FLY HIGH

真山マロウ

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飛翔

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 またもや寝つけない夜をのりこえた、翌日。待ちあわせは午前十時。シロのリクエストで私の家の前だ。

「悠乃、おはよう」

 アパートをでると、快晴の空と同じくらいの眩しい笑顔が待っていた。

「ごめん、おまたせ」
「平気だよ。ぼくが早かっただけだから」

 もしシロに尻尾がはえていたなら、ちぎれそうなほど振っていただろうと思えるくらい、格別に上機嫌だ。

「楽しみだな。どこに行くの?」

 ことあとシロは出立予定。遠出はさけておきたいところ。

「このあたりをお散歩しようかと思ってたけど、どこかシロが行きたいとこあるなら、そっちでもいいよ」
「ありがとう。ぼく、公園がいいな。高台のとこの」

 丘の上にある運動公園のことだ。敷地内には体育館やテニスコートなどの施設もあって、けっこう広い。あの場所を知っているのなら、シロもこのあたりに住んでいたのかもしれない。

 気になるけれど、自分に関しての質問には答えてくれないから、追及するだけ徒労だろう。それに、なんとしても今日だけは、いざこざなく過ごしたい。余計な発言は慎んでおこう。

 なだらかな坂道をのぼる。雲ひとつない蒼天のもと、散りそめの桜がせつなさを助長する。あと数時間で、さよなら。嘘であってくれればいいのにと願わずにいられない。

「悠乃への恩返し、なににしようか?」

 こんな時でもシロは平常運転。しかも、もうお別れっていうのに、まだそこにこだわるのか。

「これでいいよ。お散歩」
「そんなの、ぼくの気がおさまらないよ。悠乃にはお世話になったんだから」
「それは私のほうだよ。たくさん話し相手になってもらって」

 ほんと、どれほど救われたことか。だからこそ、きちんと、はっきりさせなきゃいけない。

「今さらで申し訳ないんだけど、恩返ししてもらう心あたりが……。ごめん、どう頑張っても思いだせないままで」

 とんでもない言い草だけど、黙ったままお別れするのはシロのこと騙しているみたいで良心の呵責を感じるのだ。

「気にしないで。悠乃が忘れてても、ぼくは覚えてるから」

 シロは、まるで意に介することなく意気揚々と先を進む。

「いや、そういうわけには」

 そこ一番重要なとこじゃないの、と言う暇もなく。公園に入るとすぐ、シロがふり返った。

「ぼく、ここで悠乃に会ったんだよ」
「えっ、うそ。ここ?」
「そうだよ。あっちのほう」

 シロが指さしたのは広場の一角。この時期は菜の花が咲き、遠目からでも黄色にそまっているのがわかる。
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