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第207話:示談
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「頭はまだちょっと痛いですが…。
大事はないですよ」
「そうでしたか…」
スッ…
「…? あの…?」
マキオンさんは入室するなり、突然俺の手を握ってきた。
ちょ…健全な男子にそれは困りますよ奥さん。
「今回の経緯はイザークより伺ってますわ。
この度は愚息エドウィンが大変ご迷惑をおかけいたしました…。
あの子に代わり、謝罪を申し上げます…」
「えっ、ちょっと…やめてくださいよマキオンさん」
被害者に対して加害者の身内の謝罪は、社会人としては常識かもしれないけど、俺はこの人から謝られたい訳ではない。
できれば本人の口から聞きたいね。
「君に言っても仕方がないこととは思ってるが、今回我々…いや、零人は彼に殺されるところだったんだぞ。
ここが街や都なら立派な殺人未遂だ。
親の謝罪ひとつで不問にしろと言うのか?」
あ、ルカが全部言ってくれた。
さすが俺の相棒。
マキオンさんはルカに向き直り、同じように彼女の手を握った。
「ええ、もちろん分かっておりますわ。
慰謝料…もしくはそれに代わる何らかの補填をさせていただきます。
何かお望みの物はございますか?」
「…零人?」
俺に投げてきた。
「えーいきなり言われてもな…。
あ、物っていうよりちょっと聞きたいんですけど、さっきイザークとミアから俺がアンタらの政に巻き込まれるかもって聞きました。
それ、マジなんですか?」
正直こっちの方が頭きてるところもあるので、ちょっと語気が強くなってしまった。
身を守って勝手に村の悪党にされたんじゃあ、名誉毀損もいいとこだぜ。
「…結論から言えば本当ですわ。
ですが、ご安心ください。
少なくとも〝反対派〟の子たちは全員あなたの味方です。
もちろんこの私も…。
村での諍いにレイトさんをこれ以上巻き込まないよう取り計らいますわ」
「うーん…」
それならひとまず安心しても良いのかな?
要は俺たちの活動の邪魔さえしなければ文句はないんだけど。
「もともと今回の件は僕のドジが発端です…。
なので彼は僕が責任を持ってお守りします!
ドノヴァンの戦士として…その誓いを今ここに立てます!」
「イザーク…」
胸に手を当て、まるで高貴な騎士のように…。
その赤い眼差しはあまりにも純粋で、少し俺には眩しかった。
「もちろん私もよ! エリーの大事な人だもの!
もし〝暫定派〟の誰かが宿に近づいてきたら、すぐに放り出してやるわ!」
「ミア…。二人とも、ありがとう」
ザベっさんのダチにここまで言わせたなら、俺もいつまでもネチネチしてちゃあダメだよな。
俺は改めてマキオンさんに顔を向けた。
「俺とルカとイザークは、あす早朝また山へ戻ります。
そんでもし無事に帰って来れたなら…、その時はあなたのシチューをご馳走してください。
娘さんから聞きましたよ、すげぇ絶品だって。
今回はそれでチャラにします」
少し甘いかもだが、これがいちばん平和的な解決法だろ。
すると、マキオンさんに陽が射したが如く、娘とよく似た顔を綻ばせた。
「レイトさん…!
ええ…ええ! もちろんですわ!
とびっきり美味しいシチューをご用意させていただきます!」
ガバッ!
「うわっ!? ちょっとマキオンさん!?」
「おい貴様なにをしている!?」
抱きつかれた!?
ひ、人妻に抱きつかれちゃった…。
ふわぁ…、めっちゃいい匂い…。
「…エリーったら本当に良いオトコを見つけてきたんですね…。
うふふ、もし娘に飽きられたら私がお相手して差し上げますわ」
「ちょ…!? アンタ結婚してんでしょうが!
こんなとこでどうどうと不倫する気!?
ダメよ! 彼はエリーのものなんだから!」
「ふざけるなナイセル! 零人は私の相棒だ!
勝手に宝石の男に唾を付けるな!」
「あ、あはは…、村へ来たばっかりなのにレイトは人気者ですね」
☆☆☆
センチュリー家との示談も終わり、あとは明日に備えて寝るだけ。
…今日だけで気絶を二回もしてしまったので、正直あんま眠くない。
いつものようにルカと添い寝をしていると、彼女がゴロンと身体をこっちに向けてきた。
「零人。身体の具合はどうだ?」
「ん? 頭以外は特に問題ないよ」
「本当に?」
ずいっと、俺の至近距離まで身体を寄せてきた。
な、なんだよ、まさか無理してるとでも思ってるのか?
