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第拾話-詐欺

詐欺-5

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 最初に長四郎が訪れたのは、被害者の赤海と容疑者の尾多が所属していた事務所Kuunだった。
 事件の事で話がある。そう受付の女性に話をすると、社長室に通された。
 社長室の応接ソファーに座って社長が来るのを待っていると、20分後、社長の鎌飯 茅井洲かまい ちいすが忙しそうな雰囲気を醸し出しながら社長室に入ってきた。
「どうも、お待たせしてすいません」
「いえ、こちらこそ。お忙しい中、手間を取らせてしまい申し訳ありません」
 長四郎もまた謝罪する。
「それで、今日はどのようなことを? 昨日、来た刑事さん達にお話しましたよ」
「それは申し訳ありません。今日、聞きたいのはへケべケさの持っている情報についてです」
「情報ですか?」
「ええ、正確にはタレコミのネタですかね。何か把握していませんか?」
「いいえ」
「即答ですね。でも、よくYouTubeの大手事務所等から圧力をかけられているんですよね? 彼の配信を見ていたんで知っていますよ」
「それは、彼のハッタリですよ。そうしないと集客できませんからね。そのおかげで警告はよく来ます」
「成程。では、ここ最近、他事務所や個人と揉めるような事はなかったんですね」
「そうです。失礼ですが、この事が事件と何か関わりがあるんでしょうか?」
「分かりません。でも、参考にはなりました。ありがとうございました」
 長四郎は礼を言い、席を立った。
「こちらこそ、何もお役に立てず申し訳ございません」
「いえいえ。では、失礼します」
 社長室を出た長四郎は、ふぅーっと息を吐きKuunが入っている高層ビルを後にした。
 ビルの玄関口を出ると、燐が待ち伏せていた。
「あ、羅猛様。こんな辺境の地まで、ご足労頂き申し訳ございません」
 長四郎は頭を下げ、挨拶をする。
 因みに、長四郎が居る場所は東京都港区である。
「ホント。疲れた」
「今日はどのようなご用件で?」
「事件の捜査よ」
「事件の捜査? あれは解決したじゃない」
「解決したんだったら、あんたなんでここに居るの?」
「それはぁ~個人的興味?」
「ウソ。あのハゲ絞め上げて聞き出したんだから」
 燐は長四郎を訪ねて事務所に行ったのだが、留守だったので警視庁命捜班へと足を延ばした。
 そこで、一川警部に長四郎の居場所を聞くと捜査の邪魔になりかねないと思った一川警部は来ていないと噓をついた。
 だが、燐はそれを信じなかった。一川警部が意図している事を読み、自分に噓をついている事を見抜いた。
「噓ですよねぇ~」とニコニコ笑顔で綺麗なスキンヘッドの頭を鷲掴みしながら質問すると「う、ウソだよぉ~ん。事件解決の為、協力してもらっとうと」と返答した。
「奴はどこに居る?」
「ひ、被害者が所属していた事務所に行ったんじゃなかったかなぁ~」
 顔を引きつらせながら答えると、燐は「宜しい」と頷きながら一川警部の頭から手を離す。
「じゃあ、行ってきます!!」そう元気よく一川警部に宣言し、今に至るのだった。
「で、どうだったの?」
 社長から聞き出した成果を質問する燐。
「どうだったって。ここで話すのは、なんだから河岸を変えよう」
 二人は近くのチェーン店の牛丼屋へと入った。
 各々食べたい物を注文し、テーブル席に向かい合わせで座る。
「それで、どうだったの?」燐は席に着くや否やすぐに質問を投げかけた。
「大した成果は得られなかった」疲れたといった感じを出しながら背もたれにもたれかかる長四郎。
「じゃあ、どうするの?」
「う~ん、家に行くかぁ~」
 そう答えると店員が頼んだ注文の品を持って来た。
「チーズ牛丼大盛りの方」店員にそう言われ「はい」と小さく手を挙げて返事をするとチーズ牛丼を長四郎の前に置く。
「牛丼つゆだくアタマの特盛です」
 燐の目の前に肉の山が出来上がった牛丼が置かれる。
「以上で、お間違いないでしょうか?」
「はい」燐は目を輝かせながら返事をする。
「ここに伝票を置いておきますので。お会計の際にお持ちください」
 店員は二人にそう告げて、仕事に戻って行った。
『頂きまぁ~す』
 長四郎と燐は食事を開始した。
 食べ終えた二人は会計を済ませて、赤海が住んでいたマンションに移動した。
 赤海が住んでいたマンションは、調布市の外れの方にある都営住宅であった。
 部屋は最上階の7階でエレベーターもないので、ひぃひぃ言いながら階段を上がり部屋の前に到着する。
「あ、しまった!」
「どうしたの?」
 息を切らしながら、何かを思い出した長四郎に問いかける。
「鍵が、ない。ポン、ポン、ポーン」
 長四郎は腹が減ったシーンの再現を口で言いながら再現する。
「どうするの?」
「よし、助けを呼ぼう」
 長四郎はスマホをズボンのポケットからスマホを取り出し一川警部を呼び出す。
 40分後、マンションの管理人が部屋の鍵を持って上がってきた。
「お待たせしましたぁ~」
 管理人は70代ぐらいの男性なのだが、長四郎達とは違い軽い足取りで階段を登ってきた。
 息一つ切らさずに。
「お待たせして、すいません。今、開けますから」そう言って、管理人のお爺さんは鍵を開けてくれた。
「ありがとうございます!」燐が満面の笑みでお礼を言うと「喉渇いていない? そこのお兄さんも」と聞いてきた。
 多分、このお爺さんは自分達に飲み物を出そうとしているんだろうが、老人を往復させるわけにはいかないそう考えた長四郎は断ろうと思った矢先、燐が「渇きました」と元気一杯に答えた。
「じゃあ、持ってくるから。部屋の中で待っていて」
「はーい」
「お構いなく」長四郎がそう言った時には、お爺さんの姿はそこになかった。
「ったく、遠慮しろよな。若人」
「良いじゃん。親切は受けるべきだよ」
 ここで反論しても時間がもったいないので呆れかえりながら、部屋に入る。
 部屋は1LDKの広さなのだが中身は汚部屋と呼ばれる感じで、床一面にゴミが広がっていた。
「汚ねぇーなぁー」
 少し異臭が漂う中、突き進み配信部屋として使っていたであろう部屋に入る長四郎と燐。
「ここで、配信していたのかな?」
 部屋をキョロキョロと見渡しながら、長四郎に話しかける。
「そうじゃねぇか」そう答えて、デスクトップパソコンのスイッチを入れる。
 起動音が鳴り、モニターに明かりが点く。
 モニターに映ったのはロック画面であった。
「ロックかけてやがったか」
「え?」
「ラモちゃん、切り札を使おう」
「切り札?」
「今すぐ呼んで。彼を」
「彼って・・・・・・・ああ!!」パソコンに目を落とし、そこで長四郎の言っていることを理解した燐。
「待ってて。今、連絡するから」
 燐は切り札に連絡を取るのだった。
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