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第240話:御旗

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「さて、梟熊オウルベアは帰ったしあとはこのクソ女だけね」


 オズベルクの水魔法で飛んで行った魔物を見送り、腰に手を付けつつ彼女の方を向く。
 紅の騎士は口笛を吹いていて、我関せずといった態度だ。
 フン…いつまでもお気楽気分でいられると思ったら大間違いよ。


「フレデリカ…貴殿の言動に口を出す気はないが、少しは淑女の嗜みを覚えたらどうだ?」

「は、ハァ?
 パパみたいなこと言わないでよね、ドラゴンのくせに」

「あははっ、オズお父さん愛娘に嫌われちゃった~」


 そんな微妙に緊張感のないやり取りを紅の騎士はジーと眺めていた。


「なによ?」

「いや…、まさかお前たちも魔族に認知されてるとは思わなくてさ。
 ウチらがこの山に入ってしばらくしたあと、追手の魔族がいる割に、妙に攻めあぐねいてたのって…」

「ああ…半分は我輩が目的だろう。
 ドノヴァン村に厄介になっている間、ガードとして務めていたからな。
 フレデリカ達がもう少し早く合流してくれれば、我輩も必要以上に目立つことは無かったのだが」


 オズベルクは苦笑いで肩をすくめる。
 そんなこと言ったって、こっちは人数がいるんだし仕方ないじゃない。


「あなただけを狙ってきた魔族も居たわね。
 ご丁寧に黒炎属性の魔物まで連れて…」

「レイト達とエドウィン率いる部隊のおかげで、闘わずに済んだ。
 数匹の黒獄犬ヘルハウンドだけなら我輩でも対処できるが、あの数ではな…」

「ヘル…? う……」


 黒獄犬ヘルハウンドの名に、何故かカーティスが顔を青くした。
 ……ああ、そっか。
 レイトからヒドイ目に合わされたんだっけ。


「それはそうと、そろそろアンタ…いや、アンタと黒の騎士について聞かせてもらうわよ。
 まず名前を教えなさい」


 ダラダラと会話してないでとっととやることやってしまいましょう。
 改めて紅の騎士に訊ねると、彼女は腕を組んで応えた。


「さっきも名乗ったと思うけど…ウチは『アリサ・エボニィ』だよ。
 それで…いま言った『黒の騎士』ってまさかカンバクのことを言ってるの?」

「アンタが着てる鎧の黒いやつよ。
 …ていうか勝手にそっちが質問しないでよ。
 今の立場分かってんの? このまま拘束し…」

「ああ、この魔法のこと? ほいっ」


 紅の騎士は拳を握って、軽く気合いを入れるように魔力マナを放出した!

バシャッ!

「!?」


 オズベルクの水魔法を吹っ飛ばし…!?
 コイツ…まさかワザと捕まってたの!?


「…やはり貴殿は強い魔族だ。
 大人しく我々に追従した訳を聞いても?」

「大した理由じゃないよ。
 情報は常に集めておく方が安心できるだけ。
 …それに、どうも引っかかるんだよね…?」


 紅の騎士は『乾燥トロクネ』を使いながらある人物に視線を向ける。


「んー? ワタシ?」

「うん。お前、赤竜レッド・ドラゴンなんだよね?
 ウチ、聞いたことがあるんだ。
 はるか大昔に一部のドラゴンをベースにした、『竜の機械マキナ』が存在したって。
 この『赤の装衣ころも』はそのひとつで、赤竜レッド・ドラゴンを参考に創られたと言われてるよ」

「……………?」


 『マキナ』ですって…?
 ハルートの苗字と同じ…。
 ……そういえばさっきカーティスも鎧の名前を気にしてたような?
 しかし今のカーティスは首を捻るだけで、騎士の言葉にピンと来ていないようだ。


「ん~ワタシまだ270歳の若いドラゴンだよ?
 赤竜レッド・ドラゴンなんて他にもいっぱいいるし、そもそも大昔ならワタシ産まれてないよ。
 だからその鎧はよく分からないなぁ。
 ワタシのダンジョンのお宝だった『赤の書』なら知ってるけど」

「『赤の書』?
 変な装飾がされたあのよく分からない透明色の〝板〟のこと?
 幹部連中が妙に大事にしてたけど…」

「あーそれそれ!
 そのお宝はワタシが苦労して見つけてきたんだから早く返してよー!」


 カーティスは頬をぷくっと膨らませて騎士に詰め寄る。
 ついつい忘れそうになってたけど、一応この子『迷宮主』ダンジョンマスターなのよね…。
 とても全然そう見えないけど…。


「そんなこと言われても、ウチは〝裏切り者〟だからさ。
 追われてる身だし、返したくても返せないよ。
 ちなみにあんなのどこで見つけて来たの?」

「……えっ? えっと……えっと…」


 切り返しの質問にカーティスが慄く。
 指を頭に当てて必死に思い出そうとしてるみたい。
 ちょっとだけ可愛いかも。


「~~~…!! うう、ダ、ダメだぁ!
 ワタシ記憶力良くないからはっきり思い出せないよー!
 でも『赤の書』は絶対ワタシが見つけたの!」


 お宝を用意した張本人が憶えてないってどういうことよ…。
 さすがに紅の騎士も少し呆れている。


「ウチもそこまで古代魔道具アーティファクトに詳しいわけじゃないから、当時の状況はよく分からないけど…。
 なんにせよ、この鎧は魔王には渡すわけにいかない」
 
「……?
 その言い方だと、まるでアンタ紅の魔王と敵対してるように聞こえるわね。
 いったい何者なのよ?」


 何気なく言ってみると、騎士は私の方に早足でツカツカと歩いてきた。
 ちょ、ちょっと!? な、なによ!?


「ウチと〝弟〟のカンバク・アイヴォリーは、魔族の国アルケインの新たな〝反乱団〟!
 そして『赤の装衣ころも』を着たこのアリサ様が、生まれ変わった反乱団のになってやるんだ!」









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