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第5章:闇
2・小花の武器
しおりを挟む茉莉花と一緒の訓練は、まずはレベル1をクリアする事だった。
レベル1を二人でクリアする事ができれば、今度は一回クリアするごとに二分休憩を入れて、それを三回連続で行っていく。
短い休憩を挟みながら連続して妖気浄化を行う事で、持久力のアップと自分に合った四家の力の使い方を探す事が目的らしい。
他のみんな――分家のみんなは、もう一人でレベル2をクリアできるようになっていて、それぞれの兄姉と共にレベル3に挑戦していた。
つまり、私と茉莉花だけが、分家のみんなに置いて行かれている状態なんだけど、大樹さんは私と茉莉花に、焦るな、と言ってくれた。
本家と分家の霊力の使い方は違うから、まずは本家としての四家の力の使い方を覚える事――それが重要なのだと、繰り返し言ってくれた。
「小花の得物は、鉄扇ですのね」
私が持っている黒い扇子を見て、茉莉花が言った。
「うん。大樹さんが私のために選んでくれたんだ。これなら刃物もついていないし、間違って自分で自分を傷つけちゃうって事もないだろうから、ちい兄だって文句はないだろうって」
私が大樹さんからもらった鉄扇は、普通の扇子よりだいぶ大きくて、三十センチくらいある。
他の武器と同じように、霊力を通しやすい特殊な鉄でできていて、これで叩いたら結構痛い。
扇子の紙の部分は特殊な術で作られた和紙でできているらしく、水に濡れても破れる事はなくて、大樹さんからのアドバイスで、私はこの鉄扇を聖水で濡らして使っていた。
西園寺家の力は、水の力。
聖水を使えば、私の霊力がより高まるだろうとの事だ。
だけど私は、この鉄扇も西園寺家の水の力も、上手く使えないでいた。
「今の私って、ただ聖水で濡らした鉄扇を、振り回しているだけだよね。水鉄砲を使ってた時みたいに、妖気浄化はできてはいるけれど、妖気を浄化しているというよりも、扇いでいるだけなんじゃないかって思う……」
ぽつりと呟くと、まぁ確かに、と茉莉花は頷いた。
「だけど、最初はそれで良いと思います。振り回しているうちに、イメージを掴む事ができるのではないでしょうか」
「そうかな」
「はい、そうですわ。例えば、わたくしやお姉様は、弓を使っておりますでしょ? だけど、矢はないのです。矢は、己の霊力で創り、放つのですわ」
茉莉花の言葉を聞いて、私は蘭華さんの妖気浄化を思い出した。
手にした弓が炎を纏い、炎の矢が妖気を、暗闇を燃やし尽くす。
「矢と言っても、私はなかなかイメージ通りの炎の矢を創ることができません。もっと細くて撃ちやすく、威力があるものを創りたいのに、矢の形状を保つ事もできない矢ばっかり創ってしまいます……。おまけに、変な方向に飛んで行ってしまうし……」
確かに茉莉花の創る炎の矢は、長かったり短かったり、サイズがバラバラだ。
しかも、思った通りの方角に飛んでいかなくて……どうやら茉莉花は、ノーコンのようだった。
「わたくしの課題は、確かに大樹様がおっしゃったように、集中力ですわね。放ちやすい威力のある炎の矢を創るためにもと、正しい方向へと飛ばすためにも、必要なものですわ」
炎が燃やすのなら、水は何だろう?
どんなふうに、水の力を使えばいいだろう?
ぶん、と広げた鉄扇を振るうと、水滴が飛び散った。
濡らしているから水滴が飛ぶのは当たり前だけど、この水滴にもっと霊力を込める事ができたら、もっと妖気を浄化できるんじゃないかと思った。
「なんとなく、イメージ、掴めたかも!」
「本当ですの?」
「うん、掴めたような気がする! 今思いついた事、やってみたい! 茉莉花、付き合ってくれる?」
「もちろんですわ!」
私は鉄扇を聖水で濡らすと、貴美さんにお願いしますと声をかけた。
そして、放出された妖気に向かって、妖気を浄化するイメージと持ち続けたまま鉄扇を振るい、水滴を飛ばす。
「やりましたわね、小花、できていますわ!」
茉莉花が嬉しそうに声を上げた。
ただ聖水で濡らした鉄扇を振り回していた先程までと違い、今の私が飛ばした水滴は、多くの妖気をかき消した。
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