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第233話:シュバルツァー隊出撃

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「モグモグ…。
 う~ん、ミアちゃんのご飯は美味しいニャ♡」 

「リク坊の作ったトーストも美味しいよセリ子!」

「ムググ…! やっぱり私は納得いきません!
 なんで無駄に大きな図体のくせに器用に調理までできるんですか!?」


 ミアの宿に着くと、食事処でみんな休息をとっていた。
 リックとミアが厨房に立ち、色んなお料理を作っている。
 あ、カーティスも戻ってきたのね。
 人化がうまくいったみたいで良かったわ。

 クンクン…。
 あら、ずいぶん良い匂いだこと…。
 なんだか私もお腹が空いてきちゃった。

 すると、ミアが私とエリザベスの所へバタバタしながら駆け寄ってきた。


「おかえりなさいエリー、フレデリカ!
 話はみんなから聞いたわよ。
 とりあえず貴女たちも早く食べちゃって!
 私この後、出かけなくちゃだから!」

「ありがとうございます、ミア。
 ここの片付けは私がしておきますので、行って頂いても構いませんよ」

「お、ありがとエリー!
 お言葉に甘えさせてもらうわ!
 またあとでね!」


 そして彼女は入れ違うように外に出て行った。
 出掛けた理由は、さっきエリザベスのパパが言っていた広場への招集命令だろう。
 村中で行なうマキオンさんの『幻霊共鳴ファントム・ソナー』は、緊急招集を意味しているとエリザベスから聞いた。


「よう、やっと来たかおめェら。
 オレもそろそろメシ食いてェから、厨房どっちか代わってくれ」


 私たちの姿を見るなりリックは腰に巻いたエプロンを外しながら、出来たての串肉を一本ずつ私たちに手渡してきた。
 ゴクッ…、美味しそう。


「かしこまりました。
 私が引き受けますので、シュバルツァー様とランボルト様はお食事になさってください」

「それは助かるけど…アンタは?」

「私は今朝の食事で充分です。
 シュバルツァー様は作戦会議がてら、皆さまとご会食なさいませ」


 エリザベスはそう言い、リックから貰った串肉を私に渡したあと、エプロンを身に付けて厨房に立った。

 …もしかしてあの子の身体がやたらと細いのは、こっそりダイエットしてるからじゃないわよね?
 もしそうなら、何となく私も食べる気が失せてくるんだけど…。
 レイトだってやっぱりほっそりした女の子の方が…って、アホな考えはやめなさいよ私!?


「オイ、何してんだ?
 早くテーブル行こうぜデカキン」

「誰が『デカい』よ! うっさいわね!
 私だって好きでこの身長に生まれたわけじゃないわよ!」

「な、なに怒ってんだお前…?」


☆☆☆


「それじゃあ今後の予定を決めるわよ。
 まず、オズベルクの居る場所はカーティスが分かっているのよね?」

「うん。紅の騎士が動いてなければ、きっと同じ場所にいると思うから」


 私もセリーヌ達が居るテーブルに合流し、栄養補給をしながらブリーフィングを始めた。
 本当はこういうのルカが得意なんだけど。


「じゃあもう一度あたし達はカーティスちゃんに乗ってオズおじさんの所に行くニャ?」

「みんな一気に乗せるとちょっと重たいから嫌なんだけど、マー坊もルカ子も居ないんじゃそれしかないよねぇ…」

「いやァ、実はさっきオレ初めてドラゴンに乗ってしかも空を飛んだが…ありゃスゲェな!
 『竜の国ドライグ』の人気職業ジョブ第一位が『竜騎士ドラグーン』だった理由が分かったぜ!」


 げんなりしているカーティスと興奮気味なリックが実に対照的だ。
 『竜騎士ドラグーン』か…。
 たしかドラゴンと心を通わせて共に空を駆る職業ジョブね。
 むかし一度だけ、『竜騎士ドラグーン』で構成された傭兵団と仕事をしたことがある。


「今はそんな事どうでもいいでしょう?
 それより、カーティスさんにどこまで紅の騎士の所まで運んでもらうかが重要です。
 ヘタに近づき過ぎてしまっては気付かれる危険がありますし、かといって遠過ぎれば進軍している魔族が先にふもとへ辿り着いてしまいます」


