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第202話:騎士の目的

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☆間宮 零人sides☆


 ザベっさんたち霊森人ハイエルフよりもさらに真っ白な頭髪。
 頭部から上向きに生えた角とケツから伸びた尻尾。
 青い縦切りの竜の瞳。
 そしてなんと、あのフレイより背が高い…。
 
 さっきまで闘っていたドラゴンが人間の女になっちまった!
 またこのパターンかよ!


「もーなんなんだよ~!!
 なんで俺が出会うドラゴンっていつも喋りかけてくんの!?
 他の魔物みたいに大人しくやられてくれよ!」


 俺が頭を抱えて目の前の女へ叫ぶと、そいつは顎をさすりながらまた豪快に笑った。


「フハハハ! 
 サバトの前にちっと遊んでみようと思うただけじゃが、なかなか楽しませてくれる!
 小僧、キサマ名は何と申す?」


 見た目にそぐわぬ爺言葉で語りかける女。
 というのもアレだ。
 コイツ耳やら鼻やら唇やら果てには自分のツノにまで、至るところにド派手なピアスを付けてやがるんだよ。
 まるで前に合コンした蜥蜴人リザードのブリジットさんを彷彿とさせる出で立ちだ。
 …何だこのチャラいギャルドラゴン。


「…その前に一つ確認させろ。
 これ以上俺たちと闘う気は無いんだな?」

「儂とまだ踊りたいと言うならば叶えてやらんこともないが、今はキサマに興味が湧いただけよ」


 ニヤニヤとドラゴン特有の鋭い瞳で俺を観察してきやがる。
 おっさんといいカーティスといい、人間になるならもう少し眼光を柔らかくできないのかね?


「間宮 零人。
 で、お前がもう一人握ってやがったのはルカだ」

「マミヤレイト…? ふむ、変わった名前じゃな。
 …いや待て。
 さっきの蒼い女といい、キサマがあの…?
 じゃが何故ここに…?」


 今度はなにやらブツブツと独り言を呟く。


「なんだよ。どっかで俺の噂でも聞いたか?」


 今ではもう珍しくない。
 田舎の町ですら俺のことを知ってる奴いたくらいだからな。


「…いいや、こちらの話じゃ。
 それよりキサマラも〝サバト〟に参加する気か?」

「なんだお前そっちばっか質問してきやがって。
 俺たちまだお前の名前聞いてないんだけど?」

「ふふ、悪いが訳あって儂は簡単には名を明かせん身なのじゃ。
 それでどうじゃ、祭りには参加するのかえ?」


 ど腐れドラゴンが! なんて強引な女だ!
 それが人に物を聞く態度か!?


「情報の交換なら応じるが、ただの一方的な質問は受け付けない。
 よってこれ以上貴様と話すことは無い」

「おおっ! やはり儂の聞き違いではなかったか!
 小僧の身体から声が聴こえとる…おもしろい!」


 ルカもイラついたのか鋭い口調でピシャリと言い放つが、この女にはノーダメージのようだ。


「そうじゃなぁ…、本来は部外者に言ってはならんのじゃが…。
 まあ、少しなら問題あるまい。
 キサマラはサバトの原因は知っておるか?」

「そんなもんはとっくに知ってる。
 『紅と黒の騎士』だろ?
 で、片割れに魔物を呼ぶ奴がいる…」

「ほう、そこまで突き止めておったか。
 では奴らの『目的』は何だか分かるか?」


 目的だと?
 そりゃあ、魔族なんだし…


「単純に魔物どもを暴れさせて、それを見て楽しんでんじゃないの?」


 パッと思い付いた考えを言うと、女は肩を竦めた。
 あっ、今バカにした顔しやがった!


「ただのはぐれならともかく、奴らがそんな愉快犯なわけがないじゃろ。
 …奴らは軍を作るため、『選別』を行なっているのじゃ」

「「!?」」


 なっ、なに!? 軍を作るだと!?
 まさか魔族の国アルケインが現地で魔王軍を編成するってのか!?


