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第漆話-能力

能力-7

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 絢巡査長が目撃者の森林を連れて講演会場に戻ってくると、ロビーに一川警部、丹湯、大判そしてサイキック木馬の計四人が立っていた。
「あのここで何を?」絢巡査長は一川警部にこの状況の説明を求める。
「いや、長さんが「事件の真相が分かった」言うからここで待っとうと」
「成程。一川警部、紹介します。大学構内で水川教授らしき人物を目撃した」
森林もりばやしと申します。私、大学では水川教授の助手をしています」
 森林は絢巡査長の紹介を遮る形で、自己紹介をする。そして、その自己紹介を聞いていた丹湯の顔が少しひきつったのを命捜班の刑事二人は見逃さなかった。
 すると「お待たせしましたぁ~」という言葉と共にゴミ袋を持った長四郎と燐が姿を現した。
 一川警部は、戻ってきた長四郎の服が少し汚れているように見えた。
「最初に、待たさせたみたいで申し訳ございません」長四郎は先に謝罪し続けた。
「実はお集まり頂いたのは事件の犯人が分かったからです」
「えっ!?」一番最初に反応したのはサイキック木馬だった。
「まさか、本当に自分が犯人だって仰るんですか? 人生を棒に振ってまで」
 長四郎のその一言にサイキック木馬は「うっ」と痛い所を突かれたような声を出す。
「で、犯人は誰なんですか?」絢巡査長が質問する。
「最初から分かっているでしょ。犯人はプロデューサーのあんたとディレクターのあんただ」
 長四郎は丹湯と大判を指差す。
「私達が犯人? 何をおかしなことを。なぁ、大判」丹湯は隣に立っている大判に同意を求めると大判は声を震わせながら「た、丹湯さんの言う通りですよ」と答えた。
「それに、教授はタクシーで帰った。そう、この刑事さんから聞きましたよ」
 一川警部から聞いた情報を盾にし、丹湯は反論する。
「そう仰ると思ってこんな物を用意して貰いました。絢ちゃん」
「はい」絢巡査長は返事をしながら、手に握られていたレジ袋からパーティー用のかつらを取り出した。
 そのかつらは、水川教授の髪型にそっくりなものだった。
 長四郎はそのかつらを受け取ると丹湯に渡して「被ってください」と言った。
「何で私が」
「つべこべ言わず被れや!!!」燐が恫喝すると渋々、丹湯は自分の頭にかつらを着用した。
「どうです?」森林に尋ねる長四郎。
「う~ん、雰囲気はかなり近いですが。私が目撃した時は白衣を着ていたので」
「白衣ですか。絢ちゃん」
 絢巡査長は白衣をレジ袋から取り出して長四郎に渡し、長四郎はそれを丹湯に着させる。
「これで、どうでしょう?」
「う~ん。あ、そうだ。歩いて貰えますか。学内で見た時は目立つように歩かれていたので」
 森林にそう言われ、丹湯に歩くよう指示をした長四郎。
 丹湯は何故、このようなことをしなければならないといった顔でロビーを歩き始め1m程、歩いた所で立ち止まり「これは何の茶番ですか? 不愉快です!」と抗議した。
「今の動きを見てどうですか?」
「そうですね。もう少し歩いてみて貰えますか?」
 丹湯の講義お構いなしで再度、歩き出すように頼む森林。
「はよ、歩け!」燐にまたもや怒鳴りつけられ不服そうに丹湯は歩き出し、森林とすれ違う。
「教授に成りすましていたのは、この人ですね。間違いない」森林はそう答えた。
「本当ですか? 森林さん」絢巡査長は再度確認すると「間違いありません。教授扮して学内を歩いていたのはこの男性です」ときっぱりと言い切った。
「あんた、適当なことを言うなよ!!」森林に掴みかかろうとする丹湯に燐が足払いで地面に倒した。
「まぁまぁ、落ち着いて」長四郎は手を差し出すが、丹湯はそれを払いのけ自力で立ち上がる。
「クソっ! 不愉快だ!!」
 その場から立ち去ろうとする丹湯の前に立ち長四郎はこう言った。
「ここで逃げられても構いませんが、警察は貴方の事を疑い続けるでしょう。どうです? 俺の話を聞いてから逃げ出すというのは?」
「逃げ出すって。私は、気分を害したから出て行こうと」
「あ~分かった。分かった」
 燐は白衣の襟を掴んで丹湯をベンチに無理矢理座らせた。
「早くトリックの説明をしなさいよ。長四郎」
 燐にそう促され、やれやれといった感じで長四郎は自分の推理を語り始めた。
「水川教授は超能力ではなく先程言った二人が殺害しました」
 反論しようとする丹湯を燐が睨みを利かせて制止させる。
「トリックは至って簡単です。水川教授を車に乗せ後部座席に隠れていた人間が絞殺し、その人物は水川教授に成りすましタクシーで大学に行った。ある程度、学内を歩きその存在を認知させ再びここに舞い戻り、準備をしていた共犯者と共に舞台上の歩道に水川教授の死体を括り付けた。そして、収録日当日にサイキック木馬の超能力パフォーマンスに合わせて死体を落とした。そんな所でしょうか?」
「あんたの妄想だ!!」激昂する丹湯に対して大判は下を向き身体が小刻みに震えていた。
「証拠を見せろ。的な事ですか? そう言うと思って、見つけてきたんですよ。ラッキーだったな。ラモちゃん」
「うん、ラッキーだった」燐は頷いて答えた。
「これ、ここのごみ集積場に捨ててあったんです」
 長四郎はゴミ袋から紐を取り出して、その場に居る全員に見せる。
「ひっ!」大判はその紐を見て顔から血の気が引いていき、丹湯は大判を睨みつける。
「これが凶器です。調べてもらえば死体の索条痕と一致するはずです。そして、もう一点」
 凶器の紐を袋にしまい、今度は引きちぎれたワイヤーを出す。
「このワイヤーは水川教授の身体に括り付けられていたワイヤーです。何故、そう言い切れるか。それはこれを発見したので」
 長四郎は袋からワイヤーカッターを取り出した。
「もう、これでMeの推理におかしなところはないですよね? 丹湯さん」
 丹湯にそう尋ねると目を泳がせて何も答えない丹湯。
「丹湯さん、自首しましょう」
「お前、何を!?」
 自首を提案した大判にうろたえる丹湯に追い打ちをかけるようにサイキック木馬が喋り始めた。
「わ、私は悪くない。教授に演出の事を言い含めているから透視のふりをして教授が出てくる演出になっていると。死んでいるなんて思わなかった!」丹湯を指し自分の無実を主張するサイキック木馬。
「と申しておりますが、その辺はどうなんでしょうか?」
 長四郎は質問すると丹湯は観念したのか項垂れて「もうお終いだ」その一言だけ呟くのだった。
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