西園寺家の末娘

明衣令央

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第3章:四家と妖滅

9・『定食屋まなか』の始まり

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「そうか、その力のせいで、じいちゃんたちは妖魔に狙われているんだな。俺は、真中は特別とだけ聞かされていたから、詳しい事はわからなかったけど、やっと納得したよ」

「まぁ、こういう力を持つ人間は、周央学園には何人も居るだろうけどね。分家の周央にも引き継がれているし」

 ため息をつくちい兄と叔父さんの会話に、私はついていけなかった。
 ちらりとおじいちゃんへと視線を向けると、おじいちゃんは、

「小花は鈍いのう」

 と優しく笑って、言った。

「小花、真中の者にはな、さっきじいちゃんが見せたような、傷を治す事ができる治癒の力があるんじゃ。真中の者が、なんでこんな力を持っているのかは、知らん。でも、これはご先祖様から受け継がれた力じゃ」

 ご先祖様から受け継がれた、治癒の力……ぽつりと呟くと、うおじいちゃんは、うんうんと頷いた。

「ご先祖様たちは、この不思議な力は人のために使うべきものと考えていたらしい。具体的にどんなふうに使っていたかは知らんが、もしかすると、医者の真似事のような事をしていた時もあったのかもしれん。でも、時代の変化と共に医学が進歩していくと、ご先祖様はこの力を隠すようになったんじゃ。だって、こんな漫画みたいな力、普通では有り得ん力じゃろ?」

「うん」

 確かにこんな不思議な力、普通じゃないと思う。
 だから、ご先祖様たちがこの力を隠したというのは、私でも理解できた。

「やがてな、ご先祖様たちは、この力を使わずに、普通の人間として生きて行く事にしたんじゃ。でも、周りに怪我をした人や元気がない人が居たりすると、やっぱり気になってしまうんじゃな。それでご先祖様は、この力を料理に利用できないかと考えたらしい。不思議な事に、治癒の力を使いながら作った料理には、人を元気にする力があったんじゃ。これが、『定食屋まなか』の始まりというわけじゃな」

 今日は妖滅の授業の事から、驚かされる事ばかりだ。
 真中の者が持つ力から、ご先祖様の事、そしてこの『定食屋まなか』の始まりまで知る事になってしまった。

「じゃあ、おじいちゃんたちは、料理する時、ずっとこの力を使ってるって事? どうやってるの?」

「どうって……包丁を握ってる時とか、お玉でお鍋をかき混ぜている時とか……普通に料理してる時に使ってるぞ」

「知らなかった……」

「別に、改めて言う事でもないじゃろ。じいちゃんたちの料理を食べた人が、美味しかった、元気出た、て思ってくれたらそれでいい事だし。なぁ」

 おじいちゃんはそう言うと、隣に座っている叔父さんを見た。
 叔父さんは、「そうだね」っておじいちゃんに頷くと、今までの話をまとめるように言った。

「まぁ、そういうわけで、こういう不思議な力があるせいで、真中家の者は昔から妖魔に狙われていて、周央が守ってくれているらしいよ」

 なんとなくわかった私は頷いたけど、ここで一つ疑問が出てきた。
 それは、真中の血を受け継ぐ私やちい兄にも、その力があるのかという事だ。

「千隼や小花にこの力があるのかは、まだわからないけれど、この力は真中だけでなく、分家にも受け継がれているから、もしかすると、あるのかもしれないね」

 叔父さんの言葉を聞いて、ちい兄が呟く。

「それ、俺にはないのかもしれない。治癒系は全くと言っていいほど、使えない。西園寺側の血が濃いのかもな」

 ちい兄は少し嫌そうだった。
 真中の力は治癒……じゃあ、西園寺の力は何なのだろう?

「さてと、そろそろ店を開けるか。今日もうちに来るお客さんを、元気にしないといけないからの」

 おじいちゃんはそう言うと、立ち上がって厨房に向かう。
 続いて立ち上がった叔父さんは私を見ると、

「僕も父さんと同じ考えなんだ。真中の当主はみんなこんな感じだからさ、小花はそんなに気に病む事はないんだよ」

 と言って、優しく笑った。


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