探偵はつらいよ。

飛鳥 進

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起点-第壱話 改訂第一版

起点-1

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 とある日の冬の朝。
 この俺、私立探偵の風車 寅三郎 かざぐるま とらざぶろうは、覆面パトカーの中で張り込みをしていた。
 何故、一介の私立探偵が覆面パトカーで張り込みをしているかって?
 昨今の少子高齢化による人手不足により警察も重大事件解決のため、指名手配犯らしい奴の張り込みに人手を割く事が出来ずこうして探偵を雇う始末。
 只、探偵が勝手なことをしないようにお目付け役として新米刑事一人をセットで張り込みをしている。
 そのお目付け役の新米刑事に張り込みの作法を教えるのもこの業務の一つだった。
「あっ、奴だ!! 起きてください! 寅さん!」
 目の前のアパートを見張っていた新米刑事が、助手席シートで狸寝入りしている寅三郎を叩き起こす。
“どぉ~も、突然のナレーションば~い!
いやぁ、仕事が無くなるかと思って心配しとったけど続投出来て嬉しい!
おおっと、自分の仕事忘れるところやったぁ。
今、寅三郎を叩き起こしたのが新米刑事の瑠希 翔るき かける巡査長。
見た目は、人気俳優の○○○○に似ているらしいね。
いやその○○○○が知りたいって言いたいちゃっろ。
それはね、読者の皆様で補完して欲しいけん。
只、スーツが似合うとだけ言っとくばい。
では話に戻りま~す!”
「ってぇ~な。何だよ」
「指名手配犯の保力 効ほりき こうが、部屋に帰って来たんですよ」
「そうかい」ぶっきらぼうに返事をしながら寝返りをうつ寅三郎。
「行きましょう!」
「待て、待て」
 翔が車から出ようとするのを寅三郎はYシャツの襟を掴み引き戻す。
「ちょっと!何するんですか!?
逃げられるかもしれないんですよ!!!」
「新人君さぁ、あの人が保力だっていう証拠ないんでしょう。
だったら、行かない方が良いよ」
「ですが・・・・・・」何か不服そうな翔。
 俺達が張り込んでいる相手・保力 効は、3年前に起きた五縁銀行五反田支店襲撃事件の主犯格とされている男で、現在まで行方知れずの逃亡中。
 そして三日前、翔が所属する警視庁七部署捜査一課に保力らしき男が船着き場近くのアパートに潜伏中というタレコミが入り、別の殺人事件の捜査で人手が割けなかったのでこうして俺達が寒空の下で内偵しているのだ。
「暖房の効いた車の中ですけどね」翔がツッコむ。
「良いんだよ。車から一歩でも外に出たらそこは寒空なんだから」
「はいはい」翔はあきれ口調で返事をする。
「さっきから機嫌が悪いけど。何? 俺が寝ている間に女にでも振られたのか?」
 寅三郎は、そう言いながら倒していたシートを起こす。
「いいえ。この際だからはっきり言います。
寅さん、真面目にやって下さい!
ずっと寝てばっかじゃないですか!!
これじゃあ、市民の皆様に顔向けできません」
 翔は、内偵を開始して早三日、検挙に繋がるようなことを一切できていない自分に腹を立てハンドルに顔を疼くめる。
「市民の皆様って・・・・・・・
お前さん、本当に真面目で堅苦しい奴だな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」顔を疼くめたまま無言の翔。
「はぁ~分かったよ。
新人君のPassionに負けたよ。始末書、書く覚悟はあるか?」
 寅三郎のその一言に顔を上げて頷く翔。
「よしっ、じゃあ行くか」
 車から降りる二人。
「で、どうするんです?」翔が聞く。
「ん~~~~~~」背伸びをして車内で固まった体をほぐす寅三郎。
「あの寅さん!」
 遂、大声を出す翔。
「大声出すなよ。気づかれるだろう」
「すいません」
「全く。新人君はアパートの反対側に。
俺は表から行くから。OK?」
「分かりました」
 先程とは見違える程の笑顔でアパート裏に駆けって行く。
 かけるだけに。
 寅三郎は翔がアパート裏に消えた事を確認すると、自分のジャケットからサングラスを出してそれをかける。
「行くか!」と声を出し自分を鼓舞すると、潮風で錆びたであろうアパートの階段を昇る。
 お目当ての部屋は、202号室だ。
 部屋の前に着きインターホンを探す。
 しかし、古いアパートだったのでインターホンはなかった。
 これは、ラッキーだと思う寅三郎。
 あの作戦が使えると思い、ふぅ~っと寅三郎は息を深く吸い込むと思いっきりドアを叩く。
「佐藤!! 出てこいゴラァァァァァァァァァァ!!!!
居るのは分かっとんのやぞ!」
 ドアノブもガチャガチャ引っ張っては回す。勿論、ドアも叩くのも辞めない。
 すると部屋の中からドタドタとこちらに近づく音がしたので辞めて開くのを待つ。
 鍵を開ける音がし、中から中年の男が出て来た。
 確かに指名手配書に写っている保力に似ていたが、まだ本人と決まったわけではない。
 ここからが腕の見せ所だ。
「朝からなんだ。あんた!」滅茶苦茶怒っている保力らしき男。
「お、佐藤だな」
「佐藤? ふざけるな! 俺は、保力だ!」
 そう言って保力は、ドアを閉めようとするが閉まらない。
 保力が足元を見るとNBのカジュアルシューズが挟まっていた。
「足、どけろ!」
「嫌だね。指名手配犯さん」
 寅三郎のその一言を受け、保力はドアノブから手を離し部屋の窓に向かう。
「ああ、逃げても無駄・・・・・・・って」
 寅三郎の忠告を聞く前に保力は、窓から飛び降りていた。
 なに、慌てふためく事は無い。
 なぜなら、下には翔がいるのだから。
 その頃、翔は全速力で保力を追っかけていた。
「ま、待てぇ~」息絶え絶えになっているので声を飛ばせない。
 それにしても、保力は足が早かった。
 学生時代、陸上部の助っ人として短距離走でインターハイに出場するレベルの翔ですら追いつけないスピードの持ち主だった。
 大きく差を開かれ逃げられると思っている時、翔の背後からハーレーダビッドソン(ローライダー/FXDL)に乗った寅三郎が走り抜けていく。
「後は、任せな」
 寅三郎がそう言いながら保力を追尾するのを翔は見送り、立ち止まって息を整える。
「はぁはぁ。
どこから拾って来たんだ?あのバイク・・・・・・・」
 翔は改めて寅三郎の姿を見るとその手には、ショットガン(レミントンM31)が握られていた。
「あ。寅さん! ダメです!」再び走り出す翔。
 寅三郎はバイクのハンドルから手を離しショットガンを構えると、保力に向かって発砲する。
 保力は背中に強い衝撃を受け倒れる。
 ショットガンをリロードさせ、もう一発お見舞いする。
 今度は足に衝撃を受けた保力は「ああ、死ぬんだな。俺。」と思った瞬間、手錠がかけられる。
「保力 効、強盗の罪で8時53分逮捕!
よっしゃぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
 腕時計を見ながら翔は叫ぶ。
「新人君にしては、上出来だぜ。ベイべー」
 犯人を検挙し、喜び勇む翔を見て微笑ましく思う寅三郎だった。
 この時まだ二人は、この事件が殺人事件に発展するとは知る由もなかった。
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