上 下
239 / 294

第236話:赤ノ装衣

しおりを挟む
「フレ子、飛バスカラシッカリ掴マッテテネ」

「分かったわ!」


 オズベルクと紅の騎士が居る雲と雲のスペースへ目標をたて、カーティスは翼を羽ばたかせて空を昇り始める。

 今日の天候は快晴。
 下から仰げば青空が澄み渡る爽やかないい景色なんだけど、実際に空を駆けている身からすればあまり気持ちのいいものじゃない。
 しょっちゅう顔に風は当たるし、息もしづらいし、オマケに落下しないよう身体を支えるだけで精一杯な始末。

 以前、オズベルクやルカと合体したレイトに抱えられて同じように空を飛んだこともあった。
 今ほどスピードは速くないにしろ、正直もう二度と空中散歩はゴメンだと思っていたわね。


「…………!」

「…………!」


 必死にカーティスにしがみついている間に、目標地点まであっという間に近づいて来た。
 さすがドラゴン。やるじゃない、カーティス。

 地上から見た光景そのままで二人は互いに魔力マナを操り戦闘魔法を撃ち合っている。
 レイトが空で闘う時以上の高速戦を繰り広げ、両者とも巧みな機動で空を舞う。

 遠目だから分かりにくかったけど、やっぱりオズベルクは人型のままだったわね。
 背中から展開させた翼を使って空を自在に飛び回っている。

 そして対する、『紅の騎士』。
 やっと…、やっと見つけたわ!
 頭部をすっぽり被ったフルフェイス型の兜、私よりやや小柄な身体付きに装備された赤色の甲冑、片手には尋常じゃないくらいの魔力マナが込められた片手剣を携えている。
 あれが…ママが寿命と引き換えに封印した紅の魔王…私たち人類の、敵…!


「フレ子!
 ドッチモ闘イニ夢中デ、マダワタシ達に気付イテナイ!
 オマエノ弓デ攻撃シヨウ!」

「ええ! あんなのすぐ撃ち落としてやるわ!」


 私は背中に掛けた弓を握り、矢を引いて攻撃の準備を始める。

 ……集中よ、フレデリカ。
 フン、空中戦で弓を扱うのはこれが初めてじゃないんだから。
 傭兵の戦闘技術を見せてやるわ!
 激しく動き回る紅の騎士へ狙いを定める。


「『雷光射ライトニング・ショット』!」

「「…!」」

ヒュオンッ!

 まずは挨拶代わりに一発、騎士のすぐ傍を掠めさせ敵の動きを抑制する。
 突然の乱入者に、オズベルクも紅の騎士も機動戦を中断してこちらへ注目した。


「…赤いドラゴンが一匹…。
 背中にはニンゲンのエルフ…?
 どういうこと? 竜騎士ドラグーンの仲間でも呼んだの?」


 紅の騎士が興味深そうにこちらへ視線を送る。
 ちょっと待って、いま人の言葉を…?
 しかもこの高い声音…まさか女!?
 ということは…、コイツは紅の魔王じゃない?


「戻って来たか、カーティス。
 それに…フレデリカ」


 水の魔力マナを弾けさせ、オズベルクが私たちの隣へやってきた。
 相変わらず飄々ひょうひょうとして、パッと見たところ特に怪我もなさそう。
 …ふう、なんとか間に合ったわね。


「すまない、少々下手を打ってしまってな。
 ご覧通り闘う羽目になってしまった」

「ドジねオズベルク。でも、話は聞いたわ。
 なんでも魔族アルケインの軍がここに攻めて来るんでしょ?
 するとコイツと黒の騎士は、先に現地潜入させた鉄砲玉ってとこかしら?」

「いや、彼女は…」


 私がオズベルクと会話を始めた時だった。
 紅の騎士は剣を構え、こちらに突貫してきた!


「『暗黒突撃ダークネス・ストライク』!」

「アッ!? フレ子! 掴マッテ!」

「くっ!?」

ギュオッ!!

 バチバチと闇属性の魔法剣技が私たちの真横を突き抜ける。
 間一髪、カーティスが回避行動をとってくれたお陰で当たらずに済んだ。
 よ、よくもいきなり攻撃してくれたわね!?


