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第235話:オズベルクの行方

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「フレ子、みんな! もうすぐ到着するよ。
 ここからはできるだけ静かに移動した方がいいと思う」

「了解よ。よし、クルゥを降りるわよ」

「了解、見事な手網さばきだった」

「待ってろよ、オズベルクさん!」


 ドノヴァンの偵察隊と共に魔物を蹴散らしていくうち、目的地に近づいてきた。
 確か…このエリアは、以前ドノヴァンに登る前にみんなでキャンプを行なった場所ね。
 焚き火の跡がまだ残っている。

 それと近くに魔族らしき敵は居ない。
 どうやら私たちの方が先に着いたようね。

 クルゥ達を近くの木へ繋ぎ止め、徒歩に移動手段を切り替えた。


「ふう、いやぁまさかこんなに早く戻れるとは思わなかったよー。
 ワタシがフレ子達を探した時なんて、〝サバト〟の魔物と何回も遭遇しちゃってさー」


 カーティスを先頭に隊列を組んで進む中、彼女はまるで世間話をするように口を開いた。
 さっきは静かに移動しろって言ったくせに。


「私が相手をしたのは、脚が速い魔物か機動力が高い魔物だけよ。
 …まさかアンタ出会う敵、全部倒してたの?」

「うん!」

「バッカじゃないの…」


 あっきれた…。
 いくら力が回復したといっても、そんなんじゃ本来の目的をこなせないじゃない。
 でも、この子の闘う姿はまだ見たことないけど…仮にもドラゴンだし、もしかしてすごく強いのかしら?


「カーティスさん、オズベルクさんが居る場所まであとどのくらいですか?」

「ん? すぐ着くよ!
 あとはけもの道をまっすぐ行くだけだから」

「よし、お前ら。
 念のため得物を構えて進むぞ。
 今回は戦士長が居ない…だが、少しでもケガをして帰ろうものなら、ミアがうるさいからな」

「へへ、違いねぇ。
 イザークの怪我であんだけ騒ぐしな」

「よっ…と。
 ドノヴァンの戦士としても、いち男子としても、お客人…しかも女性の前でみっともない姿は見せられんな」

「ああ、そうだ!
 僕らもフレデリカさんみたいに活躍しないと、族長とマキオンさんにこっぴどく叱られるよ」


 偵察隊の中で隊長を務める男が、他のメンバーへテキパキと指示を出していた。
 命令を受けたメンバーはそれぞれ武器を握り、カーティスの斜め後方へ移動して陣形を取り始める。
 これは…護衛と索敵を目的にする配置ね。


「お~! なんかワタシ偉くなったみたい…?
 あぁ…迷宮主ダンジョン・マスターが恋しいなぁ~」

「コラ、お調子に乗らないの。
 アンタしか場所分からないんだから、もっとシャキシャキ動きなさい」

「お母さんうるさい~」

「ああ!? 誰がママよ!!
 アンタの方が思いっきり歳上でしょうが!」


☆☆☆
 

 フラフラと歩くカーティスを叱りながら歩くこと数分。
 突然、カーティスはピタリと歩みを止めた。


「……………?」

「ちょっと? どうしたのカーティス」


 私が呼びかけるも、カーティスは無言でキョロキョロと辺りを見回してばかり…。
 昨日の炎獣イフリートの行動みたい。


「まさか、敵か?」

「警戒態勢」

「了解、後ろは任せて」


 カーティスの不審な行動に偵察隊も緊張を覚えたのか、陣形を360度見渡す円陣へと変更した。
 もちろん私も弓の弦に矢を引っ掛け、いつでも攻撃できるよう警戒している。


