上 下
213 / 294

第210話:騎士の行方

しおりを挟む
「魔族…それも大軍ですって…!?」

「バカな…!
 まさか今まで魔族が大人しかったのは、戦力を蓄えていた…?」

「おいおいおい! どういうことだァ?
 魔族の国アルケインの連中が本格的に攻めてきたってのか?」


 カーティスの報告で全員に戦慄が走り渡る。
 というかふもとに騎士が居るですって!?
 そこってたしか、私たちがキャンプで一夜を明かした場所よね…。
 ルカも何も言ってこなかったし、辺りの魔物だってカーティスに脅える魔物しかいなかったはずだけど…?


「カ、カーティスさん!
 まさか魔族の方も既に麓に居るんですか!?」


 シルヴィアが焦った様子でカーティスに問いかける。
 両方とも近くに居るなら確かにまずいわね…!
 そいつらの目的が何にしろドノヴァン村が危険だわ!


「ソッチハマダ麓ヨリズット後ロニ居テ、昨日覗キオヤジト一緒ニ頑張ッテ妨害シタカラ、コッチニ来ルマデノ時間ハナントカ稼イダヨ。
 …デモ、全員倒シタワケジャナイ。
 モタモタシテルト、アイツラモ麓ニヤッテ来チャウ!」


 なるほど…。
 魔石マナ・ストーンの合図がドラゴン組に伝わらなかった理由が分かったわ。
 昨日の段階でオズベルクとカーティスは麓より後ろ…ドノヴァンから少し離れていたわけね。


「カーティス、率いてるのは…敵将は誰だ?
 まさかこないだ俺が仕留め損ねた吸血鬼ヴァンパイアの女か?」


 テオがブレイズの手網を引きながら質問する。
 大軍…そうか!
 イザベラの『屍人起こしネクロズマ』ならすぐに大量のアンデッドを用意できる!

 …いや、違うわね。
 今の時間は朝。
 吸血鬼ヴァンパイアは夜か暗い屋内じゃないと行動できないはず。


「ウウン。ワタシガ見タ魔族ハ全然知ラナイ奴。
 種族ハ『犬妖精クー・シー』ダヨ。
 ソイツガ魔物ヲイッパイ引キ連レテタ!」


 カーティスがゴツゴツした両前脚を頭の上へ、耳を模すように乗っける。
 『犬妖精クー・シー』か。厄介ね…。
 アイツらは小さいし力も弱いけど、かなりズル賢い戦法を使ってくる。
 それになかなか素早く、まともに闘うと一気にスタミナを消耗させられてしまう。


「ど、どうしましょうフレデリカさん?
 上にはレイトさん達がいますが…」


 シルヴィアがおろおろと山頂の方角を見る。
 そうだ、レイトにこの事を早く知らせなきゃ。
 …あーでも! 騎士がそこまで来てるなら…


「フレ子、ソウイエバマー坊ハ?
 ルカ子モ居ナイミタイダケド…」

「え? ああ今は別れてるのよ。
 ちょっと待ってよ、今どうするか考え…」

「ならカーティスに行ってもらってアイツらに状況を知らせるかァ?」

「それではエリザベス殿の村が危険だ!
 騎士と魔族の位置をカーティスしか知らない以上、彼女の案内が必要だろう…。
 いや、その前に急ぎ村へ戻って族長殿にも報告せねばなるまい!」

「だが逆にレイトさえ見つければ、転移テレポートの力で一瞬でドノヴァン村へ戻れるんじゃないか?」

「ニャッ! 確かに…見つかるまでが勝負ニャ。
 でもエリザベスちゃんは早く戻りたいニャ?」

「…村には愚かしい兄がいるのでそこまで危惧はしていませんが、万が一の可能性を考えるとそうですね…。
 私はウォルト様の意見に賛同します」


 まずいわね、意見がどんどん割れてきている。
 リーダーが不在の場合は私が指揮を執ることになってるから、早急に行動方針を決めなくちゃいけない。
 こんな時レイトなら…


「…ん? ちょ、ちょっと待ってくれみんな!
 いま炎獣イフリートが話しかけて…。
 …な、なんだと!? くっ…!」

「ど、どうしたのナディア?」


 今度はナディアが山頂を睨みつけた。
 ま、まさかこれ以上悪い情報があるんじゃないでしょうね!?


「たった今、もともと私たちが目指していた山頂付近から『伝説の魔物』の魔力マナを観測したらしい…。
 カーティス、貴公が見つけた騎士はまさか一体だけなのか!?」

「ウ、ウン。ア、ゴメン言ワナカッタネ。
 ワタシ達ガ見ツケタ騎士ハ『紅』ノ方ダケダヨ」

「「「ええ!?」」」


 『紅』だけ!?
 ということは…、まさか…!?


「カーティスとウォルト様の情報を照らし合わせると、どうやら『紅と黒の騎士』は二手に別れているようですね。
 このドノヴァンのいただきと、ふもとに…」

「ええ…! ちっ、油断したわ…。
 オズベルクの『千里眼ボヤンス』で見た時は二人セットだったから、てっきり同じ場所に固まってると思い込んじゃってたわね…」

「そ、そうですね。
 せめてモネさんがもう一度話しかけてきてくれれば、彼らにも連絡をつけられるのですが…」


 ドノヴァンへ来た初日に炎獣イフリートがエリザベスの家で話していた、究極魔法『召喚サモン』の使い手は『黒』の方になる…。

 つまり上と下、両方に急いで向かわなければならないってことね…!
 今ここでどちらに向かうか、メンバーを振り分けなくちゃ。
 ……よし!


「私、セリーヌ、リック、シルヴィア、エリザベスはカーティスと一緒に村と麓へ向かうわよ! 
 ナディアとテオはブレイズに乗っかって、急いでレイト達と合流してちょうだい!
 そして今の情報を伝えてあげて!」

「ガッテンニャ!」

「おう!」

「分かりました!」

「了解です」

「承知した!」

「分かった!」


 こうして私たち『蒼の旅団』もまた、二手に別れてそれぞれ行動を開始した。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...