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第231話:ドノヴァンの噂

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☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


「いいわ、カーティス。
 ここで降ろしてちょうだい」

「分カッタ! …フゥ、疲レタ~」


 ナディアとテオをレイトの元へ送り出してから数刻。
 残った私、セリーヌ、シルヴィア、リック、エリザベスは、ドラゴン形態のカーティスに乗せてもらいドノヴァン村へ帰還した。

 さすがにドラゴンとはいえ、この人数を運ぶにはちょっと重過ぎたみたいで、カーティスは息が絶え絶えの様子だ。
 報告が終わってひと休憩したらすぐまた出発しなきゃだし、もう少しこの子には頑張ってもらいたいわね。

ズズン…

 カーティスは背に乗せている私たちを気遣いながら、慎重に着陸する。
 ちなみに降りた場所は村から少し離れた山道。
 彼女曰く人化魔法は苦手らしく、時間が掛かってしまうので、先に私たちだけで村に行っててほしいとのことだった。


「ひとまずお疲れ様でした、カーティスさん。
 ミアさんにお願いして、何か精がつく食べ物を用意してもらいしましょうか?」

「アリガトーシル子~!
 ワタシ、オ肉ガ食ベタイナ!」

「あ! あたしもお肉が良いニャ!
 黒胡椒ブラックペッパーふりかけたステーキとか……じゅる」

「…そう言われっとオレも朝メシ食ったばかりで腹減ってきたなァ。
 景気づけにうめェモン食おうぜ」

「こらこら!
 ご飯も良いけどまずは族長さんに報告でしょ!
 ナディア達が合流したら、もしかしたらレイト達もこっちに戻って来るかもしれないし…」

「恐れながらその可能性は低いかと。
 山頂に片割れの騎士が居る以上、レイト様もイザークもそちらを優先するかと思われます」


 エリザベスの意見でハッとする。
 そうだったわ。
 いい加減私もレイトに頼り切ってちゃダメよ。
 冒険者である前に私は傭兵。
 ちょっとくらい、私だってアイツにカッコいいところを見せなくちゃね。


☆☆☆


「おーし、着いた着いた。
 報告はリーダーのおめェに任せたぜデカキン。
 オレは人形女のダチんとこでまかないでも作ってるからよ」

「ア、アンタねぇ…。まあ、いいわ。
 じゃあせめてエリザベスは私に付き合ってよ」

「はい、仰せのままに」


 登り道の入り口から村へ入る私たち。
 エリザベス以外はとりあえずミアの宿で待機してもらうことにした。

 そして二手に別れたあと、村の様子が少しおかしい事に気が付く。


「おい、昨日の話は本当なのか!?」

「ああ、間違いない。俺もこの目で見たんだ。
 たしか今は族長の家で療養しているぜ」

「これは…相当んじゃないかしら?」

「だろうな。今月の会合もまもなくだしな…」


 …………………………。

 妙にザワついているわね…?
 まさか村人たちにも、ふもと方面から魔族がやって来ていることが耳に入ってしまったのかしら?


「どうしたのかしらみんな…?
 エリザベス、何か知ってる?」

「いえ、私は存じ上げません。
 少々気にはなりますが、今は族長へカーティスが持ち寄った情報の報告に参りましょう」

「ええ、そうね。
 今回はドノヴァン村の危機だもの。
 村全体で立ち上がらないといけないわ」


 私とエリザベスは頷き合い、彼女の実家である…えーと確かセルゲイさん…だったかしら?
 つまり族長さんの元へ急いだ。


☆☆☆


「ただいま戻りました。母様、父様」

「おかえりなさいエリー!
 ああ…、無事で良かったわ!」

「エリーちゅわあんんん!!!
 パパも心配して…ゴブらァっ!?」


 エリザベスの家へ入るなり、初日で見せられたような家族団らんをまたもや見せられてしまった。
 相変わらずエリザベス父親セルゲイさんに容赦がないけど。


「今回は経過報告と〝族長〟へ重要なお知らせがあって戻って参りました。
 今のお時間は如何ですか?」

「ええ、大丈夫よ。
 でも経過に関しては、昨日イザークとレイト君たちからあらかた聞いているわ。
 …本当に大変だったわね、みんな」

「「!?」」


 はあ!? レイトから聞いたですって!?
 えっ、まさかアイツらも村に戻ってきてたの!?
 ちょっと待って…それじゃあナディア達は入れ違いになっちゃった!?
 や、ヤバ…!!


「どういうことですか?
 まさか彼らもここへいらっしゃるので?」

「いいえ、早朝からもう出かけて行ったわ。
 実は昨日の夕方あたりにレイト君たちも村に戻って来たのよ。
 なんでも〝ザヒョウ〟?
 とかなんとかを山に置いてきたとか言っていたわね」

「「…………」」


 私とエリザベスは顔を見合わせた。
 …もしかしたら、レイトたちは装備と食料の補充で一時的に戻っただけなのかもしれないわね。
 レイトはいつものリュックを背負っていたけど、キャンプキット類はブレイズに載せたままだった。

 そんな状態で魔物に脅えながら夜を明かすより、安全な村の中で過ごす方が合理的と判断したのだろう。
 …転移テレポートがなければとてもできない芸当だけど。


「……母様、大体の事情は把握いたしました。
 彼は他に何か気になることは言っていませんでしたか?」

「いえ、特には言ってないわ。それよりも…」


 何故かエリザベスのお母さんはバツが悪そうに目を伏せた。
 さっきまで娘に会えてあんなに嬉しそうだったのにどうしたのかしら?


「実は昨日、エドの奴がマミヤ君に突っかかっていってしまってな。
 今、村中はその話題でもちきりなのだ」

「「…は?」」


 答えあぐねいているお母さんに代わり、お父さんのセルゲイさんが回答した。
 ……突っかかったですって…?
 …まさかあのバカ、また何かトラブル持ち込んだの!?


「ちょっと、セルゲイ!
 この子達に教えちゃダメって言ったでしょう!」

「いや…いずれ、すぐに明らかになることだ。
 敵対陣営とはいえ、彼のことは少々気の毒だとは思うがな」

「…あの子に手出しは絶対にさせないわよ?」


 ふ、夫婦ゲンカ?
 というか話についていけない…。
 敵対陣営? 手出し?
 さっきからこの人達何のことを話してるのよ!?


「母様、父様。
 …あの男はレイト様にいったい何をしでかしたのですか?」


 妙に低い声音で訊ねるエリザベス。
 …あれ?
 なんかものすごい寒気というか、殺気を感じるんだけど気の所為かしら…?


「…ふぅ、仕方ないわね。
 とりあえずリビングに行きましょう。
 こうなった以上、フレデリカさんにも聞いてもらわなければいけないですわ」







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