが再びここに来るなんて……もう一度妖気浄化を行いに来た、という事ですか?」
「それは……」
まっすぐに見つめる蘭華さんの視線から逃れるように、女の人は蘭華さんから顔をそむけた。
そんな女の人を見て、蘭華さんは深い息をつく。
「ここは、妖気浄化を行う危険な場所ですわ。まさか、遊びに来た、なんて事はないでしょうね?」
「まぁ、いいではないか、蘭華。そんなに追い詰めてやるな。なぁ、麗華、お前は小花に会いに来たのではないか?」
将成さんが、女の人を庇うように言った。
そしてあの女の人の事を――麗華、と呼んだ。
麗華というのが、この女の人の名前なのだろうか。
そうだとしたら、それはちい兄から以前聞いた事があった、お姉さんの名前だった。
「ちい兄、この人って……」
ちい兄を見ると、ちい兄は、あぁ、と頷いた。
「こいつの名前は、麗華、だ。俺とお前の……姉、だ」
「やっぱり、そう、なんだ……」
「小花は、麗華に会うのは、今日が初めてなのか?」
将成さんに聞かれ、私は頷いた。
「そうか。では、初めて姉にあった感想は、どうだ?」
「感想、ですか?」
「あぁ」
感想と言われても、今日初めて会った人だから、よくわからない。
お姉さんだと言われても、お姉さんって呼んでいいのかさえわからない。
ただ、この人――麗華さんは、すごくお母さんに似ていると思った。
昨日おばあちゃんは、私がお母さんに似ているって言っていたけど、麗華さんはもっと似ている……まるで、生き写しだ。
「すごく、お母さんに似てると思います」
思ったままにそう答えると、将成さんは改めて麗華さんの顔を見つめた。
「お前たちの母上は、とても美しい方だったと聞いている。そうか、麗華はそんなにお前たちの母上に、似ているのか……」
「ちょっと、そんなに見ないでよっ!」
将成さんの視線を拒むかのように、麗華さんは手をかざした。
「何故だ? お前はどうせ、俺のものになるというのに」
「え?」
今の将成さんの言葉、どういう意味なんだろう?
私が首を傾げて麗華さんを見つめると、麗華さんは将成さんを鋭い目で睨みつけ、叫ぶように言った。
「私は絶対に、あんたのものになんか、ならないわ! 私が西園寺を継げば、あんたのところになんか、行かずに済むもの!」
「おいおい、お前、今さらそんな事ができるとでも思っているのか? 西園寺を継ぐのは、千隼だろう。そんな無駄な事を止めて、大人しく自分の運命を受け入れて、俺のものになればいいだろう?」
「絶対に嫌よ! だって私は、あんたの事が大嫌いなんだもの!」
麗華さんはそう言うと、賢さんに駆け寄り、賢さんの腕にしがみついた。
「ねぇ、賢、答えて! あなたはあの子の事が好きなの? さっき、お嫁さんにしたいって言ってたわよね? あなたは、あの子の事が好きなの?」
「麗華姫……」
腕にしがみつかれた賢さんは、困ったように麗華さんを見つめた。
麗華さんと賢さんと将成さん、この三人は、一体どんな関係なんだろう?
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