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第ニ章: 生徒会選挙
第14話: 生徒会選挙週間
しおりを挟む朝のうるさい目覚ましで目を覚ます。そんな日常を繰り返す。月曜日の今日から一週間が再び始まるという嫌悪感を抱きながらカーテンを開ける。眩しすぎる朝日が部屋に注いで思わず手で目を覆う。
「うげぇ溶けそう…」
紫ノ宮さんの一件が片付き、天文部としての流星群観測も無事に終了し数日が経過。特に変わったこともなく安定した学校生活を送っているのだが春とは思えない強い日差しに日々、体が悲鳴をあげている。
徒歩で高校までは行ける距離のため、あくびをしながら眠そうに登校するのが日課になっている。ただ変わったことが一つのだけ。
高校まで行く前に少し家賃が高そうなマンションがあるのだがそこから出てくる一人の少女を待って登校することだ。ガラスの自動ドアが開いてそこからその少女は出てくる。そのときサラサラとして綺麗な薄い桜色の髪の女の子がガラスドアから出てくる。綺麗な髪に思わず目を向けているとその少女から声をかけられる。
「おはよう…柊くん。」
「え。誰ですか。なんで名前知ってるの怖っ。」
「えっと…紫ノ宮だよ。」
理解に遅れたが綺麗な黒髪ロングの彼女が桜色の髪に染めていたようだ。なんかパッと見た感じ気付かないくらい見違えてしまう。髪染めるだけで印象ってここまで変わるのか。
「惚れ直しました。」
「またからかってるんですね!…染めてみたら可愛いかもって柊くん言ってくれたから…。似合うかな…?」
似合うも何も美しい桜のような可憐な少女と毎日登校できるのはご褒美と言っても過言ではない。毎日が学校でもいい。嘘です。絶対やだ。ストレスで死んじゃう。
「良かった…不安だったんだよね…。」
「似合うけど桜色ってずいぶん勇気のある選択をしたよね…まぁ似合ってるけど。」
「もっと…早く教えてよ…うぅ…。」
最近思ったのだが、若干普通の家庭というよりは高級思考の家庭で育った印象を彼女にはよく受ける。というのも少し感覚が違うというか…世間知らずのお嬢様タイプというのだろうか。そんなものを感じることがある。ただ、お嬢様といっても気取った様子は全くなく自信無さげなのは変わらないのが印象である。
紫ノ宮さんと合流し、一緒に登校しているのだがやはり視線が痛い。桜色の髪って珍しいもんね。なんか本人もすごい恥ずかしそうだし…見てるこっちも恥ずかしくなっちゃう。
落ち着かないのか紫ノ宮さんは若干俯きながら、俺のワイシャツの袖を摘まんで引っ張っている。なにその仕草すごい可愛い。
「やっぱり…似合ってないのかな…?」
「可愛いから注目されてる…って考えれば?」
「だと良いな…!」
はにかみながら、えへへと笑うと少し安心した表情を浮かべて楽しそうにしている。意外と無邪気な女の子であることも最近付き合い始めて分かった。そんなこんなでなんとか校門の前までたどり着く。
学校の校門では毎日生徒会が挨拶回りをやらされているのがよく見える。毎朝ホントにご苦労様ですと思わせられる。まぁねぎらいの言葉はアイコンタクトで!だってコミュ障だもの。話しかけたら疲れちゃう。
下駄箱でいつも通り、上履きを取り出し落下させて気だるそうに履く。対して紫ノ宮さんはそっと上履きを取り出し、床にそっと置いて、そっと履く。おしとやかな女の子ってホントにこんな感じの子を言うんだろうなと思ってそのまま教室へ向かう。
教室では恭介と乃愛がいつものように教室の端のほうを陣取って座っているため、荷物を置いて紫ノ宮さんと向かう。恭介と乃愛も一瞬凍り付いたのが分かった。
「え。莉奈だよね?柊になんかされた?」
「紫ノ宮さん…柊になんかされたのか?」
おいお前らと言わんばかりの対応。まぁ俺の気のない発言のせいが元なんだけど。
「そうじゃないんだけど…染めてみたんだ。…似合わない…かな?」
「あたしは似合うと思うけど…まぁ何というか明るい印象になるよね。黒より。恭ちゃんも誉めろ!」
「え。あ、おう。可愛いと思う。柊には勿体ないくらい。」
その言葉を聞いて安心したのか顔をパァッと明るくさせた彼女は眩しい笑顔をこちらに向ける。
「似合うって!柊くん!」
すごく嬉しそう。こっちまで嬉しくなっちゃうね。この笑顔がノープライスなのか。
雑談をしながら時間を潰していると朝の予鈴がなり、急いで席に着く。担任は特に何も触れず興味無さそうに出席だけ取ると職員室に戻っていった。
今日から一週間は『生徒会選挙週間』らしく生徒会選挙の立候補生徒は応援演説の生徒を見つけて頼み込んでいるケースをよく見る。といってもだいたいは去年生徒会にいたメンバーの身内だけで行われるもので一般生徒にその出番が回ってくることはないのだ。廊下の掲示物もほとんど生徒会選挙の掲示ばかりで飽き飽きしてしまう。まぁそもそも掲示物なんてあんまり見ないけどね。
「今年はどうなるのかね。柊さん。」
「恭介も俺と同じで生徒会選挙興味ないだろ。」
「まぁそうだなー。俺ら関係ないし、適当に票入れて終わりって感じだもんね。」
「選挙内容も会長戦でせいぜい争うくらいだもんな。」
「会長戦ならうちのクラスからも柏崎さんが出るらしいぞ。」
