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第拾話-詐欺

詐欺-1

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 熱海 長四郎あたみ ちょうしろうは今、変蛇内高校の文化祭に来ていた。
 かなりの来場客で、普通の高校の文化祭とは一線を画していた。
「人、多いなぁ~」長四郎はそう言いながら、手元の招待状に目を落とすとテンションが上がり駆け回る子供に思いっきり足を踏まれる。
「痛って!!」
「あ、すいませぇ~ん」足を踏んだ子の母親が長四郎に謝罪しながら子供の後を追いかけていく。
 この文化祭のもう一つ不思議なところは、家族連れが多かったのだ。
 兄弟姉妹が居る生徒もいるだろうが、生徒の家族ではないであろう外部の家族連れが多く見受けられ、長四郎の謎が深まるばかり。
 その招待状が送られてきたのは、つい三日前の事であった。
 気だるい昼下がり、一杯の珈琲を飲む長四郎。
 そんな中、玄関横のポストに郵便物が投函される音がしたので回収に向かう。
 普段、長四郎の事務所に郵便物が届くことなどなく、近所のパチンコ屋やデリバリーのチラシ等が届くだけであった。
 郵便ポストのダイヤルを回し、ロックを解除して郵便物を取ると二、三日貯め込んでいたチラシ類の上に一枚の封筒が置かれていた。
「あら珍しい」
 長四郎は封筒とチラシを取り、事務所の中入る。
 チラシ類を来客用テーブルに投げ捨て、封筒を持って自分のデスクに座りペーパーナイフで封筒の封を切り中身を確認する。
 そこには、変蛇内高校文化祭「愛は世界を救う祭」の招待状が入っていた。
 封筒の差出人の欄を見ると無記載で、誰が送ってきたのか不明であった。
「はてさて、なんで、俺にこんな物が届くのか?」首を傾げ不思議がる。
 その差出人を調べる為、長四郎はこうして「愛は世界を救う祭」へと赴いたのであった。
 とはいえ、人量が多すぎて近くの生徒に話を聞こうにも客を裁くのに手一杯で聞ける状況ではないので困り果てていた。
「なんで、こんなに人が多いんだよぉ~」
 長四郎がぼやいていると、「愛は世界を救う祭」のポスターが目に留まった。
 そこに、この人量の多さの理由が記載されていた。
 今日は、今流行りの動画配信者のオンジンとへケべケのトークショーが行われるとのことで、長四郎はそれを見て一人納得しかつ客層も家族連れが多い理由も判明した。
 このオンジンとへケべケは、ここ半年ほどで頭角を現してきたYou Tubeの系譜を受け継ぐ日本初の新世代動画配信サービス「Kuun hub」で配信している配信者である。
 オンジンはチャンネル登録者300万人越えのKuun huberで、老若男女から絶大な支持を受ける「聖人」と呼ばれるような炎上とは無縁に近い動画を配信する人物。
 一方のへケべケは、登録者百万人越えのKuun huberで主にゴシップネタを扱っている。
 そのゴシップネタは、同業者のKuun huber、YouTuber、芸能人と多岐に渡り、彼のリークを受けて消えて行った者は少なくない。
 そんな水と油、光と闇の対局にいる二人が揃ってトークするので、集客出来たというわけだ。
 長四郎がそんな事を考えていると、「もし良かったら、どうぞ」とメイド服姿の女子高生が長四郎にビラを渡す。
「あ、ありがとう」そう言いながら、受け取りメイド服の女子高生を見る。
「誰かと思えばラモちゃんじゃない!!」
「げっ! あんた何でいるのよ!!!」
 長四郎にビラを渡した女子高生は羅猛 燐らもう りんであった。
「何でって。これが送られてきたから。あーラモちゃんが送ってきたのね。自分のメイド服姿が見て欲しかった。そういうわけか」
「違うし! てか、そんな物送ってないし」
「え? じゃあ、誰がこれを?」
「知るかっ!」
 燐がそう答えた瞬間、カメラのフラッシュが燐を襲う。
 カメラ小僧達が燐を撮影したのだ。
「ちょっと、何勝手に撮ってんのよ!」
「いや、可愛いから。Twitterに挙げて良いかな?」一人のカメラ小僧が言うと、周りのカメラ小僧も同意するようにうんうんと頷く。
「人気者は大変だね」
「やかましいわ」燐がストレートキックをお見舞いすると「うげっ!」という言葉と共に長四郎は後方に吹っ飛んでいった。
「あんた達もあんな風になりたい?」
 燐は満面の笑みでカメラ小僧たちを見ると、無言で大きく首を横に振りカメラ小僧達はすぐさま撮影した写真データを削除した。
「痛い痛い痛い。離してっ! 離してっ!!」
 長四郎は髪の毛を引っ張られながら燐に教室へと連行される。
 教室に入るとメイド服姿の女子高生達が声を揃えて「お帰りなさいませ。ご主人様」とメイド喫茶お決まりの決め台詞を長四郎と燐に向けて言う。
「あ、ただいまー」長四郎は吞気に返事すると燐に思いっきりよく髪の毛を引っ張り上げられる。
「痛たたたたたたたた。抜ける。髪の毛抜けるぅぅぅぅ」
 長四郎は涙目で許しを請う。
「燐、探偵さん。離してあげなよ」
 燐の友人・海部うみべ リリが話しかけると燐は掴んでいる手を離した。
「痛ってぇ~」その場にしゃがみこんで頭を抑える長四郎を見て、「もしかして、この人が燐の彼氏さん?」クラスメイトの女子高生が長四郎を指差しながらリリに質問する。
「そうそう。招待状を送って正解だったね」質問した女子高生にサムズアップして答えるリリを見て、燐は深いため息をつく。
「ねぇ、俺ってそんなに有名なの?」
 先程、受けたダメージはなんのそのといった感じで長四郎はクラスメイトの女子高生達に尋ねると「有名だよねぇ」「そうそう」という返答が帰ってきた。
「へぇ~そんな事になっているんだ。俺って」
「何、ちょっと喜んでいるのよ」
「いやぁ~嬉しいじゃん。こんな可愛い女子高生達にキャッキャッ言われたらさ」
「あんたねぇ~」
「あのあの、燐ちゃんとはどこで知り合ったんですか?」
「付き合い始めてどれくらいですか?」
「年収は如何ほどですか?」と燐のクラスメイトの女子達から質問責めにあう長四郎。
「落ち着いて、君達。質疑応答してあげるから、席に案内してくれる?」長四郎がそう告げると『はいっ!』と元気な返事が返ってきて長四郎は席に案内され、長四郎を囲むようにメイド服姿の女子高生達が座る。
「あ、君。君はビラを配ってきたまえ」一人だけ席に着かずこちらを見る燐に向け勝ち誇ったような顔で長四郎は指示をする。
 燐は苦い顔で舌を出し、踵を返してビラ配りに戻っていくのだった。
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