「ちょっとアンタ!!
 会話してる時に狙うなんて卑怯じゃない!」

「ハア?
 そっちから先に撃ってきておいてよく言うね。
 『竜騎士ドラグーン』は正々堂々と闘う誇り高い職業ジョブだって聞いていたけど、どうやらウチのカン違いだったみたいだね」

「あれはただの威嚇射撃よ!
 敵の正体も分からないのにいきなり殺すわけないでしょ!
 それに私は傭兵団…『弓士アーチャー』よ!
 ドラゴンの騎乗は仕方なくやってるの!」

「ええ? 傭兵だって?
 あんな不意打ちしかできないんじゃ、よっぽど臆病な傭兵団なんだね」

「お、おくびょっ!? この…!
 ガルドを馬鹿にすんなら承知しないわよ!」


 な、なによコイツ!!
 ギリッと歯噛みをしながら紅の騎士を睨みつける。
 流暢な口調のわりに生意気でムカつく魔族ね!
 尻尾も翼も無いくせにドラゴンを語るなんて偉そうに…まったく…!

……………『翼が無い』?


「え…? アンタどうやって宙に浮かんで…?」


 改めて魔族の全身を見るが、特異な点といえば赤い甲冑鎧と頭部から突き出たツノぐらいで、それが空を飛べる理由には絶対なり得ない。
 こ、これってどういうこと!?


「フレデリカ、背後をよく見たまえ。
 後ろから二つほど空気の乱れがあるだろう?
 彼女が着ている鎧に、推進力を得るカラクリが仕込まれている」

「な、なんですって!?」


 紅の魔王が空を飛んだなんて話、パパもママも言っていなかったわよ!?

 一瞬脳裏に『融解メルトロ』を使ったレイトとルカが思い起こされたが、その際は必ず蒼の魔力マナが迸っている。
 しかし彼女の周りには、闇属性の魔力マナ以外何も見えない。
 オズベルクの言う通り、私たちが考えるものとは違う原理で飛んでいるのかもしれない。


「年寄りドラゴンのくせに良く分かったね?
 そう、これは『赤の装衣ころも』。
 かつて紅の魔王が着用していた古代魔道具アーティファクトのひとつさ。
 これ盗み出すの苦労したんだからね」


 ぬ、盗んだ…?
 紅の騎士は種明かしするように、クルッと軽快に宙をループしてみせた。
 背中に注目すると、肩甲骨に当たる部位に二つの突起があり、そこから白銀のミストのような…レイトやルカ風に言えば『エネルギー』が噴出している。
 これは…『外骨鎧エグゾ・アーマー』ともまた違う…?
 

「『赤ノ装衣《コロモ》』……?」


 カーティスもまた、私と同じように紅の騎士へ釘付けになっている。
 一応同じ『赤』だし何か特別な意識でも持ったのかしら?


「まったく…、山頂にいるカンバクの所に余計なが近づけないよう『怠惰《シフトレス》』を張った直後に、ドラゴンが二体も襲ってくるなんてね…。
 今日はウチ、ホントツイてないなあ」

「…!」


 『怠惰シフトレス』ですって!?
 そうか、さっきカーティスが森がザワついてるって言ってたのはそれのせいだわ!

 究極魔法『怠惰シフトレス』。
 たしか効果は『戦闘意欲ストレス』を減退させるっていう一見地味な魔法。
 それでもあの静けさは…まさか生命活動にまで影響を及ぼす魔法なのかしら?


「ま、いくらドラゴンが増えようが別に問題ないけど。
 に備えて身体を温めておくのも悪くないしね!」

ズズズ…!

 紅の騎士は気だるそうに首を回しながら、再び闇の魔力マナを剣に宿らせる。
 それにしてもあの軽そうな言動…もしかして私やレイトと同年代くらいなのかしら?


「 …これだから若い女子おなごは苦手だ。
 貴殿、いい加減こちらの話を聞きたまえ。
 我輩の目的は貴殿を討つことではなく…」

「ふん、なんと言おうと騙されないから。
 コソコソと茂みから女を覗くなんて、どう考えても変質者だよ。
 ちょっと前の…あの妙な『眼』もお前の仕業でしょ不埒ドラゴンめ!
 この『アリサ・エボニィ』が二度と悪さできないよう、直々にお仕置してあげるよ!」

「「……………」」

「カーティス、フレデリカ?
 なぜ貴殿らまで我輩を睨むのだ…?」


 自分の胸に聞いてみなさい、『覗きオヤジ』。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...