西園寺家の末娘

明衣令央

文字の大きさ
上 下
60 / 108
第5章:闇

2・小花の武器

しおりを挟む


 茉莉花と一緒の訓練は、まずはレベル1をクリアする事だった。
 レベル1を二人でクリアする事ができれば、今度は一回クリアするごとに二分休憩を入れて、それを三回連続で行っていく。
 短い休憩を挟みながら連続して妖気浄化を行う事で、持久力のアップと自分に合った四家の力の使い方を探す事が目的らしい。
 他のみんな――分家のみんなは、もう一人でレベル2をクリアできるようになっていて、それぞれの兄姉と共にレベル3に挑戦していた。
 つまり、私と茉莉花だけが、分家のみんなに置いて行かれている状態なんだけど、大樹さんは私と茉莉花に、焦るな、と言ってくれた。
本家と分家の霊力の使い方は違うから、まずは本家としての四家の力の使い方を覚える事――それが重要なのだと、繰り返し言ってくれた。

「小花の得物は、鉄扇ですのね」

 私が持っている黒い扇子を見て、茉莉花が言った。

「うん。大樹さんが私のために選んでくれたんだ。これなら刃物もついていないし、間違って自分で自分を傷つけちゃうって事もないだろうから、ちい兄だって文句はないだろうって」

 私が大樹さんからもらった鉄扇は、普通の扇子よりだいぶ大きくて、三十センチくらいある。
 他の武器と同じように、霊力を通しやすい特殊な鉄でできていて、これで叩いたら結構痛い。
 扇子の紙の部分は特殊な術で作られた和紙でできているらしく、水に濡れても破れる事はなくて、大樹さんからのアドバイスで、私はこの鉄扇を聖水で濡らして使っていた。
 西園寺家の力は、水の力。
 聖水を使えば、私の霊力がより高まるだろうとの事だ。
 だけど私は、この鉄扇も西園寺家の水の力も、上手く使えないでいた。

「今の私って、ただ聖水で濡らした鉄扇を、振り回しているだけだよね。水鉄砲を使ってた時みたいに、妖気浄化はできてはいるけれど、妖気を浄化しているというよりも、扇いでいるだけなんじゃないかって思う……」

 ぽつりと呟くと、まぁ確かに、と茉莉花は頷いた。

「だけど、最初はそれで良いと思います。振り回しているうちに、イメージを掴む事ができるのではないでしょうか」

「そうかな」

「はい、そうですわ。例えば、わたくしやお姉様は、弓を使っておりますでしょ? だけど、矢はないのです。矢は、己の霊力で創り、放つのですわ」

 茉莉花の言葉を聞いて、私は蘭華さんの妖気浄化を思い出した。
 手にした弓が炎を纏い、炎の矢が妖気を、暗闇を燃やし尽くす。

「矢と言っても、私はなかなかイメージ通りの炎の矢を創ることができません。もっと細くて撃ちやすく、威力があるものを創りたいのに、矢の形状を保つ事もできない矢ばっかり創ってしまいます……。おまけに、変な方向に飛んで行ってしまうし……」

 確かに茉莉花の創る炎の矢は、長かったり短かったり、サイズがバラバラだ。
 しかも、思った通りの方角に飛んでいかなくて……どうやら茉莉花は、ノーコンのようだった。

「わたくしの課題は、確かに大樹様がおっしゃったように、集中力ですわね。放ちやすい威力のある炎の矢を創るためにもと、正しい方向へと飛ばすためにも、必要なものですわ」

 炎が燃やすのなら、水は何だろう?
 どんなふうに、水の力を使えばいいだろう?
 ぶん、と広げた鉄扇を振るうと、水滴が飛び散った。
 濡らしているから水滴が飛ぶのは当たり前だけど、この水滴にもっと霊力を込める事ができたら、もっと妖気を浄化できるんじゃないかと思った。

「なんとなく、イメージ、掴めたかも!」

「本当ですの?」

「うん、掴めたような気がする! 今思いついた事、やってみたい! 茉莉花、付き合ってくれる?」

「もちろんですわ!」

 私は鉄扇を聖水で濡らすと、貴美さんにお願いしますと声をかけた。
 そして、放出された妖気に向かって、妖気を浄化するイメージと持ち続けたまま鉄扇を振るい、水滴を飛ばす。

「やりましたわね、小花、できていますわ!」

 茉莉花が嬉しそうに声を上げた。
 ただ聖水で濡らした鉄扇を振り回していた先程までと違い、今の私が飛ばした水滴は、多くの妖気をかき消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。 王子が主人公のお話です。 番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。 本編を読まなくてもわかるお話です。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...