婿入り志願の王子さま

真山マロウ

文字の大きさ
上 下
22 / 40
トラブルメーカー

3

しおりを挟む
 翌日、ロラン王子たちは釈放されるトウヤを迎えに、老婆と城へ赴きました。
「ばあちゃん!」
 彼女を見るなり、トウヤが駆けよります。
 そして、チトセ女王からの贈りものである車椅子に驚喜。自分をかばったロラン王子には、何度もお礼をのべました。
「とにかく無事でよかったよ。さあ、帰ろう。おばあちゃんとトウヤのおうちに」
 ロラン王子がコルトに合図。空間移動で彼らの自宅の庭へ到着します。と、枯れ木の前には思わぬ人物が。
「あれ? ハクレンちゃん?」
「おまえたち、もう帰ってきたよ」
「ちょうどよかった、お礼言いたかったんだ。俺の傷なおしてくれてありがとう。命の恩人だよ」
「あのくらい簡単よ。そういう殊勝な態度なら、また助けてやるよ」
「ほんとに? さっすがハクレンちゃん!」
 和気あいあいとする背後からプレッシャー。嫉妬まみれのコルトの視線に気づいたロラン王子は、いちもにもなく軌道修正をはかります。
「で、どしたの、こんなとこで」
「チトセ様の命令できたよ」
「げっ、まさか釈放とり消しとかじゃないよね。あの女王様、突然とんでもないこと言いだすから」
「……おまえ、チトセ様を誤解してるよ」
 ハクレンによれば、トウヤ処罰のとき腕を斬りおとしたら即治癒できるよう、チトセ女王の命令で密かに待機していたとのこと。
「ライゴさんに刑を執行させたのも、彼の腕前をみこんでですか」
 アルマンの問いに、そういうことよ、と答えるハクレン。
「ここにきたのは、その枯れた桜をどうにかできないか見てこいって言われたからよ」
「なるほど。それでどうです、復活させられそうですか」
「いいや、その必要ないよ」
 ハクレンが杖の先で根本付近をさします。そこには数枚の小さな若葉が。
ひこばえ・・・・よ。この木、新しい命をのこしたよ」
 ロラン王子の顔がぱっと輝きます。
「おばあちゃん、トウヤ、よかったね! 思い出の木、大丈夫だったよ!」
「でも、こんな小さいので花咲くんすか」
「だったら咲くまでは、みくも屋のを見ようよ。おばあちゃん、庭の桜すごく気に入ってたからさ。みんなでお花見すんの。楽しみだな」
 どこまでも楽観的なロラン王子に、アルマンが釘。
「そのころまで俺たちが滞在しているとはかぎりませんが」
「そしたらまたニリオンに来ればいいよ。コルトがいればいつでもすぐだし」
「それこそどうなるか。彼は修行の旅の途中ですから」
「あ、そっか。じゃあハクレンちゃんにお願いしようよ。それで一緒に」
 辛抱の限界、コルトがしゃしゃりでます。
「ハクレン様のお手をわずらわせるわけにはまいりません! たとえいずこにいようとも必ず私がはせ参じます!」
「う、うん、そうしてくれると助かるかな……」
 圧倒されるロラン王子。ですが、頭の中は来年のことに彩られます。
「もちろん、チヨちゃんやモモちゃんも。ライゴはどうしよう。でも、のけ者にするのは趣味じゃないから、声はかけよう」
 ハクレンも口を挟みます。
「ミヤ姫とチトセ様も招待するよ」
「えー、ミヤ姫は大歓迎だけど」
「おまえもっと審美眼を養うよ」
 主役をさしおき話を進めるロラン王子たちに、トウヤが苦笑い。
「すごいことになりそうだな、ばあちゃん」
 言われた老婆はむろん、なにがなにやらですが、
「桜が咲いたねェ……」
 しわに囲まれた目を細めると、くり返しくり返し、そう呟いたのでした。

「本当によかった。ふんふふーん」
 数日後、アルマンに手伝ってもらいながら掃除をこなしていたロラン王子は、鼻歌まじりでご機嫌でした。
「ハクレンさんが若芽の育成をサポートをしてくれるそうですし、安心ですね」
「だね。たまに遊びいってもいい?」
「仕事をサボらないなら、お好きにどうぞ」
「あ、その前にミヤ姫にお礼言いたい。チヨちゃんにお願いしたら会わせてもらえるかな」
「ライゴさんのほうが早いですよ」
「ええー、頼みにくいんだけど」
 と、雑巾ぞうきんがけの手をとめロラン王子が上目づかい。
「チトセ女王にもお礼言うべきかな」
「そのほうが心証いいでしょうね」
「俺、あの人苦手だ。兄上っぽいんだもん」
「ミヤ姫との結婚を本気で考えるなら、そうも言ってられないですよ」
「……だよね。気乗りしないけど」
 ふう、とため息。ふたたび手を動かします。
「手土産なににしようかな」
「必要ないでしょう。形式上あちらは王族で俺たちは平民ですし」
「けど、ミヤ姫にはお世話になったから、なにかプレゼントしたいな。この国の女の子ってどんなもの喜ぶんだろ」
「俺にきかれましても」
「そうだ、様子見がてらあとでモモちゃんにきいてみよう。最近ちょっと元気ないから心配だよ」
 老婆が去って以来モモはどこか寂しげで、それが目下ロラン王子の気がかりでした。
「ミヤ姫はお城ちかくの『もちもち堂』ってお店の、もちもちしたお菓子が好きみたいですよぉ」
 午後、縁側で庭の桜を眺めていたモモにたずねたところ、彼女は思いのほか有益なことを教えてくれました。
「助かるよ、モモちゃんが情報通で」
「ここにいると、みなさんがいろんなこと教えてくれるんですぅ」
 モモがにこにこ笑います。ロラン王子は彼女の笑顔がとても好きでした。見ると、なぜだか優しい気持ちになれるのです。
「いつもありがとね。それと、はいこれ。遅くなったけど、俺の看病と、かわりにおばあちゃんのお世話してくれたお礼。開けてみて」
 ロラン王子が紙包みを渡します。中身は、髪にも服にもつけられる八重桜を模した花飾り。包装やリボンまでも桃色なのは、モモの一番好きな色だと店の子たちに教えてもらったためです。
 きっと喜んでもらえるというお墨つきもあり、ロラン王子もすっかりその気だったのですが、
「……ごめん。あんまり気に入らなかったかな」
 おし黙ってしまったモモに、ロラン王子が眉を曇らせます。
 しかし、やがて彼女はおもむろに顔をあげ、
「とっても嬉しいです。大切にしますね。ありがとうございます……」
 瞳を潤ませほころぶと、ロラン王子の心臓はドキンと激しく跳ねました。
「よ、よかった。それじゃあ俺、コルトの洗濯を手伝ってくるから」
 急いでその場を離れます。
 わけもわからず、こんなにも胸がバクバクするのは、生まれて初めてのこと。ロラン王子は、なんだか恐ろしくなってしまったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...