61 / 108
第5章:闇
3・見えていない
しおりを挟む「西だけでなく、南まで……他家の力を借りるなど、あなたたち、四家の者として、恥ずかしくないんですか?」
大樹さんが席を外した時の事――妖滅室を出た私と茉莉花に近づいてきた真紀ちゃんが言った。
「まだ二人でレベル1の妖気浄化? 遊びでやってるんじゃないのよ? あなたたち二人がどれだけ大樹様に迷惑をかけているか、わかっているの?」
冷たい眼差しが私と茉莉花に向けられる。
私はふと、真紀ちゃんは大樹さんの何を見て言っているのだろうと思った。
大樹さんは、私と茉莉花のコーチをするのを、嫌がってなんかいないのに。
もしかすると、今の真紀ちゃんには、大樹さんの事が見えていないのかもしれない。
同じ事を茉莉花も思ったようだった。
茉莉花は今までとは違い、真紀ちゃんの冷たい眼差しをまっすぐに受け止め、言った。
「わたくし、大樹様には感謝していますわ。あの方はわたくしと小花に、四家の力の使い方を、とてもわかりやすく丁寧に教えてくださいます。あの方は、とても良い方ですわ」
茉莉花の言葉を聞いて、真紀ちゃんは当たり前だと吐き捨てるように言った。
「そうよ! 大樹様は、素晴らしい方よ! なのにあんたたちのせいで、本当に迷惑してらっしゃるわ! いい加減にしてよ!」
「そうですわね、素晴らしい方ですわ。そして、真紀さん……あなたが大樹様をとても尊敬されているのが、わかります。だけど、あなたにはあの方の事がちゃんと見えていませんのね」
「なんですって?」
茉莉花の言葉に、真紀ちゃんは明らかに怒ったようで、すごい形相で茉莉花を睨みつける。
だけど茉莉花はそんな真紀ちゃんの視線も受け止め、言った。
「大樹様がわたくしと小花にコーチをしてくださるのは、あの方自身のご意思ですわ。そして大樹様は、仲が悪い四家同士が連携できれば良いとお考えなのです。そのために、小花とわたくしのコーチもしてくださっているのですわ」
茉莉花がそう言うと、真紀ちゃんは言葉に詰まったようだった。
真紀ちゃんも本当は大樹さんの事をちゃんと見ていて、その通りだったから反論できなかったのかもしれない。
「真紀、いい加減にしなさいっ!」
亜紀さんが飛び出してきて、ぱしんと真紀ちゃんの頬を叩く。
真紀ちゃんは殴られた頬を押さえながら私を睨みつけると、
「あんたさえ、周央学園に来なければ!」
と言って、妖滅フロアを飛び出して行った。
「あの、小花様、茉莉花様っ! 真紀が、真紀が、申し訳ありません! 申しわけありませんっ!」
亜紀さんは私と茉莉花、それから私たちの周りに居る人たちに向かって泣きながら頭を下げると、もう耐えられなくなったのか、真紀ちゃんを追って妖滅フロアを飛び出して行った。
私と茉莉花の周りには、大樹さんは席を外していなかったけれど、大樹さん以外の四家の人たちと、賢さんが居たのだ。
「茉莉花、強くなりましたね。わたくしは、あなたの成長をとても嬉しく思いますわ」
蘭華さんは嬉しそうに茉莉花を見つめ、
「おいおい、小花、お前らどうなってるんだ?」
と、事情を知らないちい兄は驚き、
「おい、裏東、あの分家の娘は一体何を考えているんだ! 今の言動、分家の立場で、許されるべき事ではないぞ!」
「本当だぜ。今のはちょっと……ヤバくないか?」
将成さんは呆れたように、俊秀さんは心配そうに言った。
名前を呼ばれた賢さんは考え込み、確かに、と頷く。
「確かに、真紀、ちょっとヤバいな」
「裏東、お前、もしかして今回の事、大樹には、まだ言っていないのか?」
「あぁ。だけど、今回はこんだけギャラリーが居る……そろそろ、隠してやれねぇな」
賢さんは私と茉莉花へと目を向けると、ごめんな、と言って苦笑した。
私と茉莉花は大丈夫だと頷いたけれど、真紀ちゃんと、それから亜紀さんの事が心配だった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
朝顔連歌 吉乃井
月岡 朝海
歴史・時代
谷川に代わり筆頭となった吉乃井は、妹女郎・春糸との関係を考え倦ねていた。
それはその眸が、忘れえぬ絵師のものと似ているからかも知れなかった。
三部作の完結編です。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
実家を追放された公爵家長男、荒れ果てた戦地を立て直し領地改革!~弟よ、お前にだけは絶対に負けないからな!~
さとう
ファンタジー
サーサ公爵家長男マサムネ。彼は次期当主の座を巡り弟のタックマンと決闘をするが、あっさりと敗北してしまう。敗北したマサムネを待っていたのは、弟タックマンの提案による領地管理の仕事だった。
だが、その領地は戦争により焼けた大地で、戦争の敗者である亜人たちが住まう、ある意味で最悪の領地だった。マサムネは剣も魔法も何も才能はない。だが、たった一つだけ持つ《スキル》の力で領地管理を行っていくことになる。
これは、実家を追放された公爵家長男が、荒れ果てた大地を豊かにする領地経営……もとい、スローライフな物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる