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第232話:エルフの絆

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「「……!!」」


 マキオンさんから、レイト達がドノヴァン村に来てからの経緯を聞いた。
 ま、まさかエリザベスのお兄さんとケンカしちゃってたなんて…!
 しかもそのせいでドノヴァン村の習わしに巻き込まれている…。
 アイツの不幸ぶりには脱帽するしかないわ。


「そんなわけで今エドは部屋で落ち込んで…ってエリー!?
 ちょっと待ちなさい! どこ行くの!?」


 マキオンさんの話を聞くなり、エリザベスは立ち上がりその場を離れようとした。
 その表情はまるで親の仇を前にしたように目が血走り、唇をかみ締めている…かつて見たことがないほど怒りに満ちているものだった。


「…あの男はもはや私の兄なとではありません。
 レ…レイト様に手を出すなど…!
 彼に金輪際関われないよう、エドウィンを粉砕しておきます」

「「エリー!?」」

「ちょ、ちょっとアンタ落ち着きなさいよ!
 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!?」


 慌てて出ていこうとするエリザベスを羽交い締めにしたけど、ジタバタと暴れて言うこと聞かない!
 …って、意外とこの子チカラ強いわね!?


「エリー聞いて! エドなら充分反省してるわ!
 それにお母さんからもレイト君に謝ったわ!
 お願いだからこれ以上お兄ちゃんを虐めないであげて…」

「……………」


 マキオンさんの哀しみに暮れたその言葉に、エリザベスは少しだけ大人しくなった。
 ふう…、なんで私が他人ひと様の家族ケンカに巻き込まれなきゃいけないのよ…。
 とんだとばっちりだわ。


「…ゴッ、ゴホン。
 すまない、重ね重ね見苦しいところを…。
 フレデリカさんだったか…良ければ今度はそちらの報せを聞かせてくれないか?
 なんでも緊急の要件だそうじゃないか」


 大きく咳払いをして、セルゲイさんが改めて私に訊ねてきた。
 そ、そうだ!
 親子でケンカなんてしてる暇はないのよ!


☆☆☆


「……これが今、山の下で起きていることです!
 今からでも近くの傭兵団か、王国騎士団に応援を求めた方がいいわ!」

「「……………!」」


 私の報告が終わると、二人は驚愕の表情を浮かべた。
 そしてセルゲイさんの顔つきが凛としたものへすぐに切り替わる。


「マキオン。すぐに皆の衆を中央広場に集めろ。
 畑仕事をしてる者も族員も戦士たちも全員だ!
 急ぎ、戦の支度を行なうぞ!」

「ええ、分かったわ! 『幻霊共鳴ファントム・ソナー』!」

コォォォン…

 マキオンさんは脚先に魔力マナ…いえ霊力エーテルを集中させ、つま先で床を軽くノックした。
 湖に石を投げ入れると生まれる波紋のように、霊力エーテルは家の壁を突き抜けて渡っていく。

 …すごい、なんて綺麗な魔法なのかしら…。


「よし、村全体に〝共鳴〟させたわ。
 フレデリカさん、教えて頂きありがとう…。
 あとは私たちに任せて、貴女たちはひとまず休んでいらっしゃいな」

「いえ、そうもいかないわ。
 さっきも言ったけど、まだオズベルクが麓に居るの。
 準備が終わったら私たちも彼と合流するわ!」


 オズベルクのことだから大丈夫だとは思うけど、紅の騎士が近くにいる以上もし闘いにでもなってしまったら危険だ。
 あの人、自分以外の存在を殺せないって言ってたからね…。


「族長、母様。先の件については後ほど詳しく伺います。
 私はシュバルツァー様方々と目下の問題へ集中します故、村の方をよろしくお願いいたします」

「……分かったわ。気を付けてね、エリー。
 ふぅ、シチューどころではなくなってしまったわね」

「シチュー?」

「うふふ、こちらの話よ。
 フレデリカさんもエリーをよろしくお願いしますわ」

「はい!」


☆☆☆


「何事だ!? 今のはマキオンの〝共鳴〟だ!」

「中央の広場にみんな集まってるみたいだ。
 ガキどもは嫁さんに預けてとりあえず俺たちも向かおう!」

「おいおいマジかよ…まだ野菜の収穫が終わってないってのに」


 報告を終えた私たちは、家をあとにしてミアの民宿へと向かう。
 外の様子は先ほどよりも忙しなく、元気な子供たちよりも、主に大人たちがてんやわんやと村中を走り回っていた。


「ねえ、エリザベス。
 さっきあなたのママが使った魔法って何なの?」


 そんな中、私はエリザベスにこんな事を聞いていた。
 見たことがない魔法…というか闘いに役立ちそうな魔法なら、私はなんでも知りたい。


「あれは『幻霊共鳴ファントム・ソナー』と呼んでいるドノヴァンから生まれた魔法です。
 私たち霊森人ハイエルフは、希少な魔力マナを持っている故か魔物に襲われやすく、村の外では単独行動をしません。
 やむを得ず離れる場合は先の魔法を使い、自身と仲間との位置関係を共有しているのでございます」


 そういえば、こっちに戻る前にもイザークの霊力エーテルがどうのって言っていた気がする。
 なるほど、あの魔法はそういう役目があったのね。


「へぇ~。あれ?
 でもアンタ、ここまでの旅で何回も魔物と遭遇したけど狙いあまり付けられてなくない?」


 そもそも近付かれる前にエリザベスがボウガンで敵を倒しちゃうというのもあるけど。
 すると彼女は少し口を閉じ、物憂れげに山の方を見つめながら答えた。


「…何故か私よりレイト様の方が襲われる確率が高いので。
 どうやら彼は敵味方問わず、様々な種族を惹き付ける性質を持っているようですね」

「あー…」


 なんだろう、すごく納得しちゃった。
 だってレイトは出会ってからずっと闘ってたり絡まれてるイメージがあるし…。
 でも、そんな彼の一面も…


「好きなんでしょ? そういうところも」

「………(コクリ)」
 

 ちょっと意地悪っぽく言ってみると、エリザベスは無表情の頬を仄かに紅色に染めて頷いた。
 …ったくもう、その顔はズルいわよ。
 同じ〝共同戦線〟のエルフとして、怒る気にもなれないわ。


「ふん…、ならさっさと騎士と魔族なんか片付けて、アイツにいっぱい構ってもらいましょう。
 でも、覚えておきなさい?
 私だって…たまにはあなたとゆっくり遊びたい」


 パパとママからいつもよく言われていた。
 一流の傭兵になりたければ、とにかく闘い、とにかく学んで、とにかく遊べって。
 エリザベスの肩に手を置くと、彼女はそっとそれを握ってきた。


「シュバルツァー様…。
 このエリザベス、あなた様の如何なる指示をも完遂してみせましょう。
 今回限り、あなた様は私の〝主〟です」

「いいえ〝仲間〟よ?
 ガルドの傭兵に小難しい上下関係なんていちいち不要よ」

「……フフ、そうでしたね」


 少し小っ恥ずかしいこと言っちゃったかしら?
 心の絆を構築した私たちはその後、宿まで仲良く手を繋いだまま歩いて向かった。










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