一年の頃から生徒会で活動しているクラスの柏崎さんはクラス内での立ち位置は割りと大人しい感じの女子で何より成績が学年で常に二位なことが有名である。クラスで一人ということはないが休み時間は基本的には他のクラスに出向いていることが恭介いわく多いらしい。
「学年二位の人か。」
「柊、その覚え方可哀想だからやめたげて!」
恭介にツッコミを入れられるもそれ以外の情報が無いため何とも言えないが現状だしね。選挙自体参加側はめんどくさそうだし関わりたくないもんな。
昼の予鈴がなり、昼休みになったことをお知らせされる。伸びをしてあくびを一つ。昼飯を買いにいかなくてはなと思い立ち上がって購買に行くところを紫ノ宮さんに呼び止められて振り返る。
「柊くん…お昼ある?良かったら私と食べない?」
「無いから食堂行こうと思ってたんだけどそれでも紫ノ宮さん大丈夫?」
「うん!いいよ!」
食堂は安定に混んでいてなんとか購買で買ってきたパンを二つ持って席を取ってくれている紫ノ宮さんのもとに向かう。桜色の髪だからすぐ見つかる。
「ごめん。なんとか買ってこれた…。」
適当に買ってきたパンを食堂のテーブルにおろすと、心配そうな表情で彼女が自分の弁当を差し出す。
「柊くんそれだけで足りる?私の少しあげようか?簡単なものだけだけど。」
紫ノ宮さんは箸で弁当に入っている玉子焼きなどを弁当のふたによそってくれた。少し照れ隠していて可愛らしい。そして優しい。
「はい。えっと…美味しいか分からないけど…。」
「手作りなの?」
「あ…はい。お口に合うか分かりませんけど…嫌じゃなければ食べてくれると嬉しい…。」
残すはむしろ申し訳ないし、手料理とあらば食べなくては可哀想だもんね!食材が泣いちゃうわ!べ…別にただ食べたいとかそういうんじゃないんだからね!うん。男がツンデレやっても汚いだけだな。
「この玉子焼き。甘さ控えめで優しい味…それでいてどこかまろやかな感じ。」
「気に入ってもらえたなら良かった…えへへ。」
そのえへへ。一撃必殺ですね。玉子焼きに振りかけるスパイスといっても過言ではない。うん、自分でもなに言ってるのか分からん。
食事を終えてやはり話題は生徒会選挙。あれだけ大々的に掲示されていればやはり注目せざる終えないのだろう。紫ノ宮さんがふっと疑問をよこす。
「柊くんはどうするの?誰に投票するとか…。」
「うちのクラスから柏崎さんが立候補するらしいしその人で良いかなと。紫ノ宮さんは?」
「私も柏崎さんかな…でも今年応援演説してくれる友達が入院しちゃったらしくて応援演説者決まらないんだって。」
「応援演説者決まらないとどうなるのかね。」
「分からないけどたぶん選挙活動は不利になると思う。でも柏崎さんと私は話したこと無いし、応援演説なんてガラじゃないもん。」
「まぁ票をあげるくらいしかサポートしてあげられないよね。」
「居た!柊さん!」
突然、横から謎の声が入ってきてお前誰だよ状態が続いている。俺じゃないよね。と思っているとおーいと言わんばかりに横で見ている少女がいる。
そこにいたのは話題にあげていた人物『柏崎紗菜子』だった。噂をすればなんとやらってやつだな。
「柊くん?柊。柊さん。りんりん。」
「ほとんど話したこと無い相手に変な呼び名つけるな。誰だよお前」
「おぉーりんりんか。ごめんね。そうです!私が柏崎です。」
いきなり出てきた口元の小さなほくろが印象的な彼女は学年二位の柏崎さんだった。咄嗟に誰だよと言ってしまった。というか大人しいイメージとは?と思ったがこういうタイプの人物をもう知っている。そう部長である。この人もスイッチ入るとめんどくさい人か…。
「莉奈っちもごめんね。いきなり。」
「あ…いえ。それで柊くんに何か?」
「そう!りんりんには応援演説頼めないかな…って思ってだね!」
今こいつなんて言った。応援演説頼めないかなって言ったのか?なわけないよな。誰でもいいって訳ではないだろうに。第一理由が気になる。
「なんで俺?」
「いやぁ先日莉奈っちを守るために溝口さんと下駄箱で口論してたでしょ?あれ見て決めたのよ。りんりんしか応援演説代理は頼めないってね!」
やめてくれ。その莉奈っちには秘密にしてたのになんで言っちゃうのよ。少し焦って紫ノ宮さんに視線を送ると嬉しそうに笑顔で返してくる。やべー可愛いー。そうじゃない。そうじゃなくて…。
「そもそもあれは見せ物じゃないから!あとその変な呼び方俺のこと?」
「柊くんの名前は凛音でしょ?だからりんりん。」
「そんな名で呼ばれるくらいなら殺せ!いっそ切腹してやる!」
「落ち着いて柊くん!柏崎さんの話聞いて見ようよ。ね?」
紫ノ宮さん。俺のこと売らないで。なんか乗せられてるよ柏崎さんのペースに。
「いきなり言われて混乱してるよね。詳しい話は生徒会室でするから放課後空いてたら来てよ。空いてたらで良いからね?待ってるよりんりん!」
そういうと柏崎さんは急いで食堂から出ていってしまった。紫ノ宮さんと唖然としながらしばらく立ち上がってボーっとしていた。俺もなんか嵐が来て適当に荒らされた感じになってるけども。
生徒会選挙なんぞ間違いなく面倒ごとの中の面倒ごとだ。絶対に関わりたくなどない。それに協力するメリットが無い。せっかくの安定し始めた日常がまた狂い出したのだった。
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