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第参話-話合

話合-13

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 翌々日、事件の真相が分かったので説明したいというので小春は桂太郎連れて演芸館に来ていた。
 舞台下には、長四郎、燐、一川警部、絢巡査長、楽志、安城、押井の計7人がいた。
「お待ちしていました。
ちゃんと、ご挨拶してなかったので改めて自己紹介を。私、熱海探偵事務所の熱海 長四郎と申します。彼女は私の助手の羅猛 燐です」
 燐は小春に会釈し、小春もまた会釈し返す。
「今日お呼びしたのは」
「遊平の事件で真相が分かったんですよね」
「その通りです。後、もう一つは息子さんの桂太郎君からの依頼の方も分かったので、息子さんを連れて来て頂いた次第です」
「お母さん、そんなこと聞いていないよ!」
 小春が桂太郎を見ると、バツが悪そうな顔をしている。
「すいませんが、その話は後でしてもらっても?」
「はい、すいません」
 小春は長四郎に謝罪し、長四郎は小春に気づかれないように桂太郎にウインクする。
 桂太郎の顔に笑顔が戻ってきた。
「あの劇場を開けないといけないので手短にしてもらえますか?」
 押井が発言する。
「申し訳ない。では、単刀直入に申し上げます。
この中にマガジン亭サンデー、本名・昇風 遊平さんを殺害した犯人はいます」
 長四郎の言葉を聞き、楽志、安城、押井の三人は自分が犯人ではないという顔をする。
「犯人は・・・・・・」
 その場に居る人間全員が息を吞む。
「と、その前に楽志さん。あなた自白することがあるんじゃないですか?」
 長四郎の言葉で、楽志に視線を向けられる。
「な、何の事だ? 私は、サンデーを殺しちゃいない」
「そうでしょうか? 動機はたっぷりですよ」
「その動機、聞かせてもらおうじゃありませんか!」
「楽志さん、サンデーさんのネタ帳を盗んで高座で流しましたよね?
あたかも自分が作ったかのように」
「そうなのか?」
 押井が尋ねると、楽志は目を右往左往させ何も答えない。
「証拠ならありますよ。この写真を見てください」長四郎は二枚の写真を出す。
 一枚は、楽志が持っていたネタ帳の写真。
 もう一枚は、サンデーの部屋に置いてあったネタ帳の写真であった。
「ここに書いてある字を見てください。明らかに一緒の字ですよね?」
「これは、サンデーの字です。
そうですよね。小春さん」
 押井は小春に確認を取る。
「はい。確かに遊平の字です」
「だそうですけど、これについて反論することは?」
「・・・・・・・・・・・・」
 口をあんぐりと開けたままで何も答えない楽志。
「楽志兄さん、あんた同じ落語家として最低だよ」
 安城は楽志に軽蔑の目を向ける。
「それをあんたが言うのか? 安城さんよ」
「ど、どういう意味ですか? 探偵さん」
 まさか、長四郎からそう言った言葉が出てくるとは思わず内心、驚く安城。
「楽志さんが事件のタイミングで、ネタ帳を盗んだので容疑者候補が楽志さんに目が向いた。だが、世の中そうは上手くいかない」
「何が言いたいんだ!! あんた!!!」
 安城は煮え切らない発言をする長四郎に苛立つ。
「マガジン亭サンデーを殺したのは、あんただ。林家 安城」
 長四郎は推理ドラマのイケメン主人公の如く、安城を指差す。
「バカな。何を証拠に」
「証拠ならあるばい。だよね、長さん」
 ここで一川警部が口を開き、証拠があるのか確認する。
「貴方、楽志さんと同じ兄貴高校出身ですよね?
それに科学部に所属していた」
「それが何だっていうんだ」
「犯人候補であった楽志さんは、毒物を作れないんですよ。
何故なら、楽志さんが所属していた部活動は」
「毛筆書道部」
 楽志がボソッと呟く。
「はっ、科学部だから毒物を作れる? そんなもの知識があれば誰だってできる。犯人は、楽志兄さんですよ」
「そうですかね。今回の事件だけであったら貴方の言い分通りとなる。
ですが、6年前の事件を忘れてはいませんよね?
