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第一章: 天文部
第2話: 日常に生まれた変化
しおりを挟む翌日、流星群までの日にちがついに一週間を切った。シフトは昨日と人員交代を行い、俺は天職の座っているだけ…もとい活動紹介の係から外されてしまった。
任された仕事は新入生への呼びかけだ。コミュ障に呼びかけさせるとか鬼畜の所業でしょ。そもそもあんまり人が来ないのは活動が不明瞭な天文部のせいで俺のせいではない。俺は悪くない。悪いのは社会だ。適当に時間を潰して部室に戻るとしよう。
静かに時間を潰せそうなところは図書館かな。あそこなら誰も話しかけてこないだろうし新入生がいることもない。サボっていることもバレない。俺天才かもしれん。
予想通り図書館でさすがに部活勧誘をやってる者は居ない。部活勧誘の時期であるからか図書館の利用者数はほとんど居ないと言っても過言ではない。思ったのだがここにポスター貼り出すのとてつもなく無意味なのでは?剥がさなくても狂気は伝わらなかったのでは?
「柊くんは部活勧誘しないの?」
背後から声をかけられて思わず身構える。貴様アサシンか!と思いきやクラスメイトの女子だった。部長じゃなくて良かった。
「おう。そんなものしても新入生来ないからな。」
「なんでそんなに諦めてるんですか…。」
軽く呆れた表情の紫ノ宮さんは少し頰を赤らめながら目をそらす。その対応やめて、こっちが恥ずかしくなっちゃう。沈黙の時間が恥ずかしいからなんか話さないと。女子だと思うと変に意識してしまい話しづらい。乃愛ほど男っぽければ話しやすいのだ。
今日はいい天気ですね。いや会話下手くそか。下手くそなんだけども。
「紫ノ宮さんは委員会活動?」
じゃなかったらここにいないよね。
「う…うん。そんなところかな。柊くんは部活勧誘サボって何してるの?」
「そうそうサボって。いやサボってないよ、正直知らない人に話しかけるのしんどくない?」
「そう言うことだったんだ…分かるよ。私も苦手だもん。でも意外かも。柊くんって割りとそう言う勧誘とか得意そうなのに。」
何を根拠に俺はそう言う印象持たれてるのよ。クラスの俺とか乃愛と恭介以外と話さない鎖国主義よ?一般生徒はウケツケマセン。
「いやいやなぜ?」
「教室で神崎さんと話してるし、元気な部長さんと対等に話したりしてたし。」
風評被害だ。昨日の一件でイメージが固定されてしまったのだろう。他人と話せないこともないが人と話すのに高カロリー消費をしてしまうのだ。今後は省エネを掲げていこう。でも乃愛か。
「乃愛ね。口調は乱暴だけど話してみると案外優しいところあるんじゃないかな。」
「名前呼びだもんね。そっか…親しいんだね。」
「あぁ同じ部活っていうのもあるしね。」
紫ノ宮さんが明らかに乃愛のことを恐れているようにも思えた。正直それは無理もないと言えば無理もない。
乃愛は同学年の中では有名なウワサが校内でされている。中学の際に同学年の女子生徒と一方的な暴行騒ぎもとい喧嘩騒動を起こしたというものがウワサの内容であり、誰が流したかも分からない根拠のないものであった。それがあってかクラスの女子からは少し近寄りがたい風に思われている。
根拠のないものを騒がれているのは友人として少し腹立たしいが、口調や態度からもそんな風に思われてしまっているらしい。挙げ句の果てには一部男子にさえも恐がられてしまうほどにまでなっていた。
乃愛自身がそれを否定しないのにも原因はあるのだが、俺や恭介はそう言った類いのウワサは知らずに高校一年のときに彼女と出会い、関わっていく中でこのウワサは知ることになった。
こうして乃愛は俺や恭介と一緒に過ごすようになり、口調が乱暴なのは素直じゃないだけで根は優しいことから、俺らの中ではウワサは所詮ウワサに過ぎないといった結論に至ったのである。
乃愛との接点が無い紫ノ宮さんにとってはウワサが嘘だと信じる根拠は無いが、悪く言われる友人は不憫でならなかった。
「ってことは柊くんは神崎さんとお付き合いはしてない…ってことだよね。」
紫ノ宮さんは何かを閃いたかのようにボソッと発言する。はい?
「いや、ないない。それは無いよ。」
「よかった…。」
紫ノ宮さんは小声で何かを呟くと表情が若干明るくなった。いやよくよく考えてみれば乃愛と付き合うってやばそうだな。事あるごとに絞められそう。
「柊くんさ。その…。」
何かを言いかけた紫ノ宮さんは途中でそれを切り上げて、何でもないと笑って誤魔化す。
「ちょっと気になって夜も寝れなくなりそうです。」
「大したことじゃないよ!そ…そんなに気になるの?」
ちょっぴり恥ずかしそうに上目遣いで見つめてくる彼女に少し焦る。
これ無意識でやってるならマジでたち悪いぞ。もう好きになっちゃう!いやそんなチョロくないよ。
踊らされているのだ。
「いやそうでもない。」
「からかったんですか?からかったんですね!!」
紫ノ宮さんは顔を真っ赤にして俺の肩を数回叩く。やばい。ちょうどいい力加減そして可愛い。
もし乃愛だったら同じシチュエーションで俺の肩が脱臼するだろう。何それ恐い。今度恭介あたりにやってもらおう。
ふと時計を見るとあと数分で夕方四時を示していた。
「あ。ミーティングあるから俺そろそろ部活戻るよ。」
「うん…。えっと…明日…ここ来る?」
「分からないけど…たぶん?」
「分かった。じゃあまた明日ね…。」
「おう。」
紫ノ宮さんと別れ、図書館を後にする。図書館を出て入り口を振り返る。
「また明日ね…か。」
図書館に本来の目的で行ってないのは不味いだろ…。そう思いながら歩みを部室へと戻す。
いつもの俺の日常にはなかった時間が刻まれたのだった。
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