西園寺家の末娘

明衣令央

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第3章:四家と妖滅

17・四家と分家

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「大樹様、賢様っ」

 ちい兄との話がつくと、真紀ちゃんがお姉さんの亜紀さんと一緒に、駆け寄ってきた。
 二人は大樹さんと賢さんの前で膝をつくと、深々と頭を下げる。
 まるで家来だ――私はそんな事を思って、四家と分家の関係はそういうものだったと思い出した。
 さっきの渚ちゃんたちもそうだったし。

「大樹様、賢様、おはようございます。大樹様、昨日より真紀もこちらの施設を使えるようになりました。よろしくお願いいたします」

「大樹様、賢様、よろしくお願いいたします。早く東宮司家の手伝いができるよう、頑張ります」

 大樹さんは目の前で膝をつく二人に、

「わかった。励め。だが、無理はするな」

 とだけ言うと、私に目を向けた。小さな声で、「行くぞ」と言った大樹さんは、真紀ちゃんたちを置いて、さっさと歩き始める。
 私は真紀ちゃんに、「また後で」と声だけかけて、大樹さんを追いかけた。

 妖滅フロアには、A班が全員いたけれど、みんな忙しいのか、私に視線を向けてくるのに、近寄って来る事はなかった。
 特別授業の和気あいあいとした雰囲気とは違って、今はどこかピリピリしているように感じる。
 そんな中、声をかけてきたのは茉莉花ちゃんで、茉莉花ちゃんの隣には、彼女に良く似た女の人が居た。茉莉花ちゃんよりも、少し背が高くて、やっぱり縦ロールが似合いそうなゴージャスな雰囲気をしている。
 そして二人のそばには、厚くんとお姉さんが片膝をつき控えていた。
 四家と分家は本来どこもこういう感じなのだと、私は理解した。

「小花! 小花も朝の訓練に来ましたのね!」

「うん、そうなの。茉莉花ちゃんも、朝練来てたんだね」

「えぇ、わたくし、早くお姉様のお手伝いをしたいのです! 小花に私のお姉様を紹介して差し上げますわ! お姉様は、南京極家の跡継ぎですのよ!」

 茉莉花ちゃんはそう言うと、隣に立つお姉さんと思われる女の人を見上げた。

「あなたが、西園寺の末娘?」

「そう、ですけど」

 西園寺の末娘……これ、最初に会った時、茉莉花ちゃんにも言われたなあ。どうしてこんなふうに言われるんだろう?

「西園寺小花です。よろしくお願いいたします」

 とりあえず、名乗ってぺこりとお辞儀をした。
 茉莉花ちゃんのお姉さんは、

「あら、ちゃんと礼儀をご存知ですのね」

 と言って満足そうに頷くと、自分も名乗ってくれた。

「私は、南京極蘭華(みなみきょうごくらんか)ですわ」

 南京極蘭華! さすがは茉莉花ちゃんのお姉さん。すごくゴージャスな名前だと思う。

「お、小花じゃん。来たのか」

 次に声をかけてくれたのは、ちい兄の友達である北御門俊秀さんだった。体格の良い俊秀さんの隣には、さらに体格の良い男の人が居る。そして、その後ろには武くんとお兄さんが片膝をついて控えていた。

「小花、このでかい人、うちの兄貴だ。北御門将成(きたみかどまさなり)っていうんだ」

 そう言った俊秀さんの隣で、お兄さんの秋秀さんは腕を組んで頷いた。

「俺が、北御門将成だ。北御門家の次期当主でもある。お前が、西園寺家の末娘か?」

「そう、ですけど……」

 じろじろと見られ、ちょっと恥ずかしい。
 西園寺家の末娘……今まででこういう聞き方をしてきたのは、最初は茉莉花ちゃん、次が茉莉花ちゃんのお姉さん、そしてこの北御門将成さん。みんな四家の人だ。

「俊秀から聞かされてはいたが、小さいな。本当に、小さい」

「は?」

「お前、小学生か?」

「ち、違います! 私は、高校一年生ですっ!」

 確かに一五三センチしかないから小さいとは思うけど、小学生扱いはないと思う。
 ちらりと俊秀さんに目を向けると、

「でも、小花が小さくて可愛いのは本当の事だしな!」

 と言って楽しそうに大きな声で笑った。
 俊秀さんの隣で、将成さんも楽しそうに、俊秀さんよりも豪快に笑っている。この兄弟、すごく似てる、と私は思った。

「うむ。可愛らしいのは、何よりだ。何故ならお前は将来……」

「え?」

「おい、将成……」

 将成さんが何かを言いかけたけど、それを大樹さんが遮った。

「小花はまだ何も知らない。だから、お前が余計な事を言うな」

「あぁ、そうだな」

 将成さんは頷くと、私を見て、

「すまなかった」

 と謝ったけど、私は将成さんが何を言いかけたのかが気になった。
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