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第1章:西園寺家のいらない娘
1・定食屋まなかの看板娘
しおりを挟む「いらっしゃいませぇ」
ガラガラと音を立てて引き戸が開かれ、新しいお客さんが入ってきた。
ここは、『定食屋まなか』という、私の祖父母と叔父夫婦が営んでいる定食屋で、おじいちゃんで五代目、叔父さんで六代目になる。
お店はかなり古くなっているけれど、老若男女、いろんなお客さんに来てもらって、繁盛している方だと思う。
店の近くに高校や大学があるから、学生さんたちにも常連さんが居る。ごはんの大盛りがプラス五十円、特盛がプラス百円でできるのがいいらしい。
私、小花は、昔からこの店の手伝いをしていた。現在、中学三年生だが、小学生の頃から手伝いをしているので、看板娘歴は結構長い。
今年は受験生なのだが、この店を手伝うのが好きだから、受験勉強を行いつつ手伝いを続けている。
幸い、第一希望の自転車で十分の高校は大丈夫だろうとは言われているんだけど、祖父母も叔父夫婦も、私が店に出ると、少し心配そうな表情をする。
「よぉ、小花ちゃん。今日も可愛いねぇ」
「ふふ、賢さん、ありがとう」
そう言って店に入ってきたお客さんは、常連客の賢さんだ。
賢さんは店に来るたびに、私に可愛いって言ってくれる変わった人だ。
彼曰く、女の子に可愛いって言う事は、こんにちはと同じ意味を持っているらしい。
そんなはずないだろうと突っ込みたくなる時もあるけれど、まぁ、可愛いって言われて悪い気はしない。
ただ、それは「可愛い」を言い慣れている賢さんだからこその事で、別の人――例えばとても真面目な性格の人に言われたら、緊張してしまうしドキドキしてしまう。しかも、それがイケメンさんなら尚更だ。
「あぁ、今日の小花も、可愛いな」
「そ、そんなの、言わないでくださいっ」
照れもあってそんなふうに言ってしまった私に、声の主は眉間にしわを寄せた。
「何故、小花はいつも俺が言うと、否定するのだろう。賢には礼を言うのに……解せぬ……」
それは、あなたに言われると、胸がドキドキしてときめいてしまうからです。
そんな本心を口に出さないまま、私は苦笑した。
いつも賢さんと一緒にくるこのお客さんは、大樹さんというらしい。二人は幼馴染で、今は同じ大学に通っているとの事だった。
二人とも百八十センチを超える長身で、モデルみたいにスタイルがいい上、イケメンさんだ。
大樹さんは、物静かで真面目な武士みたいな感じの人で、賢さんは人懐っこいわんぱく小僧がそのまま大人になったような人だ。性格は全然違うのに、賢さんのわんぱくさと明るさに、大樹さんが引っ張られているのかなって思う。
大樹さんの名前を初めて聞いた時、まるで自分の名前の対のような名前で、とても驚いてしまった。
まぁ、私の名前が小さい花で、彼の名前が大きい樹というだけの事なんだけど。
「小花ちゃんに会えるのは嬉しいけどさ、受験生なんだろ? 勉強はいいのかい?」
そう言った賢さんに、私は頷いてブイサインをした。
「担任の先生から、第一志望の学校は大丈夫だろうって言われていますから」
「でもなぁ、賢ちゃん、大ちゃん、小花な、家じゃ全然勉強しないんだよ~。勉強しろって言ってやってくれないか?」
「もう、おじいちゃん! 大丈夫だって先生が言ってるんだからっ!」
塾には通っていないけれど、学校の授業は真面目に受けているし、私の成績は、そんなに悪くない。だから、第一志望の高校は大丈夫だろうって言われているから、本当に大丈夫なんだと思うんだけどなぁ。
「第一志望の学校って、どこ?」
「脇坂高校ですよ。家から自転車で十分くらいだし、そこに行くつもりです」
近いのが一番ですから、と言うと、大樹さんと賢さんは顔を見合わせた。
「脇坂よりも少し遠いかもしれないが、周央学園はどうだ?」
大樹さんが出した高校の名前を聞いて、私は首を横に振った。
周央学園は、幼稚園からのエスカレーター式の学園で、お金持ちの子が行くイメージの学校だ。
定食屋の娘が行くような学校じゃない。
「私みたいなのが行く学校じゃないですよ、周央学園は」
なんて、私は言っていたのだけど……。
数日後、私を母方の祖父母に預けて、今まで見向きもしなかった父親から連絡があり、私は周央学園を受験する事になってしまったのだ。
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