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第3章:四家と妖滅
16・朝練
しおりを挟む翌朝、約束した六時に校門に行くと、大樹さんと賢さんはすでに来て待っていてくれた。
「おはようございます、大樹さん、賢さん」
「あぁ、おはよう、小花」
「おはよう、小花ちゃん。眠くないかい?」
「大丈夫です。早起きは得意ですから! ちなみに、早寝も得意です!」
「そうか、元気がいいのは良い事だな」
目を細めて笑った大樹さんが、私の頭に、ポンと大きな手を置いた。そのまま優しく撫でられて、ちょっと嬉しい。
昨日は落ち込んだけれど、今日からまた頑張ろうって思う。
「小花、昨日、妖滅フロアには、どこから入った?」
「え? 体育館の階段のところからだけど、どうして?」
首を傾げた私に、わかった、と大樹さんは頷いた。
あの妖滅フロアには、体育館から行くものじゃなかったんだろうか。
体育館は……今はまだ閉まっているよね? 職員室に行って、鍵をもらってきた方がいいのだろうか。
そんな事を考えていると、
「小花、入口は、いろいろあるんだ。体育館から行くのは、一応特別授業だという、B組に対するカモフラージュだ。なので、今日は体育館の中からではなく、外から入る」
「え?」
こっちだ、と手招きされるままについていくと、体育館の裏に連れて行かれた。
そして、体育館の裏に一本だけ生えている大きな木に触り、大樹さんは、ここだ、と呟くように言った。
「この木に、パスを当てて入る」
「パスって、学生証だよね」
「あぁ、そうだ。俺たちは、大学の。学校を卒業しても、継続して使えるから」
「そうなんだ……便利だねぇ」
大樹さんは丁寧に、いろんな事を教えてくれた。もしかしなくても、亘先生よりも教え方が上手なのではないだろうか。
「行くぞ、小花」
パスを当てた大樹さんと賢さんに続き、私も木にパスを当てる。
一瞬の、どこかに吸い込まれるような感覚の後、私は妖滅フロアに居た。
「え? 小花?」
妖滅フロアに移動してすぐに、ちい兄の声が聞こえた。振り返ると、汗びっしょりのTシャツ姿のちい兄が居て、驚いたように私を見つめていた。
そして、ちい兄のすぐそばには、渚ちゃんと渚ちゃんのお姉さんが居た。二人はちい兄のそばで、片膝をついていた。
「おはよう、ちい兄! 渚ちゃんも、渚ちゃんのお姉さんも、おはようございます!」
私がそう言うと、渚ちゃんのお姉さんは、「おはようございます、小花様」と言って、膝をついたまま、深くお辞儀をしてくれた。渚ちゃんもお姉さんと同じように、膝をついたまま私のお辞儀をしてくれる。
堅苦しい感じがして、まるで入学した頃に戻ったみたいだと思った。そんなふうにしないでくださいと言いかけたけど、
「おい、小花、お前、なんでここに居るんだ?」
とちい兄に聞かれて、私はちい兄へと目を向けた。
私はその問いにはまだ答えずに、
「ちい兄も、来てたんだね」
って言って、周りを見回す。
どうやらA班は全員集合しているらしい。
「あぁ、俺は毎日来てるんだ」
「そうなの?」
「あぁ」
「ふうん」
頷くちい兄を見て、私もこれから毎朝来ようと、そっと心に誓う。
「で、お前はどうしたんだ? なんでこんな時間にここに居るんだよ」
「なんでって……朝練しようと思って。昨日の感じだと、間違いなくみんなに置いて行かれちゃうって思ったから……」
「朝練?」
「うん。いろいろ教えてくれるっていう、コーチもゲットしたので」
私が隣に立つ大樹さんへと目を向けると、ちい兄は深いため息をついて俯いた。
「おはよう、千隼。小花の事は、危なくないように俺が見ているから安心しろ」
「そうだぜ、千隼。大ちゃんだけじゃなくって、俺も居るから安心しろ」
大樹さんと賢さんを前に、ちい兄は渋い表情をしていた。
そんなに私がここに朝練に来たのが気に入らないのかな?
それとも、私が大樹さんを頼った事が気に入らない?
でも、ちい兄は昨日、霊力コントロールの事を聞いたとき、「感覚かな」って、曖昧な事しか教えてくれなかったし、それって上手く教えられないって事じゃなかったのかな。
「千隼、今のお前に、小花にいろいろと説明できる余裕はあるのか?」
そう言った大樹さんに、ちい兄は首を横に振った。
「確かに、今の俺には余裕無いな。それに、上手く教えられる自信も無い」
「そうか。では、小花の事は、俺に任せてくれないか? 絶対に無理はさせない」
「あぁ、わかった。よろしく頼む」
まだ渋々という感じだったけれど、ちい兄は頷いてくれた。
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