西園寺家の末娘

明衣令央

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第4章:不協和音

5・人生初サボり

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 チャイムの音が聞こえてきて、私たちが教室を飛び出してから、一時間くらい経過した事がわかった。
 茉莉花ちゃんはだいぶ落ち着いてくれたけれど、私はあの教室に戻る気がしなくて、茉莉花ちゃんに一つ提案をした。

「ねぇ、茉莉花ちゃん。今日は学校、一緒にサボっちゃおう!」

 私がそう言うと、茉莉花ちゃんは不思議そうな表情で、くい、と首を傾げた。

「え? サボる、とは?」

「授業に出ずに、どっか行っちゃおうって事だよ! 私、人生初サボりだよ!」

「え? な、何を言っていますの? だ、駄目ですわ、そんな悪い事をしてはいけませんわ! お父様やお母様、お姉様にも叱られてしまいますわ!」

 優等生のお嬢様の茉莉花ちゃんは、ぶんぶんぶん、と激しく首を横に振った。

「じゃあ、茉莉花ちゃんは、今からあの教室に戻れるの?」

「そ、それはっ……」

 茉莉花ちゃんは言葉に詰まり、俯いてしまった。
 サボる事が悪い事だとわかってはいるけれど、教室にはやっぱり戻りづらいらしい。

「それに、もうすでに私たち、授業を一時間はサボっちゃってる状態だし」

「た、確かに、そうかもしれませんわねっ!」

 姿を現さなくても、近くに厚くんが居るだろうから、今の状況はわかってくれているのだろうけど、私は持ってきたスマホを取り出し、亘先生に連絡をした。

『小花、どこに居るんだい? 茉莉花と一緒に、早く戻っておいで。みんな、二人が戻って来るのを待っているよ』

 亘先生は優しい声でそう言ってくれたけど、私も茉莉花ちゃんも、素直にそれを信じる事はできなかった。
 全くの偽りではないのだろうけど、やっぱり戻るにはもう少し時間がほしい。

「亘先生、私と茉莉花ちゃん、今日、学校をサボります!」

『は? 何言ってるの? ちょっと、小花? おいっ!』

 亘先生が何かを言いかけたけれど、私は無視して電話を切った。
 教師相手に堂々とサボる宣言した私を、茉莉花ちゃんは少し心配そうに見つめる。

「叱られないでしょうか?」

「叱られるかもしれないけど、まだ戻りたくないし、後から大人しく叱られる事にしようかなと……。茉莉花ちゃんは、私が無理矢理サボらせたって事にするから」

 茉莉花ちゃんは最初、サボろうって誘ってもダメって言っていたから……なるべく叱られないようにしてあげたい。
 だから、悪いのは全部私って事にしようと提案をしたんだけど、

「小花、それはいけませんわ」

 と、茉莉花ちゃんは首を横に振り、言った。

「小花、わたくしも、小花と一緒に、後から叱られる事にしますわ。だって、わたくしたちは、友達なのですから」

 茉莉花ちゃんは真面目な顔でそう言うと、少し考えて、サボり友達ですわね、と言って少し笑った。
 ちょっと元気になってくれたみたいで、良かった。

「ところで小花、わたくしたちはこれから、どうしますの? ずっとここに居るのですか?」

「ううん、移動しようと思ってるよ」

 私たちがどこに行こうと、亘先生には連絡が入っているとは思うけど、さっきの電話の様子だと、まさかこのままサボるとは思ってなかったみたいだから、連れ戻しにくる可能性もあるし、移動した方がいいだろう。

「家に、帰ろうかな……」

「え? 家、ですか?」

 驚く茉莉花ちゃんに私は頷き、茉莉花ちゃんの手を掴むと、

「じゃあ、行こう」

 と言って、歩き出した。

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