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第225話:悪魔化《ディアブル》

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「アァ~~? オイオイ、なんダよ!
 つまンネえやらレ方しやがっテヨォ!
 殺ス順番が狂っちマッたじゃネえデスか」


 つまらなさそうに吐き捨てながら、変異した右腕を上へ掲げるデズモンド…。
 五本ある鉤爪が全てナディアさんの全身に突き刺さっているため、彼女ごと持ち上げられる。


「デズモンドォォォ!!! 貴様ァ…ッ!!!」

ブオッ!!!

 それを見たカンバクは激昂し、魔法も使わずに剣で躍りかかった。


「ギャハハッ! 何キレてンだよォ?
 コイツが死ンダのはテめぇのせいダロウがァ!
 いつモそウやっテ仲間を死なセてばかリだナァ!
  死神カンバクちゃんヨォ!
 ギャハハハハハハハハハハハハッ!!!」

「黙れえええええ!!!」

ガギャアンッ!

………………………………………………………

 〝死んだ〟…? ナディアさんが…?
 冗談よせよ。
 あの人は理の国ゼクスの警備隊総隊長だぞ?
 しかも炎獣イフリートの力まで供えてる。
 そう簡単にくたばるはずねぇだろうが…。


「『乱鰐連撃《ケイマン・アサルト》』!!!!」

「……っ! チッ、ウっとオシいンだよ!!」

ビュオッ!!!

 鬼気迫るカンバクの猛攻に、デズモンドは間合いをとるためか右腕を払った。
 その拍子に突き刺さっていたナディアさんが奴の鉤爪から外れ、こちらの方へ投げ出される。


「…! ナディアさん!!!」

ガッ!!

 この時バリアが無くなっていたため、既に転移テレポートを使えるはずだったが、俺はそれすら忘れて自分の身体をクッションにして彼女を受け止めた。

 その瞬間、俺は戦慄する。

 ナディアさんの黄金鎧が…〝赤い〟。
 デズモンドから串刺しにされたナディアさんの全身は、全て血で染まっていたのだ。
 虚ろに開いたままの目、両手に伝っていく生暖かい液体、半身を抱えて揺すっても身体はピクリとも動かない…!
 う、嘘だ…ウソだッ!!!


「ナディアさん!! ナディアさん!!
 聴こえますか!? 俺です! 零人です!」

「…………マ……ミ…………」

「!!!」


 返事をした!? まだ生きている!!!
 血塗れになった唇を僅かに震えさせ、俺に何かを伝えようとしていた。
 彼女を抱き寄せ、耳元に顔を寄せる。


(マミ…ヤ…の…。わた…し…置い…て…)

「んなこと分かってますよ!!
 置いて行ったりなんてしません!!
 待っててください、急いでシルヴィアのと…」

(ちが…う…。カ……バク…と…逃げ……て)

「馬鹿言うな!!! あんな奴はどうでもいい!
 俺はアンタを………ナディアさん…?」

(……あ…い………る…)

ズシ…

 肩が、重くなった…。は…?
 パッと身体を離すと彼女の首が…下を向いていた。
 やめて、くれよ。嫌だよ…そんなの信じない!


「ナディアさん!!!!!」

「…………………」


 ……今にして思えば、俺はルカ達と一緒にバリアを破壊してから、展望台へ向かうべきだったのかもしれない。
 テオとイザーク、そしてルカがこの場に揃って居れば、デズモンド如きに遅れはとらなかったはずだ。
 あの時、ルカは俺を必死に説得していた。
 それを俺は跳ね除け、身勝手な考えを押し付け二人だけで向かってしまった。

 その結果が……


「ゴメン…ゴメン…なさ…い…!
 ナディ…アさ……うああああああ!!」



………………………………………………………




 ―お前はなんて愚かな男なんだろう。
 蒼の英雄。蒼の竜殺し。蒼の傭兵。
 ここに来るまで様々な名で呼ばれていたな―


「………………」


 ―そしてパーティーリーダーなど務めておきながら、この体たらく。
 〝蒼の…〟が、聞いて呆れる。
 仲間を死なせた業…ゆめゆめ胸に刻め―


「………………」


 ―だが…、そもそも彼女を手にかけたのは誰だ?―


「…デズモンド…!」


 ―そうだ。奴をこのまま生かすつもりか?―
 

「ざけんな! 仇とるに決まってんだろ!」


 ―フン、良かろう。
 なれば我が悪魔デビルの力、これより正式にお前へ貸与しよう。
 〝悪〟をもって〝魔〟を討ち滅ぼせ!
 蒼の悪魔、マミヤ・レイト!!!―
 

☆デズモンド・ミラーsides☆


 『〝裏切り者〟を見つけ出し始末せよ』

 半年前、魔族の国アルケイン司令部より全魔族へ下された〝命令〟だった。
 〝裏切り者〟は二人。
 そいつらは魔城の宝物庫から装備をかっぱらい、魔族の国アルケインから逃亡を図った。

 しかも〝奴〟は、よりによってかつて魔王様がお召しになられていた、『赤の装衣』を奪っていきやがった。
 …ふざけやがって!
 あれはいずれオレ様が着てやろうと思ったんだ!