「ほ、本当だよ。
強いて言うなら首も少し腫れてるけど…」
「………………」
薄暗くても分かる…ルカの視線は俺の眼に釘付けだ。
ど、どうしたんだ?
「……先ほどの闘い、君は自分の変化に気付いていたか?」
「え? 変化?
あの時はだいぶ俺もキレてたと思うけど…これといって別に」
キョトンと答えると、ルカは指で俺の胸板を突いた。
ちょっと痛いんですけど?
「君のエネルギーから…妙な気配を感じた」
「妙な気配? な、なにそれ?」
「分からんが…少なくともヒトではない」
なんだいきなり炎獣みたいなことを…。
俺のエネルギーは契約時に、ルカの蒼のエネルギーと同化している。
何か嗅ぎつけたんだろうか?
「それに肉体にも変化はあった。
あの時、奴の手の拘束を力業で解いただろう?
君の筋力と奴の筋力では天と地の差があったはずだ…」
「そう言われればまぁ…確かに。
でも、誰だって死ぬ間際にはクソパワー出るんじゃない?
ホラ、〝火事場の馬鹿力〟ってやつ」
「……それだけなら良いのだが、私はその気配に覚えがあるんだ」
覚えだって?
同じ状況の奴を見たことあるってことか?
「それって、誰?」
「………いや、すまん。
きっと私の思い違いだ。気にしないでくれ」
おいいい!?
そこまで言っといてそれはねぇだろ!
「いやいやいや!
却ってめっちゃ気になるんですけど!?」
グイッ!
「わっ!? ちょっとなに…?」
両腕で頭を引き寄せられた…。
幼い子供を抱くように、優しくひしりと抱きしめられる。
「大丈夫だ。
もし君に何かがあっても私が助ける。
今は目の前の目標に集中しよう」
「その〝何か〟を知りたいんですけど…?」
「フフ…それっ」
「ふぐっ!?」
ジトッとルカを睨んでやるが、彼女は気にも留めずに俺へ更にくっついてきた。
宝石人間とは思えないほど、華奢で…とても柔らかい。
や、やめなさいよ…変な気分になっちゃうでしょうがよ。
「ほら、たくさん甘えさせてやったのだから、もう今夜は寝よう。
おやすみ零人」
「…なーんかごまかされて納得いかないけど、まあいいよ。
おやすみルカ」
大事はないですよ」
「そうでしたか…」
スッ…
「…? あの…?」
マキオンさんは入室するなり、突然俺の手を握ってきた。
ちょ…健全な男子にそれは困りますよ奥さん。
「今回の経緯はイザークより伺ってますわ。
この度は愚息エドウィンが大変ご迷惑をおかけいたしました…。
あの子に代わり、謝罪を申し上げます…」
「えっ、ちょっと…やめてくださいよマキオンさん」
被害者に対して加害者の身内の謝罪は、社会人としては常識かもしれないけど、俺はこの人から謝られたい訳ではない。
できれば本人の口から聞きたいね。
「君に言っても仕方がないこととは思ってるが、今回我々…いや、零人は彼に殺されるところだったんだぞ。
ここが街や都なら立派な殺人未遂だ。
親の謝罪ひとつで不問にしろと言うのか?」
あ、ルカが全部言ってくれた。
さすが俺の相棒。
マキオンさんはルカに向き直り、同じように彼女の手を握った。
「ええ、もちろん分かっておりますわ。
慰謝料…もしくはそれに代わる何らかの補填をさせていただきます。
何かお望みの物はございますか?」
「…零人?」
俺に投げてきた。
「えーいきなり言われてもな…。
あ、物っていうよりちょっと聞きたいんですけど、さっきイザークとミアから俺がアンタらの政に巻き込まれるかもって聞きました。
それ、マジなんですか?」
正直こっちの方が頭きてるところもあるので、ちょっと語気が強くなってしまった。
身を守って勝手に村の悪党にされたんじゃあ、名誉毀損もいいとこだぜ。
「…結論から言えば本当ですわ。
ですが、ご安心ください。
少なくとも〝反対派〟の子たちは全員あなたの味方です。
もちろんこの私も…。
村での諍いにレイトさんをこれ以上巻き込まないよう取り計らいますわ」
「うーん…」
それならひとまず安心しても良いのかな?
要は俺たちの活動の邪魔さえしなければ文句はないんだけど。
「もともと今回の件は僕のドジが発端です…。
なので彼は僕が責任を持ってお守りします!
ドノヴァンの戦士として…その誓いを今ここに立てます!」
「イザーク…」
胸に手を当て、まるで高貴な騎士のように…。
その赤い眼差しはあまりにも純粋で、少し俺には眩しかった。
「もちろん私もよ! エリーの大事な人だもの!