 シルヴィアが眼鏡をクイッと指であげながら意見を申し立てる。
 ええ、その通り。
 ここがいちばんみんなと話したい部分。
 まずは私の考えを提案してみよう。


「ちょっと不安だけど、ミアに事情を話してクルゥを借りるっていうのはどうかしら?
 ブレイズほど脚は速くなさそうだけど、下から向かえば気付かれないと思うし…」


 無論、ナディアの方のキャラバンのクルゥも使えるけど、あの子たちは戦闘向きじゃない。
 厩舎の中をパッと見た感じでは、ドノヴァンで育てているクルゥの方が身体つきも逞しく代用するには充分な魔物だった。


「恐れながらシュバルツァー様、その案は不可能かと存じます。
 おそらく村の戦士達もクルゥを運用するはず…。
 借りるには兄さ…いえ、腐れエドウィンの許可が必要です」

「く、腐れ!?
 今日のエリザベスさんは口が悪いですね…」


 厨房で洗い物をしながらエリザベスも会議に参加してきた。
 ホント器用なメイドねあの子は。
 でもそっか…。
 ドノヴァン村も村でクルゥを使うんじゃ、あまり無理は言えないわね。

 彼女の言葉でしばらく場が静かになったあと、セリーヌが手を挙げた。


「フレイちゃんフレイちゃん。
 ガルドのクルゥなら、たしかもう一羽ここにいなかったかニャ?」

「『サラ』のこと?
 いるにはいるけど…一羽だけじゃ運べるのは二人だけよ?」


 ガルド村からレイトと旅に出発した際、キャラバンを引っ張ってくれたクルゥがブレイズと『サラ』。
 あの子もブレイズに負けず劣らず気性が荒い性格だ。


「それならカーティスちゃんとフレイちゃんがサラちゃんに乗って先に向かえば良いニャ!
 あたしたちはその後を追いかけるニャ」

「は…? お、追いかけるってあのね…。
 ブレイズには負けるけど、あの子だってそれなりに脚が速いのよ?
 とてもついてこれるとは思えないわ」

「わ、私も全力疾走なんて無理ですよ!?
 それじゃオズベルクさんの所に着く頃にはヘトヘトになっちゃいますよ!」


 私とシルヴィアが難色を示すと、セリーヌは自分の隣に座っているリックの腕をポンと叩いた。


「リック君ならフレイちゃん達の匂いを辿れるニャ。
 代わりに到着はちょっと遅れるかもだけどね」

「「ああっ!」」

「お! ワタシその方が楽で良いなぁ~!」


 なるほど、考えたわね!
 たしかにその手なら、紅の騎士に悟られず現場へ急行できるわ!
 ナイスアイディアよセリーヌ!


「ハア!? ちょ、ちょっと待てや!
 またオレを後発隊に回すってことか!?
 ふざけんな!
 オレが先に行くに決まってんだろ!」


 しかし、ここでリックが駄々をこね始めた。
 うーん…気持ちは分からなくもないけど、この男に頼る他がないのよね。


「でもアンタしか追いかけられないわよ?
 『斥候スカウト』のテオはナディアと山頂に向かわせちゃったし」

「『匂い』ならたしか銀ネコも嗅ぐの得意とか黒毛から聞いたぞ!
 別にオレじゃなくても良いだろォが!」

「あたしが嗅げるのは『感情』ニャ。
 人の内心をちょっと覗けるだけのしょっぱい特技ニャ。
 …それにガルドのクルゥはフレイちゃんしか乗れないニャ」

「ヌググ…! また、オレはケツ拭い役か…!」


 ズーンと、リックはテーブルに伏せてしまった。
 こればかりは諦めてもらうしかない。
 …というか、セリーヌのその特技は全然しょっぱい気がしないんだけど。
 国の諜報機関あたりが喉から手が出るほど欲しがりそうな能力だわ。

 ともあれ作戦方針はまとまった。
 私は立ち上がりパンパンと手を叩く。


「よし、決まりね。
 それじゃあ各々装備を再点検、すぐに出撃よ。
 レイト達に負けないよう、シュバルツァー隊も気合いを入れていくわよ!」

「おー! ニャ!」

「はいっ!」

「あいよ…」

「了解しました」

「がんばろー!」








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