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第234話:ドノヴァン偵察隊

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「ピュイイッ!!」

「どうどう…そんなに暴れなくてもすぐに思い切り走らせてやるわよ」

「やっぱりこっちのクルゥは元気いっぱいだねフレ子!」


 ブリーフィングが終わった私たちは、装備の点検と補充を済ませたあと、カーティスと厩舎からサラを引っ張り出してきた。
 昨日の朝にブレイズだけ連れ出されたのが不満だったのか、ちょっとフキゲンになってるみたい。

 そして山を降る村の入り口までみんなで歩いていると、数名の霊森人ハイエルフがこちらに駆け寄ってきた。


「みんなー! 待って!」

「ニャ? ミアちゃん?」

「どうしたんだァ? そんな慌てて」


 来た人達の内の一人は、先ほど食事処でご馳走になったミアだった。
 どうやら招集はもう終わったみたいね。
 周りのエルフ達は私と歳が近そうだけど彼女のお友達かしら?


「これからあなた達、さっきみんなが言っていた『紅の騎士』ってヤツの所に向かうのよね?」

「ええ、そうよ。
 まず私とカーティスが先行して向かうわ。
 他のメンバーは後発部隊ね」

「………チッ」


 『後発』という言葉にリックがぶすっと不満を募らせる。
 いい加減男なんだから拗ねるのはやめなさいよね、みっともない。


「フレデリカさえ良ければこの男たちも連れてってやってくれないかしら?
 みんなオズベルクさんのこと心配してるのよ」

「ええ!?」


  ミアがそう言うと、隣に立っていたエルフが前に出た。


「俺たち、彼には訓練で世話になったんだ。
 型に嵌めない柔軟な戦法や、俺たちでも使える戦闘魔法まで教えてくれて…。
 そんな恩人の彼が困ってるというのなら、ぜひ俺らも助けに行かせてくれ」

「え、えっと…」


 そういえばオズベルクは私たちがドノヴァンへ着くまでの間、戦士たちの面倒を見たとか言ってたわね。
 でも、いいのかしら?


「アンタ達は村の戦士でしょ?
 村に残って防衛した方が良いんじゃ…」

「さっきの招集で満場一致で強襲作戦が決まったわ。
 ここにいる男どもは偵察隊に編成されたの。
 どっちみちふもとは通る道だし、それならフレデリカの隊に便乗させてもらおうかと思ってね」

「……そういうことね」


 強襲作戦とは思い切ったことを決断したわね。
 やられる前にこちらから敵を叩くという考えは私は嫌いじゃない。
 ガルドではセオリーな作戦方針だ。


「分かったわ。
 でも、私たちはこの子に騎乗して向かう。
 歩調を合わせてくれるとは思わないことね」

「ピュイッ!」


 サラの首元を撫でながらちょっと挑発っぽく言ってみるとミアはムンッと、胸を張って返答した。

 
「そんなの大丈夫よ!
 ウチらのクルゥだってこういう時のために訓練してるんだから!
 脚もそれなり速いんだからね!」

「僕らも騎乗魔物を使った戦法は心得がある。
 決して足手まといにはならないさ!」

「おうともよ!
 日頃の訓練の成果を見せてやるぜ!」


  血気盛んな若者らしく、みんなやる気に満ち溢れている。
 これなら安心ね。


「うふふ、良い返事ね。
 そうと決まればクルゥを持ってきなさい。
 ほら、グズグズしないで早く!」

「「「おお!!」」」


☆☆☆


 ドノヴァンの偵察隊と共に、村を出て数刻。
 カーティスの案内に従いながら、雑木林を駆け抜けていた。


「フレ子! あの大きな木を左だよ!」

「分かったわ!」

「ピュイイッ!」


 手網を握るのはもちろん私。
 サラは決して走りやすいとは言えない路面をものともせず、軽快に地を蹴り突き進む。


「むう…っ! なんという速さだ…!
 モタモタしてると置いて行かれてしまうぞ!」

「たしか彼女とクルゥは傭兵団出身だったな。
 訓練次第であれほどのクルゥを作れるとは…」

「よーし、俺たちも負けてらんねー!
 こっちも飛ばして行こうぜ! ハイヤぁッ!」


 私たちから後方数メートル間隔を開けつつも、偵察隊の男たちは必死に追いかけてきている。
 さすが、口だけじゃないようね。
 よくこのスピードについてこれるものだわ。


「それにしても、リク坊はちょっと可哀想だったかもしれないね。
 さっきも『乗せろ乗せろ』って騒いでいたし」

「仕方ないわよ、定員が限られていたもの。
 きっとセリーヌとシルヴィアがなんとか宥めてくれるわ」


 実は先ほど、リックは偵察隊の方にも同乗を懇願していた。
 しかし、ドノヴァンで育てているクルゥはガルド産に比べ比較的小型で、二人乗りにはクルゥが耐えられないのだそう。

 すっかり落ち込んでしまったリックのことは心配ではあるけど、頭を切り替えなくちゃね。
 魔物が襲って来たらすぐに対応しなければ。


「…! フレ子! 前から『猛禽人ガーゴイル』だよ!」

「噂をすればね…!
 カーティス、この子の手網をお願い!」

「ええっ!?
 ワタシクルゥを操ったことないよ!?」

「持ってるだけでいいから早く!
 私が迎撃するわ!」


 後ろにいるカーティスの手を引っ張り強引に手網を掴ませ、私は武器蔵から弓を装備した。


「グエエエエエエッ!!」


 背中の矢筒から一本手に取り、奇声をあげながらこちらに真っ直ぐ向かってくる魔物へ照準を定める。
 矢をたがえ片腕で引き絞った弦はギリギリと悲鳴を奏でつつ、その形を変形させていく。

 いくわよ、『付与エンチャント』!


「ブチ込んでやるわ…『雷光射ライトニング・ショット』!」

ヒュオッ!!!

 私の魔力マナにより雷と化した矢は、弓から射出され立ちはだかる空気を切り裂きながら魔物へ飛んでいく。

バスッ!!

「ギャアアアアア!!?」


 命中。
 胸のど真ん中を穿いて、矢は遥か彼方へ旅立って行った。
 フン、たわいもないわね!


「ナイスショット! フレ子!」

「ありがと、カーティス。
 さ、仕切り直してオズベルクを目指すわよ!」


 手網を返してもらい再び運転の権利を得る。
 そんな私たちの行動を、後ろの偵察隊は呆気に取られながら見ていた。


「す、すげぇぇぇ!?
 クルゥに乗って…しかも全力で走ってる状態で矢を当てた…!
 あ、あんな離れ業、俺見たことないぜ!」

「上下運動が激しい中、あそこまで正確に矢を射ることができるとは…。
 以前村に来たお客が、傭兵は戦闘のプロと呼称していた理由が分かった気がするぞ」

「オズベルクさんの稽古や、マミヤさんが戦士長に勝った時も思ったけど、やっぱり僕たちは世間を何も知らないんだ…。
 このままでホントに良いのかな…」








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