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運命の出会い
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「なにかやってんのかな? みんな見てるね。気になるね」
ロラン王子のそわそわっぷりに、アルマンがため息。
「大道芸でもしてるんじゃないですか」
「えっ、俺も見たい。行ってみようよ」
「かまいませんが、人様の迷惑になりますから走らないでくださいね」
賑やかなこと好きな性格というのもありますが、ロラン王子は芸人と呼ばれる彼らのことが大好きでした。磨かれた技とそこにたどり着くまでの努力を思うと、感動と尊敬をおぼえるのです。
かつてチヨがエトワルンを訪れたおりも、すんごい踊り子がやってくるという噂を事前に聞きつけ、何日も眠れないほどでした。
胸のうちで暴れまくる高揚感をおさえつつ、ロラン王子が早歩きで人垣に向かいます。
けれども近くまできて、その様子がおかしなことに気がつきました。見物人には笑顔がなく、不穏な空気なのです。
「なにかあったんですか」
追いついたアルマンが、そばの人物に話しかけます。棟梁風の身なりをした彼は酒の息で応じましたが、赤ら顔は酔いのせいだけではないようです。
「なにもくそも、桜が折られてるんだよ!」
怒気の声。それを皮切りに、ほかの者たちも放言で参加します。
「枯れてしまうかもしれないな。傷口から雑菌が入りやすいって聞いたことがある」
「ひでぇことするヤツがいたもんだ」
「ミヤ姫が大切に世話してたのにねえ。おかわいそうに」
「今もほら……」
話を聞くなり、人びとのあいだからロラン王子がすき見。
「あっ!」
と声が出てしまったのは、少女の横顔が目に飛びこんできたからでした。
白い肌に、ミルクティー色の髪。ふし目がちの長いまつ毛の下は、形のいい鼻口につながっています。
桜花と同じ、薄桃色の衣をまとっている彼女こそが、
「ミヤ姫だ……!」
離宮で見た面影が脳裏によみがえりますが、実物のほうがはるかに可憐に思えました。
そんな彼女が、ぼっきりと枝の折られた桜のたもとでいたいけに涙をこぼしているものですから、ロラン王子はいてもたってもいられません。
とり憑かれでもしたように、ふらふらと人ごみをすり抜けようとする腕を、アルマンがすばやく掴みます。
「なにをするつもりですか」
「だってミヤ姫が泣いてる。慰めないと」
「それは姫のまわりの方々がすることです。ロラン様が出ていっても不審者扱いされるだけですよ」
言いながらミヤ姫に目をやると、彼女をとりまくうちの一人、護衛らしき青年と視線がかちあいました。
刹那、アルマンの体が本能的にこわばります。
「……行きましょう。チャンスはまだあります」
低く囁くアルマンに、ロラン王子もコルトも迫力負け。うながされるまま場を離れ、道すがら購入した茣蓙を広場のはじに敷きます。
腰を落ちつけたところで、ようやく件の団子を賞味。主張しすぎない奥ゆきのある甘さともちっとした弾力で、評判どおりの美味しさです。
いつもならばそれだけで機嫌をひっくり返すロラン王子でしたが、今回ばかりはいまだ腹にすえかねていました。
「なんかショック。この国であんな事件がおこるなんて。みんないい人だと思ってたのに」
桃白緑に彩られた串団子を片手、アルマンが応じます。
「どこにだってそういう輩はいますよ。まあ、犯人がこの国の人間ともかぎりませんけど」
「じゃあ、よそからきた人のしわざってこと?」
「かもしれませんね。それよりどうですか。見事なものですね、桜」
コルトの体調を考慮し酒の持参を控えたため、また日をあらためて一杯やりにこよう、の腹づもりで頭上を眺めるアルマン。ロラン王子は不満げです。
「なにさ、他人事みたいに」
「実際そうですよ」
「じゃないよ。俺のお嫁さんの一大事なんだってば」
と、二本目を食べようと大きく口をひらいたロラン王子が「あ!」と声をあげます。
「いいこと思いついた。俺たちで犯人を捕まえるんだよ。名づけて、ミヤ姫泣かしたやつ絶対許さない作戦!」
食べおえた串を片づけるアルマンは、わずかばかり考えたのち、
「作戦名はともかく、案は悪くないと思いますよ」
「うっそ、いいの?」
「なんですか、そのつもりで言ったんじゃないんですか」
「アルマンのことだから絶対反対すると思ってた」
「そんなことしたって、どうせ俺の目を盗んでやらかすでしょう。そのほうがなにかあったときに困りますし、それに」
ふと膝に舞いおりた桜の花びらを優しく指でつまみ、アルマンが見つめます。
「無抵抗なものを一方的に痛めつける行為は、俺の美学に反しますんで」
「えー、いつも無抵抗に痛めつけられてる俺の立場……」
「あんなのいくらでも避けられるでしょう。そのくらいの稽古はつけていますよ」
じつのところロラン王子はアルマンから定期的に指導をうけており、多少のことであれば自力でしのげるほどの技量をもっていました。
「そんなことないよ。アルマンは容赦ないから」
へらりと笑ったロラン王子は三本目の串に手をのばしながら、
「というわけで、コルトよろしくね」
「は? 私ですか?」
「魔術師なんだから魔法でパパッと解決してよ」
「そんなむちゃな」
続く食欲不振に茶だけをすすっていたコルトが、うんざりと顔をしかめます。
ロラン王子はどうにか彼をその気にさせようと、ご機嫌とりの口説き文句を心に準備しました。
が、いつのまに来ていたのか、それは隣に立つ人物に阻止されることに。
「見ない顔だな。よそ者か」
声をかけられ、アルマンの頬に緊張が走ります。