もし〝暫定派〟の誰かが宿に近づいてきたら、すぐに放り出してやるわ!」
「ミア…。二人とも、ありがとう」
ザベっさんのダチにここまで言わせたなら、俺もいつまでもネチネチしてちゃあダメだよな。
俺は改めてマキオンさんに顔を向けた。
「俺とルカとイザークは、あす早朝また山へ戻ります。
そんでもし無事に帰って来れたなら…、その時はあなたのシチューをご馳走してください。
娘さんから聞きましたよ、すげぇ絶品だって。
今回はそれでチャラにします」
少し甘いかもだが、これがいちばん平和的な解決法だろ。
すると、マキオンさんに陽が射したが如く、娘とよく似た顔を綻ばせた。
「レイトさん…!
ええ…ええ! もちろんですわ!
とびっきり美味しいシチューをご用意させていただきます!」
ガバッ!
「うわっ!? ちょっとマキオンさん!?」
「おい貴様なにをしている!?」
抱きつかれた!?
ひ、人妻に抱きつかれちゃった…。
ふわぁ…、めっちゃいい匂い…。
「…エリーったら本当に良いオトコを見つけてきたんですね…。
うふふ、もし娘に飽きられたら私がお相手して差し上げますわ」
「ちょ…!? アンタ結婚してんでしょうが!
こんなとこでどうどうと不倫する気!?
ダメよ! 彼はエリーのものなんだから!」
「ふざけるなナイセル! 零人は私の相棒だ!
勝手に宝石の男に唾を付けるな!」
「あ、あはは…、村へ来たばっかりなのにレイトは人気者ですね」
☆☆☆
センチュリー家との示談も終わり、あとは明日に備えて寝るだけ。
…今日だけで気絶を二回もしてしまったので、正直あんま眠くない。
いつものようにルカと添い寝をしていると、彼女がゴロンと身体をこっちに向けてきた。
「零人。身体の具合はどうだ?」
「ん? 頭以外は特に問題ないよ」
「本当に?」
ずいっと、俺の至近距離まで身体を寄せてきた。
な、なんだよ、まさか無理してるとでも思ってるのか?
「ほ、本当だよ。
強いて言うなら首も少し腫れてるけど…」
「………………」
薄暗くても分かる…ルカの視線は俺の眼に釘付けだ。
ど、どうしたんだ?
「……先ほどの闘い、君は自分の変化に気付いていたか?」
「え? 変化?
あの時はだいぶ俺もキレてたと思うけど…これといって別に」
キョトンと答えると、ルカは指で俺の胸板を突いた。
ちょっと痛いんですけど?
「君のエネルギーから…妙な気配を感じた」
「妙な気配? な、なにそれ?」
「分からんが…少なくともヒトではない」
なんだいきなり炎獣みたいなことを…。
俺のエネルギーは契約時に、ルカの蒼のエネルギーと同化している。
何か嗅ぎつけたんだろうか?
「それに肉体にも変化はあった。
あの時、奴の手の拘束を力業で解いただろう?
君の筋力と奴の筋力では天と地の差があったはずだ…」
「そう言われればまぁ…確かに。
でも、誰だって死ぬ間際にはクソパワー出るんじゃない?
ホラ、〝火事場の馬鹿力〟ってやつ」
「……それだけなら良いのだが、私はその気配に覚えがあるんだ」
覚えだって?
同じ状況の奴を見たことあるってことか?
「それって、誰?」
「………いや、すまん。
きっと私の思い違いだ。気にしないでくれ」
おいいい!?
そこまで言っといてそれはねぇだろ!
「いやいやいや!
却ってめっちゃ気になるんですけど!?」
グイッ!
「わっ!? ちょっとなに…?」
両腕で頭を引き寄せられた…。
幼い子供を抱くように、優しくひしりと抱きしめられる。
「大丈夫だ。
もし君に何かがあっても私が助ける。
今は目の前の目標に集中しよう」
「その〝何か〟を知りたいんですけど…?」
「フフ…それっ」
「ふぐっ!?」
ジトッとルカを睨んでやるが、彼女は気にも留めずに俺へ更にくっついてきた。
宝石人間とは思えないほど、華奢で…とても柔らかい。
や、やめなさいよ…変な気分になっちゃうでしょうがよ。
「ほら、たくさん甘えさせてやったのだから、もう今夜は寝よう。
おやすみ零人」
「…なーんかごまかされて納得いかないけど、まあいいよ。
おやすみルカ」
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