上 下
2 / 500
第壱話-結成

結成-1

しおりを挟む
「え、何?」
 俺は思わぬ珍客に身構えてしまう。
「何? じゃないし。依頼人だから。んなことも分からないの?」
 女子高生は腕組をし、長四郎を睨みつける。
 溜口!? と思いつつ、冷静に大人の対応をする。
「いや、女子高生が依頼って珍しいから」
 長四郎は、キッチンへ向かい電気ケトルでお湯を沸かしながら珈琲を淹れる準備をする。
「で、依頼内容は?」
 長四郎の問いに、女子高生は言いにくそうに答える。
「殺人」
 まさか、女子高生の口からそのようなパワーワードが出てくると思わずむせてしまう。
「あのさ、女子高生。探偵の主な業務内容は、浮気調査,素行調査や企業調査とかそういった事をするのね。テレビドラマじゃあるまいし、殺人事件は解決したりしないの。お分かり?」
「私の事、バカにしているわけ? それに、私は女子高生じゃなくて羅猛 燐らもう りんって名前あるんだけど!」
「馬鹿にしているなんて滅相もない」
 長四郎は淹れたての珈琲を燐に出す。
「どうも」女子高生は一礼し、珈琲に口付ける。
「依頼内容はともかくとして何故、うちの事務所に依頼しに来たの?」
「これ見て来た」
 燐はインスタグラムの探偵事務所紹介アカウントを長四郎に見せる。
 そこには、目隠しされた高校生時の長四郎の写真と共に、紹介文が記載されていた。
 数多の難事件を解決したあの伝説の高校生探偵・熱海長四郎が探偵事務所を開いていた!!!!
 迷宮入りしそうな事件があればここへ Let’s GO!!!
「よくこんな眉唾みたいな情報を信じ込むんだね」
「あのね、あんたと違ってネットリテラシー教育がしっかりなされているの。
ちゃんと調べたわよ。ネットだけど。10年程前に多くの迷宮入りしそうな難事件を解決した高校生探偵がいたのは事実なんだし」
 やっぱり、所詮は素人。
 俺が高校生の時だったら、もう少し上手くやれただろうに。
 そんな事を考えながら長四郎は話を続ける。
「でも、俺がその高校生探偵とは限らんでしょ。よくそれだけでここに来たね」
「ふっ、甘い。これを見なさないよ」
 燐はとあるネットニュース記事を見せる。
 俺が警視総監賞特別授与された際のニュース記事であった。
 しかも、その記事には目隠しされていない同じ制服を着た自分が賞状を手に映っていた。
「よく見つけてきたな」素直に感心する長四郎に、「でしょ、でしょ。」と答え燐は満面の笑みを見せる。
 長四郎は、この羅猛燐という女子高生を少し見直し、少しだけ話を聞くことにした。
「分かった。少しだけなら話を聞こう」
「やった」ガッツポーズをとり、燐は喜ぶ。
「おじさん、疲れてるから。手短に話して」
 長四郎はそう言うと、ソファーにもたれかかり珈琲を飲む。
「分かった。事件が起きたのは・・・・・・」
 三日前の深夜に事件は起きた。
 私立芸春高等学校に通う2年・岡田 槙太おかだ しんたが校内にある三階建て武道館から転落した。
 警察の捜査の結果、自殺と判断されたのだが、燐はその結果に納得していなかった。
 何故なら、目撃者がいることを知っていたからであった。
 事件当夜、岡田槙太が落下した時に武道館の屋上に別の人影を目撃した友達がおり、その友達は警察にこの事を伝えたのだが、相手にされなかったらしい。
 勿論、学校側も同様の対応だった。
 そのことに深く傷ついた友達は、不登校になったとのことであった。
 説明を終えると「マジでムカつく!」という言葉と同時に、燐は机をドンっと叩く。
「ん~」
 話を聞き終えた長四郎は少し脳みそを回転させ考え始め、考えが纏まったのかすぐに結論を述べる。
「警察がそう判断したのなら、そういう事なんじゃない?」
「え? 調べてくれないの?」
「良いか? 警察でもない俺が校内うろついて調べるなんてできない。つまり、君の力にはなれない」
「それは、そうだけど。名探偵でしょ! 何とかしなさいよ!!」
「無茶言うなよ。探偵にというか一般市民には逮捕権あれど、捜査権は無いからな」
「もういい!!」
 燐は勢いよくソファーから立ち上がると、そのまま事務所を出て行く。
 はぁ~と、溜息をつき長四郎は風呂に向かう。
 湯船に浸かり命の洗濯を終え、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出したタイミングでスマホに着信が入る。
「もしもし」
 見知らぬ番号であった為、警戒しながら電話に出る。
「おっ~電話番号変わってないようで助かったわ~」
 この声はもしかして・・・・・・
「長さん、忘れた?あたしよ、あ・た・し。一川ひとつかわばい」
「一川さんですか? お久しぶりです」
 この一川さんは警視庁捜査一課の刑事で10年前、俺と共に事件を解決した間柄だ。
「お久しぶりぃ~」
「それで用件も無しに10年ぶりに連絡してきませんよね?」
「おおっ! 流石、名推理の腕は落ちとらんようね」
「事件ですか?」
「うん、そうやけど。なんやったら、再会を祝して呑まない?
あ、ダメか。未成年やもんね」
「あれから10年経っているんすけどね」
「おお、そうやった。そうやった。
じゃあ、板橋にあるヒマラっていう居酒屋に集合で。そんじゃあ」
 そこで、通話が切れた。
 俺は生ビールを求めて、板橋の居酒屋へ向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

パンアメリカン航空-914便

天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。 ニューヨーク発、マイアミ行。 所要時間は・・・ 37年を予定しております。 世界を震撼させた、衝撃の実話。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...