「待て、それならばなぜ他の魔族どもも騎士を探している?
 なぜさっさと合流しない?」


 矢継ぎ早にルカが身体越しに質問する。
 俺たちだってその可能性はすでに考えたんだ。


「…さぁな。
 詳しくはまだ調査中じゃが、奴らも一枚岩ではないということなんじゃろ。
 じゃが、奴らの片割れの正体は最近判明した。
 だから儂が『派遣』されたのじゃ」

「なに!? 片割れの正体だと…?
 それに派遣ってなんだよ!?」

「おっと。『サービス』はここまでじゃ。
 最初の質問に戻させてもらおうか?」


 ぬうっ!!
 ここまで言ったなら教えろよ!
 ドラゴンって意地悪いな!


「…私たちはその二人を追ってわざわざ隣国からやって来たのだ。
 魔王に関する存在ならば放っておけん」


 半分諦めたようにルカが言ってしまった。
 もう少し引っ張れば情報引き出せそうだったけど…。
 すると女はニコッと、ピアスを光らせながら口角を吊り上げた。


「ふむ、やはりそうじゃったか!
 キサマとはいずれまた邂逅するじゃろう!
 これにてさらばじゃ!」

バサッ!

 女の背中から翼が生えた!
 まさか逃げるつもりか!?


「おいコラ待ちやがれぇ!!
 お前いったい何者…あっ!?」

 パァァ…

 いきなり姿が消えた!?
 まさかこの魔法は…!


「モービルの得意な魔法…『擬態クローク』。
 あのトカゲめ…」


 そうだ。
 セリーヌが隠密作戦の時に使用した魔法だ。
 デカいくせに器用なマネを!


「サービスついでにもう一つ教えてやろう!
 キサマラの仲間は山頂を目指しているぞ!
 合流するならばそこに行くのじゃな!
 フハハハハハハハハ!」

「「…………」」


 空からやかましい声だけが轟いた。
 攫ったのはテメェなんだからせめてタクシー代くらい出してけよアホンダラ!
 もう俺ほんっとドラゴン大嫌い!


「あ、あのぅ…」


 居なくなった白竜ホワイト・ドラゴンに憤慨していると、遠慮がちに後ろから声が掛かった。
 振り向くと勇敢にもたった独りで俺たちを助けてくれた男、イザーク・バーミリオンが槍を持って立っていた。


「イザーク!? わりぃお前も居たんだったな!」

「い、いえ、なんというか…あのドラゴンに気圧されてしまって、声を掛けるタイミングが…」

「分かる! 分かるぜイザーク!
 それより俺らを助けてくれてありがとな!
 お前は命の恩人だよ!」


 ガシッと彼の手を掴んで心からお礼を言うと、何故かふいと目を逸らされた。


「い、いや僕は何も…」

「ん?」

「なっ、なんですか?」


 目を合わせない…どころか顔が少し赤い気が…?


「なんでイザーク赤くなってるの?
 まさかアイツになんかされたか?」

「あっ、いやっ…、その…」


 イザークはしどろもどろに言葉を探し始めた。
 ダメージを負ってるわけじゃなさそうだけど…。


「その…、今のレイトは女の子みたいなので少し照れてしまうというか…」

「はい?」


 女の子? 俺オトコだけど。


「私たちの今の状態が『融解メルトロ』だからじゃないか?
 風貌だけで見れば女に見えなくもないからな」

「ああ、そういう…。
 あの…一応言っとくけど、俺ノンケじゃないからね?」

「『のんけ』…? …っ!?
 ぼっ、僕もですよ!
 第一、僕が好きなのはミアで…あっ!?」

「「…………」」


 なるほど、イザークはミアに気があると。
 ほう、良いこと聞いちゃったな。


「今の言わないでくださいね!?」

「お前がミアに想いを寄せてるって?」

「わあぁぁぁ!?」


 俺たちは自ら墓穴を掘ったイザークをからかいつつ、仲間との合流を目指して山頂に向けて歩き出した。









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