上 下
225 / 243

第222話:変身《トランス》

しおりを挟む
<マミヤ様!
 HUDヘッドアップディスプレイに敵の情報を表示するよ!
 あと『仮面強化ペルソレイド』についてなんだけど、それは実戦でレクチャーしてあげるね!>

「いででで…!
 こ、こんな足つぼマッサージみてぇなエネルギー背負ったまま闘えるか!」


 『仮面遊戯ペルソナ』の形が変わってから、俺は地面に膝を着き悶絶していた。
 俺にとってエネルギーとは、自分の身体を保護する一種の〝服〟って認識だ。
 考えてみてほしい。
 今着てる下着にいきなりトゲが生えてきたら。
 そんなん一歩も動けなくなるよね!?


「『土礫斬撃《ターマック・スラッシュ》』!」

「『炎斬撃フレイム・スラッシュ』!」

「甘えんだよ、『暗黒幕ダークネス・ヴェール』!」

「「ぐあああっ!!!」」


 俺が痛みに悶えている間も、ナディアさんとカンバクは必死にデズモンドへ抵抗していた。
 先ほど発動したナディアさんの『覚醒ブレイク』は徐々に弱まってきており、カンバクと合わせても攻撃の手数が減少している!
 は、早く助けないと…!


<大丈夫、すぐに慣れるよ!
 今は身体がビックリしちゃって魔力マナと反発してるだけだから。
 さあさあ! 早く立ってマミヤ様!>

「ぬぐぐ…! うおおおおっ!!」


 ああもう! クソッタレ!
 歯を食いしばり両脚に力を込める。
 全身を包み込む激痛に耐えながら、少しづつ立ち上がり息を深く吸い込む。
 ふう…ふうっ…! よ、よし。なんとか…!


 <マミヤ様、えらいえらい!
 それじゃあ浮遊蛇ケツアルカトルに攻撃しよう!
 まずはいつもみたいに殴りかかってみて!>

「いちち…わ、分かったよ…!」


 改めて今回の敵、『浮遊蛇ケツアルカトル』デズモンドをまっすぐ視界に捉える。


「ギャハハハハッ!
 借り物のチカラしか扱えねぇテメェらが、このオレ様の『闇』に適うハズねぇだロォ!
 はやく本気にさせてみろヤァ!」

「ぐうっ!? なんという、攻撃の重さ…!」

「がっ…! や、やはり、僕の力では…」


 あの野郎…、ずいぶん好き放題に暴れて…!
 すると、デズモンドの周りにパラメーターのような数字と文字が浮かび上がり詳しい情報が…ってあれ!?


[種族名:浮遊蛇ケツアルカトル]
[名称:デズモンド・ミラー]
[年齢:推定85歳]
[攻撃手段:を利用した超常現象および徒手空拳]
[推奨手段:同等魔素の飽和攻撃]


 これ書いてあるの日本語じゃん!
 しかも数字までこっちの世界と同じだと!?


「おい、なんで日本語!?
 この世界の言語じゃないんだ?」

<初めて仮面遊戯ペルソナに登録した時、マミヤ様の利用言語が日本語だったからだよ!
 それよりほらほら! 早く敵と闘って!>


 …仕方ねぇ、詳しいことはあとで聞くしかない。
 今は一刻も早くあの二人を助けないとな!
 覚悟を決め、再び息を胸いっぱいに吸い込む。


「デズモンドぉぉぉ!!!!」


 腹から声を出す気合いで名前を叫ぶと、ビタリと三人の動きが止まった。


「マ、マミヤどの…?」

「あいつ…? なにを…?」


 デズモンドはゆっくりと首だけをこちらに向かせる。
 俺の変化に気付いたのか、そのままこちらに向かって歩き出してきた。


「アァ…? …ほおう?
 ウジ虫みてぇに丸まってたと思いきや、とんでもねぇ魔力マナを用意してきたじゃねぇカァ!」

「今度は俺が相手してやるよ。
 チンタラ歩いてねぇでとっととかかってこい!」

「ギャハハッ! いいぜぇいいゼェ!!!
 頼むからテメェはがっかりさせてくれんなよ…?
 蒼の××、マミヤレイトさんヨォ!!!」


☆白き巨竜sides☆


 蒼の小僧どもと別れた儂は、小僧の依頼を果たすべくある所へ向かっていた。
 この黒き障壁を形成している元凶…言ってしまえばじゃな。

 まったく…今回は久々の出張で疲れているというのに、あの小僧め…。
 帰還後には今回の報告書をまとめなければならんのだぞ。
 儂のような清廉で麗しいドラゴンをアゴで使ったこと、必ず後悔させてやるからの。


「…っと。ここじゃな。
 あやうく通り過ぎてしまうところだったわい」


 心の中で文句を垂れるうちに、目的の場へ到着する。
 現在地は展望台から真反対の位置にある、裏山地帯の上空。
 そこの障壁のある一部分を叩けば、きっとこやつの〝正体〟が露わになるじゃろう。


「どれ、いっちょう派手にいくと…む?」


 魔力マナを込めた右手に力を入れた瞬間、障壁の外側に見覚えのある蒼きニンゲンが見えた。
 そしてその者は、キョロキョロと宙を舞いながら儂の場所へと近寄ってくる。

 ほう? さてはあやつ…気付いておったのか。
 …フハハッ! そうじゃ!
 いい事を思い付いたぞっ!