「ぜってぇ見つけ出してやっかんナァ…!」


☆☆☆


 それからしばらく月日が経ち、オレ様が率いる『ミラー小隊』は、亜人の国ヘルベルクにて裏切りモンの目撃情報を掴み、他の魔族どもと現地で合流した。

 なんでもその国では、魔物ザコどもの動きが活発化してやがり、『伝説の魔物』の気配があるとのことだった。
 普通ならんなもん放っとくところだが、裏切り者の片割れには『召喚サモン』を使う奴がいる。

 そして、奴らの潜伏が疑われている地域はこの国でも端の方にあるドノヴァン山っつー所だった。
 …ったく、なんでオレ様がこんな田舎に…。
 これでスカだったら情報持ってきた奴をブチ殺してやるぜ。


☆☆☆


 当初の計画では、偵察部隊が謎の海竜リヴァイアサンによって壊滅させられたため、こっちの兵力を充分にしてからカチコミをかける予定だった。
 しかし、進軍中に山のてっぺんでこれまた謎の障壁が発生したという情報が入ってきた。


 そこでオレたちミラー小隊は軍を離れ、偵察の名目でいち早く山の頂上を目指すことにした。
 あわよくば二人とも先に狩れるからナァ…。

 …だが、実際に来てみりゃなんだ?
 そこに居たのは弱虫カンバクだけだった。
 まあ、その他にも居るには居た。
 だが、カンバク以外は死にかけのイザベラとよく分からんニンゲンが三人…。
 いや、そのうちのデカい女はニンゲンじゃなかったな。
 おそらくドラゴン族の魔物が化けていた。
 
 しかもそいつはカンバクと闘っている最中に消えやがった。
 最初に奴を狙うべきだったかもしれねえ。
 勿体ないことしたぜ。あーあつまらねえナァ。

 この時のオレ様は、そんな貧乏くじを引いたような荒んだ感情だった。


☆☆☆


「『仮面遊戯ペルソナ』!」


 オレ様が間違っていたぜ…!
 やっぱ頂上へ来て正解だった!

 まさかあのマミヤ・レイトと鉢合わせるタァ!
 『魔族の国アルケイン』でたびたび報告にあがってきた、もう一つの宝石スフィアを操る男。
 その報告を嫌われ者のイザベラから聞いた時は衝撃的だった。

 ギャハ…!
 まさかあの『紅の宝石』に〝妹〟が居たなんてナァ!
 しかしその使い手にしては、辺りに宝石スフィアらしきもんが見えなかった。

 まさか野郎が被っているあのへんちくりんな仮面なわけがないしなあ…?

 だがマミヤレイトはヒョロりとした見た目とは裏腹に、とんでもねぇ戦闘スキルを持ち合わせていやがった。
 まさかこのオレ様に一撃のみならず二度も、攻撃を当ててくるたぁよ。
 やっぱ宝石スフィアを持っているだけはあったぜ。
 
 任務には含まれていないが、オレ様はこの男に勝負を挑みたくなった。
 魔族が扱える『悪魔化ディアブル』を使ってナァ。
 もっとも、すぐ殺しちまうかもしれねぇが。


☆☆☆


「うおおおおお!!!」

「ギャハハッ!!!
 おー、がンバるネェカンバクチャンよ!!!」
 
ガィンッ! ギンッ! ガキンッ!

 ボロ雑巾みてぇになったカンバクが怒りの剣戟をぶつけてきやがる。
 それもそのはず、よりによってニンゲンなんかに命を救われたからナァ!
 魔族としてのプライドはズタズタだぜ!


「貴様のような男がいるから魔族の国アルケインは…!」

「ああ…オレ様が居りゃテめぇナんぞお役御免だもンナァ!?
 国かラ見放サレた魔族ノ生き恥がヨォ!」

「うるさい!!!
 独りよがりの殺戮だけで、全てが思い通りになると思っているならばそれこそ生き恥だ!」

「青二才ノ小僧がヨォ!
 あマリお調子ニ乗っテンじゃ……あ?」


 そろそろオレ様の本来の任務を果たそうかと思った頃合いだった。
 視界の隅の方で赤髪女を抱いていたマミヤレイトから、異様な…気配を感じた。


「マミヤ…レイト…?」


 それを同じく感じ取ったのか、目の前のカンバクまで攻撃を中断して野郎に注目した。
 ゆらりと立ち上がり、仮面の目元が妖しく発光し、両手の装具からは剣が突出している。
 なんだ…?
 さっきまでのマミヤとは何か違うぞ…。


「お前ノ命…ココでぶっ潰シテやル」

ブン!

「「!?」」


 消え………た……!?
 なんだ、今の蒼い魔力マナは!?
 いや…オレ様はあれを〝知っている〟…!
 まさかあれが例の…!?

ザグッ!!!

「「なっ!?」」


 思い当たる節を頭に浮かべた瞬間、右腕の上部に激しい痛みを覚えた!
 両手の剣を突き刺しやがっただと!?
 バカな!
 悪魔デビルの力で硬度も増しているんだぞ!?
 いや…そもそも、いつの間にオレ様の所へ!?


「コレ、重タいだロ? 〝取って〟ヤルよ…!」

ブチッ!

「アァ…?」


 ソーセージを引きちぎったような音が聴こえた。
 変異させたオレ様の右腕が…無い…?
 け、剣だけで…切り取りやがっ…!?
 あ、ああ…あああ…ッ!!!!


「ぐあアアアアアァァァァ!!!?」

「アハッ、アハハハハハハハハハハッ!」










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