鋭い眼光で見おろしてきたのは、先ほど目があった青年でありました。
ロラン王子のそわそわっぷりに、アルマンがため息。
「大道芸でもしてるんじゃないですか」
「えっ、俺も見たい。行ってみようよ」
「かまいませんが、人様の迷惑になりますから走らないでくださいね」
賑やかなこと好きな性格というのもありますが、ロラン王子は芸人と呼ばれる彼らのことが大好きでした。磨かれた技とそこにたどり着くまでの努力を思うと、感動と尊敬をおぼえるのです。
かつてチヨがエトワルンを訪れたおりも、すんごい踊り子がやってくるという噂を事前に聞きつけ、何日も眠れないほどでした。
胸のうちで暴れまくる高揚感をおさえつつ、ロラン王子が早歩きで人垣に向かいます。
けれども近くまできて、その様子がおかしなことに気がつきました。見物人には笑顔がなく、不穏な空気なのです。
「なにかあったんですか」
追いついたアルマンが、そばの人物に話しかけます。棟梁風の身なりをした彼は酒の息で応じましたが、赤ら顔は酔いのせいだけではないようです。
「なにもくそも、桜が折られてるんだよ!」
怒気の声。それを皮切りに、ほかの者たちも放言で参加します。
「枯れてしまうかもしれないな。傷口から雑菌が入りやすいって聞いたことがある」
「ひでぇことするヤツがいたもんだ」
「ミヤ姫が大切に世話してたのにねえ。おかわいそうに」
「今もほら……」
話を聞くなり、人びとのあいだからロラン王子がすき見。
「あっ!」
と声が出てしまったのは、少女の横顔が目に飛びこんできたからでした。
白い肌に、ミルクティー色の髪。ふし目がちの長いまつ毛の下は、形のいい鼻口につながっています。
桜花と同じ、薄桃色の衣をまとっている彼女こそが、
「ミヤ姫だ……!」
離宮で見た面影が脳裏によみがえりますが、実物のほうがはるかに可憐に思えました。
そんな彼女が、ぼっきりと枝の折られた桜のたもとでいたいけに涙をこぼしているものですから、ロラン王子はいてもたってもいられません。
とり憑かれでもしたように、ふらふらと人ごみをすり抜けようとする腕を、アルマンがすばやく掴みます。
「なにをするつもりですか」
「だってミヤ姫が泣いてる。慰めないと」
「それは姫のまわりの方々がすることです。ロラン様が出ていっても不審者扱いされるだけですよ」
言いながらミヤ姫に目をやると、彼女をとりまくうちの一人、護衛らしき青年と視線がかちあいました。
刹那、アルマンの体が本能的にこわばります。
「……行きましょう。チャンスはまだあります」
低く囁くアルマンに、ロラン王子もコルトも迫力負け。うながされるまま場を離れ、道すがら購入した茣蓙を広場のはじに敷きます。
腰を落ちつけたところで、ようやく件の団子を賞味。主張しすぎない奥ゆきのある甘さともちっとした弾力で、評判どおりの美味しさです。
いつもならばそれだけで機嫌をひっくり返すロラン王子でしたが、今回ばかりはいまだ腹にすえかねていました。
「なんかショック。この国であんな事件がおこるなんて。みんないい人だと思ってたのに」
桃白緑に彩られた串団子を片手、アルマンが応じます。
「どこにだってそういう輩はいますよ。まあ、犯人がこの国の人間ともかぎりませんけど」
「じゃあ、よそからきた人のしわざってこと?」
「かもしれませんね。それよりどうですか。見事なものですね、桜」
コルトの体調を考慮し酒の持参を控えたため、また日をあらためて一杯やりにこよう、の腹づもりで頭上を眺めるアルマン。ロラン王子は不満げです。
「なにさ、他人事みたいに」
「実際そうですよ」
「じゃないよ。俺のお嫁さんの一大事なんだってば」
と、二本目を食べようと大きく口をひらいたロラン王子が「あ!」と声をあげます。
「いいこと思いついた。俺たちで犯人を捕まえるんだよ。名づけて、ミヤ姫泣かしたやつ絶対許さない作戦!」
食べおえた串を片づけるアルマンは、わずかばかり考えたのち、
「作戦名はともかく、案は悪くないと思いますよ」
「うっそ、いいの?」
「なんですか、そのつもりで言ったんじゃないんですか」
「アルマンのことだから絶対反対すると思ってた」
「そんなことしたって、どうせ俺の目を盗んでやらかすでしょう。そのほうがなにかあったときに困りますし、それに」
ふと膝に舞いおりた桜の花びらを優しく指でつまみ、アルマンが見つめます。
「無抵抗なものを一方的に痛めつける行為は、俺の美学に反しますんで」
「えー、いつも無抵抗に痛めつけられてる俺の立場……」
「あんなのいくらでも避けられるでしょう。そのくらいの稽古はつけていますよ」
じつのところロラン王子はアルマンから定期的に指導をうけており、多少のことであれば自力でしのげるほどの技量をもっていました。
「そんなことないよ。アルマンは容赦ないから」
へらりと笑ったロラン王子は三本目の串に手をのばしながら、
「というわけで、コルトよろしくね」
「は? 私ですか?」
「魔術師なんだから魔法でパパッと解決してよ」
「そんなむちゃな」
続く食欲不振に茶だけをすすっていたコルトが、うんざりと顔をしかめます。
ロラン王子はどうにか彼をその気にさせようと、ご機嫌とりの口説き文句を心に準備しました。
が、いつのまに来ていたのか、それは隣に立つ人物に阻止されることに。
「見ない顔だな。よそ者か」
声をかけられ、アルマンの頬に緊張が走ります。
鋭い眼光で見おろしてきたのは、先ほど目があった青年でありました。
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