☆ルカsides☆


「あった…! やはり私の考えは当たっていた!」


 ドノヴァン山、上空。
 黒いバリアの脆弱性をついに発見し、私は独りで歓喜していた。
 やはりそうだ! このバリアは〝生きて〟いる!

 その考えに至れたのは、現在山の麓に向かっているシュバルツァーのおかげだ。
 ガルド村にいる頃、私は魔法学について分からない事をシュバルツァーにたびたび尋ねていた。

 この世界の魔法は大きく三つに分けられる。

 日常生活を快適に過ごすための〝生活魔法〟。
 魔物や賊から身を守るための〝戦闘魔法〟。
 魔力《マナ》の扱いに長けた、限りある者だけが使用可能な〝究極魔法〟。

 そして、いちばん質問の回数が多かったカテゴリーが最後の〝究極魔法〟だ。
 以前、私はシュバルツァーとこのような会話を行なっていた。


「なあ、シュバルツァー。
 もし君が究極魔法を嗜めるとしたら、何の魔法を使ってみたい?」

「んーそうねぇ…。
 『召喚サモン』とか『精霊スピリット』はちょっと使ってみたい気はするけど、いちばんはアレね!」

「なんだ?」

「究極魔法『変身トランス』よ!
 なんでもそれを使えば、強力な魔物とか武器に姿を変えられるらしいの。
 えへへ…あんたとレイトが『同調シンクロ』を使っているのを見てたら、なんだか憧れてきちゃった」


 彼女は少し恥ずかしそうに、そんな事を私に教えてくれた。

 そう、私は何者かが『変身トランス』を行い、黒いバリアへと姿を変えていると仮定したのだ。
 どんな形であれそれが生き物であるならば、必ずエネルギーの脆弱性がある。


「…だが、私だけで破壊できるか…?」


 脆弱ポイントを発見できたはいいが、もうひとつ問題があった。
 肝心な攻撃の手段…私は現在素手だった。
 武器は零人が持っている。
 果たして私の力が通用するだろうか?

 …いや、私を送ってくれたマスカットとバーミリオンのためにも必ず破壊してやる!
 たとえこの拳が砕けようとも!
 右手を握りしめ、ゆっくり振りかぶった。


「待っていろ、零人…。
 はあああああああっ!!!」
 

 意を決して、拳を脆弱ポイントへ振り下ろす。

バキャンッ!!!

「なっ!?」


 木の板を割るような確かな手応えと共に、私の拳はバリアをいとも簡単に貫通した!
 バカな!? たった一撃で!?
 見た目より軟弱だったということか…?

バキ…バキ…バキ…!

 拳の突き刺さった箇所から四方八方へどんどん亀裂が広がっていき、崩壊のカウントダウンを刻み始める。
 そして傷付いた亀裂から黒い粒子が浮かび上がり、ガラスが砕けるが如く一気に〝爆発〟した!

 ガッシャアンッ!

「ギャアアアア!!?
 なっ、何をするお前ら!!!」

「貴様は…!」


 発生した黒い粒子は収束し、山頂を覆っていたバリアが消え失せた。
 そして代わりに現れたのは、バリアを発生させた元凶である『魔物』。

 なんだコイツの種族は…?
 いや待て!? それより今なんと言った…?
 『お前』?


「フハハハハハハ!! 〝じゃっくぽっと〟!!
 攻撃の時機をピッタリ合わせられたわい!
 良うやったぞ蒼の娘!」

「なっ、白竜ホワイト・ドラゴン!?」


 聞き覚えのある、カンに障るような笑い声。
 私の拳が突き刺さり狼狽する魔物の後ろには、同じように拳を打ち込んだ、ツノと翼を生やした白い女がいた…。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

旦那様に勝手にがっかりされて隣国に追放された結果、なぜか死ぬほど溺愛されています

新野乃花(大舟)
恋愛
17歳の少女カレンは、6つほど年上であるグレムリー伯爵から婚約関係を持ち掛けられ、関係を結んでいた。しかしカレンは貴族でなく平民の生まれであったため、彼女の事を見る周囲の目は冷たく、そんな時間が繰り返されるうちに伯爵自身も彼女に冷たく当たり始める。そしてある日、ついに伯爵はカレンに対して婚約破棄を告げてしまう。カレンは屋敷からの追放を命じられ、さらにそのまま隣国へと送られることとなり、しかし伯爵に逆らうこともできず、言われた通りその姿を消すことしかできなかった…。しかし、彼女の生まれにはある秘密があり、向かった先の隣国でこの上ないほどの溺愛を受けることとなるのだった。後からその事に気づいた伯爵であったものの、もはやその時にはすべてが手遅れであり、後悔してもしきれない思いを感じさせられることとなるのであった…。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

処理中です...