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第拾参話-過去

過去-2

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 12年前の桜が満開の春。
 世田谷南署の刑事課に、臨場要請が入る。
 管内の高級フレンチレストラン・アユムで死者が出たとの通報であった。
 その臨場要請を受けた髪の毛がまだ残っている若かりし一川雅人巡査部長は、現場へと急行した。
 レストランの前に救急車が止まっていたので、野次馬が集まり始めていた。
 その野次馬ども搔き分け店内に入ると、事件現場のトイレ内で恰幅の良い男が倒れていた。
「あ、警察の方ですか?」
 臨場した一川巡査部長に救急隊員が声を掛けた。
「はい。世田谷南署の一川です。どげん状況とですか?」
「我々が現着した時には、お亡くなりになられてました。手の施しようがありませんでした」
「そうですか。ありがとうございました。後は我々が」
 助けられなかった事に悔しそうな顔を浮かべる救急隊員の肩を叩いて励ました一川巡査部長は被害者に手を合わせて状況を確認する。
 被害者は小便器の前で、苦悶の表情を浮かべあおむけに倒れていた。
「これは病死?」
「それはどうでしょうか?」と一川警部の意見に異論を唱える人物が居た。
 声の方を向くと、スーツを着た若い女性が立っていた。
「部外者は出てって」一川巡査部長がそう言ってトイレから女性を出そうとすると、「私は本部の刑事です!」と自身の警察手帳を見せつけて身分を明かす。
「あ、申し訳ありませんでした!」
 一川巡査部長は咄嗟に敬礼し、警察手帳に書かれている内容を確認する。
 捜査一課7係 巡査部長 二山 玲ふたやま れいの文字と共に、制服姿の姿の玲の写真があった。
「それで、この店の客が怪しい人物がこの店を出て行く所を目撃したとの証言が取れました。物取りの線かもしれません。確認を」
 玲にそう指示をされた一川巡査部長は、すぐさま財布があるのか、近くにいた鑑識捜査官に確認した。
 鑑識捜査官から財布がないとの報告を受けた一川巡査部長は「物取りの線かもしれませんね」と玲の捜査方針に賛同した。
「そんな訳ないでしょ」
 現場に居た捜査員全員が声の方を向くと、制服姿の男の子が死体を見ていた。
『誰?』
 一川巡査部長と玲は声を揃えて男の子の正体を問う。
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