西園寺家の末娘

明衣令央

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第3章:四家と妖滅

20・北御門の大地の力

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「小花、うちの兄貴はすごいぞ。と言っても、北御門の大地の力は、南京極家のようにわかりやすくはないんだけどな」

 将成さんが妖滅室に入ると、声をかけてきたのは、将成さんの弟の俊秀さんだった。
 どういう事ですか、と尋ねると、北御門の大地の力は、南京極の炎のように、見えるものではないのだと言う。

「あ、でも、うちの兄貴の場合、見えるっていうか、わかりやすかも」

 俊秀さんは、さっき言った事を、すぐに翻した。それに、大樹さんと賢さんも頷く。
 どういう事なのかわからない私は、首を傾げるばかりだ。

「確かに、北御門の力は南京極の炎ほどわかりやすくない。だけど、将成の場合は、わかりやすい」

「え?」

 言っている意味が、さっぱりわからなかった。わかりやすくないけれど、わかりやすい。それって、どっちなの?

「小花ちゃん、とりあえず、見ればわかるって」

 みんな、そうそう、って頷くけれど、やっぱりよくわからない。結局、見えるのか見えないのか、どっちなのだろう?



 結論から言うと、将成さんの力はわかりやすかった。
 確かに、北御門さんの大地の力は、南京極さんの炎のように、わかりやすいものではないけれど、将成さんの力はとてもわかりやすかった。

 妖気に覆われた真っ暗な妖滅室の中、ぼんやりと金色の光を纏って、将成さんが浮かび上がる。
 見えた、と思った瞬間、将成さんが、

「うおりゃあぁぁぁっ!」

 と雄叫びを上げて、握った拳を前へと突き出した。

「うわっ……え?」

 大きな声に、驚いた。
 でも、もっと驚いたのは、一瞬で妖気が綺麗に消えてしまっていたからだ。
 まるで、将成さんのパワーで消し去ったみたい。

「これが、大地の力?」

「まぁ、そうだな。将成の、大地の力の使い方だ。体内で練り上げた大地の力を、拳や蹴りで放っているんだ」

「へぇ……」

 そしてまた妖気が放出されて暗闇になり、ぼんやりと金色の光を纏って、将成さんが浮かび上がる。将成さんは、今度は鋭く宙を蹴って、黒い妖気を消し去った。

「すごい……」

 将成さんの妖気浄化に圧倒されながらも、私は何かに似ている、と頭の奥の方でぼんやりと思っていた。

「兄貴は、剣道や弓道も、他にもいろんな武術をやったけど、最終的に空手に落ち着いたんだ。兄貴の妖気浄化がすげぇカッコいいからさ、俺も、北の分家も、かなり影響されてる。まぁ、兄貴みたいにはなかなか上手く行かないんだけどな」

 俊秀さんは、将成さんが大好きなんだと、私は思った。
 武器を持たずに体一つで妖気浄化を行う将成さんは、確かに男らしくてカッコいい。
 お兄さんを嬉しそうな表情で見つめているのを見て、私はさっきの茉莉花ちゃんを思い出す。
 きっと、お兄さんやお姉さんと仲良しなんだろうなぁ。すごく微笑ましい。
 まぁ、私もちい兄の事は大好きだし、仲良しだけど。
 あぁ、でも……私にはちい兄の他にもお兄さんと、それからお姉さんが居るんだっけ?
 私やちい兄と違って、西園寺家で育てられた、双子の兄と姉。一体、どんな人たちなんだろう?

「兄貴、お疲れ」

 妖滅室から出てきた将成さんは、全身汗びっしょりだった。
 将成さんは、俊秀さんが投げたタオルを受け取ると、汗を拭い、私を見た。

「おい、西園寺の末娘、どうだった」

 と問われ、私は感想を口にする前に、言った。
 そろそろその呼び方は、やめてもらいたい。

「私は確かに西園寺の末娘かもしれませんが、小花って名前があるんです! そんな呼び方、やめてください!」

 私がそう言うと、将成さんは一瞬首を傾げたが、あぁ、と笑いながら頷いてくれた。

「確かにそうだな。お前には小花という名前がある」

「はい、そうです。なので、おかしな呼び方を止めてもらえると嬉しいです」

「うむ、わかった。今後は俺も、俊秀と同じように小花と呼ぶ事にしよう。可愛らしい名前だな」

 名前を可愛いって言ってもらえたのが、嬉しかった。
 ありがとうございます、と言うと、満足そうに将成さんは頷いた。

「で、どうだった? 俺の妖気浄化を見た感想はあるか?」

「はい! すごかったです!」

 私は、思ったままを言った。

「暗くなったら、ぱっと明るくなって、まるで、電気が消えたり点いたりしているみたいでした」

「は?」

 私の感想を聞いて、将成さんは一瞬固まったけれど、すぐにお腹を抱えて笑い出した。

「うはははは、な、なんだ、その感想は! おかしな事を言うな、お前は!」

「そうだな、小花、お前、めちゃくちゃ面白いな! 本当に可愛いやつだ」

 北御門兄弟、大爆笑。南京極姉妹まで笑ってる。そしてその後ろでは、北御門の分家と南京極家の分家……つまり北見家兄弟と南条家姉弟が、膝をつき俯いたまま、肩を震わせていた。
 これは、多分後から教室でからかわれるパターンだろう。
 思ったままを言っただけなのに、私はそんなに面白い事を言ってしまったのだろうか。
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