「…なにかおかしい…。
 昨日はここまで森がザワついてなかったよ?」


 カーティスが私の肩に手を触れ、変なことを言ってきた。


「『ザワつく』? 別に静かだと思うけど…」

「…うん、静か過ぎるんだよ…。分からない? 
 虫一匹の鳴き声すら聴こえなくなってる」

「む…そういえば…?」

「隊長、向こうの茂みを見てください。
 不自然にかき分けられている形跡が」


 一人のハイエルフが指をさす。
 そのまま陣形を維持しながら近寄って確認してみると、茂みの中に微かに魔力マナが感じられた。


「あ! これ、水属性…オズベルクのじゃない!
 カーティス、どういうこと?
 『紅の騎士』はまだ先なんじゃなかったの?」

「う、うん。そのはずなんだけど…。
 もしかしたら二人とも別の場所へ移動したのかも…?」


 なんですって!? くそ、まずいわね…!
 大型の魔物なら私でも痕跡を辿れるけど、今回の相手は人型。
 斥候スカウトのテオが居なければターゲットの追跡ができない!
 なにか、他の方法は…


「…っ!? みんな! 上見て!」

「「「!?」」」


 突然、カーティスが叫び声をあげた!
 言われるがまま空を見上げると、木の葉の隙間から先、遥か上空で小さい二つの飛翔体が踊るように飛んでいる光景が見えた。
 しかもその二つは、お互いに向けて魔法を撃ち合っているようにも見える。

 まさかあれって…!?


「オズベルク!? 誰かと闘ってるの!?」

「フレ子! あれが『紅の騎士』だよ!!
 もー! 覗きオヤジの嘘つき!! 
 ワタシ来るまで闘わないって約束したのに!」


 カーティスはブリブリと怒りながら、牙を覗かせて空を睨みつける。
 二つの飛翔体は同じ大きさに見えるし、どうやらオズベルクは人間の姿のまま空を駆けているようね。
 というか、助けるにしても空中じゃ私たち手出しできないじゃない!

 …いや、ひとつだけ方法はある!


「カーティス! 急いで元の姿に戻りなさい!
 オズベルクを援護しに行くわよ!」

「わ、分かってるって! ホラホラ!
 潰されたくなかったらちょっと離れてて!」

パアアア…

 白い光がカーティスの全身を包み込む。
 元の体躯へ戻るため、身体はグングンと巨大化していく。
 サイズはともかく、この魔法は何度もセリーヌが使っているところを見ているので、私にとってはお馴染みだ。


「ええっ!? ま、まさかドラゴンに!?」

「は、半信半疑だったが…本当に彼女は赤竜レッド・ドラゴンだったのだな!」

「す、すげえ!
 『双頭竜アンバイン』以外のドラゴン初めて見るぜ!」

「アンタ達! ボケっとしてないで離れなさい!
 モタモタしてるとカーティスに踏み潰されるわよ!」


 初めて見る赤竜レッド・ドラゴンの姿に、偵察隊の連中は目を輝かせて軽く興奮していた。
 ああもう!
 コイツら緊張感があるのか無いのかハッキリしなさいよね!


「ゴルルルルル…、オ待タセ」


 そして彼女の巨大化が止まると覆っていた光が弾け、赤い色彩を放つ鱗と強靭な四肢、巨翼を空気のシャワーに浴びさせる一匹の竜が現れた。


「よし! それじゃあとっとと行くわよ!」


 さて…本日二度目のドラゴン騎乗ね。
 私、別に竜騎士ドラグーンを目指しているわけじゃないんだけど。
 心内で文句を垂れながら背中によじ登ってると、下から偵察隊のみんなが声を掛けてきた。
 なぜか指を咥えている。


「あ、あのフレデリカさん! 俺たちは…?」

「全員も乗せたらカーティスが飛びづらいでしょうが!
 アンタ達は魔族が来ないか見張ってて!
 あのオヤジ助けたらすぐに戻って来るわ!」

「「「えーーーーー!?」」」
 

 そんなにドラゴンに乗りたかったんなら、訓練の時にオズベルクに頼めば良かったじゃない…。

 カーティスの首元から生えている尖った背鱗せいりんの隙間に腰掛け、出発するよう脚をぶつけて合図をする。
 彼女はそれに応え、翼を大きく可動させて離陸を開始した。

 いま行くわよ、オズベルク!








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