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第4章:不協和音
7・友達の家
しおりを挟む「あぁ、そうなるかも……この間の特別授業で、名前出てたもんね。あの授業で名前が出てたうちが、ここだよ」
私がそう言うと、茉莉花ちゃんは真っ赤になって、それから豪快に頭を下げ、自己紹介を始めた。
「わ、わ、わ、わたくしはぁ、み、み、南京極、ま、茉莉花と申しますうううっ! お、お、お会いできて、こ、光栄でございますううっ!」
「ちょ、ちょっと、茉莉花ちゃんっ! いきなり、どうしたの?」
声をかけると、茉莉花ちゃんは真っ赤になったまま私を見、続ける。
「だ、だって、ま、真中様は、わ、わたくしたちが守るべきお方なのですよっ! わたくしたち四家ごときが会えるようなお方ではないと、父やおじい様から聞いておりますっ!」
「え? 何それ? ここ、普通の定食屋だよ?」
一体どういう事だろう?
首を傾げると、おじいちゃんと叔父さんが、深いため息をついた。
「茉莉花ちゃんや、それ、気にせんでも構わんよ。小花も言ったが、ここは普通の定食屋じゃ。いつでも遊びに来てくれたらいいし、食べに来てくれたらいい」
「そうそう、本当に、ここは普通の定食屋だからね。あ、父さん、そろそろ準備しないと、お客さんが来ちゃう」
「そうじゃな。小花、茉莉花ちゃんと部屋に行け。茉莉花ちゃん、ゆっくりしていきなさい。これからも、小花をよろしく頼むな」
私は時計を見て、頷いた。
定食屋まなかの営業は十一時からだし、おじいちゃんたちは開店準備に忙しいのだ。
「わかった、じゃあ、茉莉花ちゃん、行こう」
「え? え?」
私はまだ混乱しているらしい茉莉花ちゃんを促し、三階の自分の部屋へと向かった。
「え? ま、真中様のおうち? え?」
「まぁ、お座りなさいな、茉莉花ちゃん。それから、落ち着いて」
部屋にあるローテーブルの前に座布団を置いて、茉莉花ちゃんを座らせてから、私は彼女に大丈夫かと聞いてみた。
「大丈夫って……あ……」
茉莉花ちゃんは大丈夫かと問われた意味に気付き、まぁ、と頷いた。
どうやら、学校でのショックな出来事が、真中様のおうちに招待され、真中様たちと話をした事で、上書きされてしまったらしかった。
行くところがないから家に戻って来ただけなんだけど、ここに連れて来て良かったのかもしれない。
「ここ、私が育った家だよ。私は真中のこの家で、さっきのおじいちゃんたちに育てられたの。周央学園では、真中は守るべき者って言われてびっくりしたけれど、おじいちゃんたちは自分たちをただの庶民だって思ってるし、特別扱いされるのは嫌だと思う。だから、普通にしてくれたらいいんだよ」
「あの、でも、普通って、どのようにしたらいいんですの? その……今まで友達が居なかったわたくしには、よくわからないのですわ」
確かに茉莉花ちゃんの言う通りかもしれない、と私は思った。
私も、普通ってなんだっけと考える。
周央学園に通い出してからの非現実のおかげで、私の感覚も少しおかしくなっているのかもしれなかった。
「それは……そうだなぁ、おじいちゃんたちは真中様じゃなくって、茉莉花ちゃんの友達の小花の家族、って事だよ。そう、友達のおじいちゃんとおばあちゃんと、叔父さんと叔母さんと、従弟って事だよ! それが、普通だよ」
そう、それが普通、だと思う。
茉莉花ちゃんは、畏れ多い、なんて言っていたけれど、私は必死に言い聞かせた。
今の茉莉花ちゃんは、友達の家に遊びに来たただの女の子で、友達の家族を紹介されただけなんだって。
茉莉花ちゃんに言い聞かせながら、私はある事に気が付いた。
「そう言えば、私、友達を家に連れて来たのって、初めてだ」
「え? そうなんですの?」
「うん。ほら、うちってさ、お店でしょ? だから、友達とはだいたい外で遊んでたの。だから、友達をこの部屋にお招きしたのは、茉莉花ちゃんが初めてだ」
私がそう言うと、茉莉花ちゃんは、ぱぁ、と表情を輝かせた。
ものすごく嬉しそうにしてもらえて、私も嬉しい。
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