同級生が毒殺された事件です」
 安城の顔が一気に青ざめる。
「覚えてらっしゃるみたいですね。
その事件で使用された毒物と今回の事件と同一の物でした。
これまた驚くことにこの毒物は、この2回だけしか使われていないんです」
 安城は下を向き、途端に発言しなくなった。
「ああ、あの日の事件か・・・・・・」
 楽志は事件の事を思い出したらしく喋ると、安城はその言葉を聞きニヤッとさせると顔を上げる。
「探偵さん、楽志兄さんも過去の事件の時に、その場に居たんじゃないですか。
絶対に楽志兄さんが犯人ですよ」
「俺はやってない!!」
 楽志は全力で否定する。
「まぁ、順当にいけば楽志さんが殺す動機ななんてありませんよね。一応、ウラは取ってくれたんですよね?」
「はい、この楽志さんと被害者の生徒とは面識は確認できませんでした」
 絢巡査長が長四郎の質問に淡々と答える。
「そ、それだけで僕が犯人とは限らないだろう!」
「これ、楽志さんが在籍していた頃の薬品管理表です。
そして、これは当時、科学部に所属していた方が持っていた実験ノートです。
運よく現役の部員の中に当時、在籍されていた兄弟の方がいらしたんでその子に事情を説明し、借りてきたんですよ。このノートの意味、分かりますよね」
 長四郎の言う意味とは、顧問の教頭先生が記録していた薬品管理表に書かれている使用された薬品の量と部員が記録した薬品の量が合致していない事である。
「因みに、鑑識にこれ見せたらおおよそ3回分の毒物が作れる量とのことですけん」
 一川警部が補足説明する。
「後、1回分はどこにあるんでしょうね。この学校の薬品管理が、杜撰なのは確認済みです」
「私も確認したから。もう観念しなさい」
 燐が涼宮ハルヒのように、ビシッと指差す。
「だそうです。貴方の無実を証明する為に、家宅捜索で毒物が無いか証明しませんか?」
 長四郎のその一言で、遂に観念したのか安城はへたり込み話し始めた。
「僕が、殺しました。だってあいつ、つい半年前までアル中みたいだったし。
あいつが死ねば、真面目に落語に打ち込んでいる僕が昇進できるはずだったんだ・・・・・・」
「ふざけんな!」
 桂太郎が安城に殴りかかろうとするのを長四郎が止める。
「殴りたい気持ちも分かるが、堪えろ。
このクズを殴っても、すっきりしないぞ」
「知るか! 放せよ!!」
「桂太郎君、ここは長さんの言う通りにしといた方が良かばい。こいつは・・・・・・」
 一川警部のグーパンが安城にお見舞いされる。
 安城は華麗に吹っ飛ぶ。
「一川さん!!」
 絢巡査長は何をしているんだと言わんばかりの顔で、一川警部を見る。
「あ~ やっちゃったばい。こりゃあ、謹慎かなぁ~」
 自分の頭をぺちぺち叩く一川警部。
「な、分かったろ。殴ったら何かしらのペナルティーが与えられるんだよ」
「うるせぇ!!」
 7歳の子供には理解できなかったのか、長四郎の股関にストレートパンチを浴びせると駆けって劇場を出て行く。
「すいません!! 待ちなさい。桂太郎!!!」
 小春は長四郎に謝罪をし、すぐ様、桂太郎を追いかける。
「林家安城。昇風遊平さん殺害容疑で逮捕します」
 絢巡査長は安城にそう宣告し、手錠をかける。
「ら、楽志さんの件は落語協会に任せますから・・・・・・」
 長四郎は痛みを堪えながら、押井にそう告げる。
「分かりました。覚悟しとけよ」
「はい・・・・・・」楽志はがっくりと肩を落とすのであった。
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