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第弐拾陸話-返金

返金-19

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「事件から手を引けって、どういう事!!」
 奈緒は物凄い剣幕で絢巡査長を問い詰める。
「いや、私は・・・・・・」
 続けるべきだ。そう言いたかったが、長四郎の推理通りだと奈緒を深く傷つける可能性があるので、絢巡査長は口をつぐむ。
「何よ! 何か言いたいでしょ!!」
 完全に冷静さを欠いている奈緒を見て、尚更、長四郎の推理を告げるのは辞めようそう思った。
「何でもない。ごめん。でも、手を引いてお願い」
 それだけしか言えない自分が悔しくて仕方なかった。
「分かった。とでも言うと思った? 絶対に手を引かないから!!」
 奈緒は踵を返して、どこかへと去っていった。
「逆効果だったか・・・・・・」
 絢巡査長はどうしたら、奈緒を納得させることができるのか。
 空を見上げて、考えるのだった。
 奈緒の説得に失敗した頃、長四郎は自分を尾行する男と優雅な散歩をしていた。
 長四郎は調査をするふりをして、喫茶店で珈琲を飲んだりコンビニで週刊少年ジャンプを立ち読みしたりする。
 行く先々で、尾行者は誰かに報告を入れていた。
 尾行術に長けている長四郎から見て、こんなにもバレバレな尾行で自分をどうこうできると思っている相手が可笑しくてしょうがなかった。
 立ち読みを三軒梯子し、そろそろ頃合いだと感じた長四郎は尾行者と接触を試みる為に人通りの少ない路地に入る。
「さて、俺にどのような御用件か。教えてもらいましょうか?」
 そう言いながら尾行者の方を振り返ると、尾行者の姿はなく強面の若いお兄さん達がズラリと横に並んで立っていた。
「あ、間違えましたぁ~」
 長四郎は若いお兄さん達に背を向けて、逃げようとするが真正面からも同じ風体の若いお兄さん達が歩いてきた。
「これは、これは」
 長四郎は両手を挙げて降参した。
 長四郎はそのまま若いお兄さん達と一緒にハイエースに乗って、埼玉県にある廃工場に連行された。
「えっ! ここ何ぃ~」
 両脇から抱きかかえられ連行される長四郎は、怯えた表情をしながら両脇の若いお兄さん達に話しかける。
「黙ってろ」右脇のお兄さんそう言われた長四郎は「はい。すいません」と謝罪しシュンと大人しくする。
 そして、大きな部屋へと通された長四郎はパイプ椅子に座らせられると同時に、真正面に座るサングラスを掛けた怖い男が口を開いた。
「おい、何を追っているのか知らないが手を引け」
「手を引く? 良いでしょう。それには条件がある」
「条件?」
「そう。私は依頼人から詐欺にあったお金を取り返して欲しいって依頼されたんですよ。だから、そのお金さえ返して頂けたら、ね?」
「幾らだ?」
「あ、はい。700万円です」
「結構な額だな」
「いや、でもあなた方の元締めでらっしゃるピシャリは大層な資産家と聞いております。700万なんていうはした金、ポンっと払ってくれると踏んでいるんですが」
「良いだろう。ピシャリさんに確認しよう。居心地が悪いだろうが少し待っていてくれ」
「はい。はい。待たせて頂きますとも」
 長四郎は頭を下げると、床に血痕がある事を確認した。
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