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第201話:ハイエルフの社

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☆イザーク・バーミリオンsides☆


 突如、僕たちを襲撃した巨大な白竜ホワイト・ドラゴン
 何故かは分からないが、コイツはレイトとルカさんを両手に握り締めて、どこかへ連れ去ろうと企てた。
 ドラゴンの生態は詳しくないが、魔物の中には獲物を自分の巣に持ち帰って捕食する者がいる。
 …僕の目がうちはそんなことはさせない。

 白竜ホワイト・ドラゴンが飛び立つ寸前、ドラゴンの脚にしがみつくことに成功する。
 しかし、ドラゴンはまるで気にしないで僕を脚にくっ付けたまま空へ飛んでしまった…。


「オオオオン……」

「くっ…」

ビュオオオオオ…

 僕の全身に降りかかる空気の滝。
 ドラゴンの方はぶつかる気流をものともせず、ただただ真っ直ぐに…魔物の群れの後を追いかけていた。
 本当は前脚部へよじ登って二人を助けたいが、今は振り落とされないよう腕に力を込めるだけで精一杯だ。
 いったい二人をどこに連れて行く気なんだ?


「このままじゃ山頂に着いちゃうな…ん?」


 顔面に当たる向かい風をなんとか堪えながら、行く先に目測を立てていると、ドラゴンの首がいつの間にか下へ向いていることに気付いた。
 あっ、まずい! 目が合った…!
 ま、まさか僕を振り落とすつもりなのか!?


「……………(プイッ)」

「えっ………?」


 あ、あれ…?
 今、バッチリと僕を捉えたはずなのに、再び前方へ頭を傾けた。
 僕、完全に落とされるつもりで覚悟していたんだけど…。
 ドラゴンって何を考えているのかさっぱり分からないな。


☆☆☆


「ちょっと!? どこに行く気なんだ!?」

「………………」


 押し寄せる豪風に身を強ばせること数分。
 ドラゴンは空を舞う魔物の群れに合流する直前でいきなり進路を変更した。
 他の群れと同じように山頂を目指しているのかと思ったけど違うのか!?
 いや、たしかこの方角は…


「…待って。まさかお前の行く所って…」

「………………」


 白竜ホワイト・ドラゴンは唸りも吠えもせず、静かに翼を拡げて滑空を始めた。
 これは…やっぱり着陸機動に入ったんだ。

 ドラゴンと僕が見据えているのは、ドノヴァン山に唯一あるお社。
 僕たち霊森人ハイエルフのご先祖さまが祀られている所だ。
 観光名所としても少し有名で、村の行事、安全安産祈願、豊穣祈願など、ドノヴァンへ遊びに来たお客さんなら必ず訪れる場所。
 ま、まさかお社を壊しに来たんじゃ…!?


「………………」


 でも、それだとこのドラゴンの魔力マナが随分大人しいような…?
 どんな魔物でも破壊活動をする時には、魔力マナが躍動する。
 つまり攻撃する意思はないのだろうか?

 ズズズン……

 やがてドラゴンはお社の敷地でもっとも広い中央の広場へ目星を付け、巨大な翼を可動させて重々しく着地した。

 …よし! ようやく僕も自由に動ける!
 着地に合わせて、素早くドラゴンの前方へ回り込む。


「お前! レイトとルカさんを解放しろ!
 さもないとお前の霊体に穴を開けるぞ!」


 背中に装備していた僕の武器…槍を握って白竜ホワイト・ドラゴンに切っ先を向ける。

 今は仲間が居ない…。
 だけど…それでもやるしかない!
 幼なじみのエリザベスが外のお友達を連れて来てくれたんだから!
 彼女の哀しむ顔は絶対に見たくない!


「………………」

パッ!

「えええっ!?」


 手を離した!?
 まさか言葉を理解したのか!?
 それにしたってこんなにあっさり…。


「ルカ!」

「零人!」


 ドラゴンの両手から解放された二人は、突然の奇行にも動じず互いの名前を呼び手を取り合った。
 そして…


「「『融解メルトロ』!」」

ボン!

「レイト!? ルカさん!?」


 こ、これって!?
 いきなり蒼い爆発が起こったと思いきや、爆煙の中から知らない女性が…。


「敵性存在『白竜ホワイト・ドラゴン』と戦闘を開始する。
 脆弱ポイントの解析完了、目標をマーク。
 一気にカタをつけるぞ零人!」

「おう! …このデブトカゲがぁっ!!
 よくも俺をテメェの汚ねえ手で握りやがったな!」

「えっ、えっ!?」


 見た目は蒼い髪をした可愛い女の子だけど、口元から出た声質はレイトだ!
 それに身体からルカさんの声も…?
 そうか! 昨日レイトが話していた宝石スフィアの能力ってこれの事なんだ!

ガキャンッ!

 えっ!? レイトの両腕の鎧手ガントレットから剣が生えた!
 あの武器はいったい…?
 …って、いけない! うかつに攻撃をしては!

ブン!

 しかし僕が呼びかけるより早く、レイトは一瞬で白竜ホワイト・ドラゴンの首元へ移動していた!
 は、速い…!


「くたばれぇぇぇ!!!」

ガキィン!

「………………」

「むっ!?
 ドラゴンの身体から高エネルギー反応。
 カウンターの光魔法だ! 回避しろ!」

「くっ!?
 さっきシルヴィアが騒いでたのはこれか!」

キュンッ! キュンッ! 

 放たれた光線を、レイトは身体を回転させながら鳥のように空を舞って回避した。
 白竜ホワイト・ドラゴンの身体中には『輝光幕ルミナス・ヴェール』が展開されている。
 『ヴェール』系の中でも特に習得が難しい属性だ!
 あれを突破するにはどうしたら…?


「ならばバリアをオーバーライドさせるまで。
 零人、攻撃を連続で叩き込め。
 私がカウンターを全て処理する」

「良いけど…大丈夫か?
 残りのエネルギーの量は…」

「それなら心配するな。
 今朝ナイセルの食事をたっぷり頂いたからな。
 存分に暴れようじゃないか」


 おーばーらいど…? 
 二人の会話に首を傾げた次の瞬間、レイトは両手の剣を激しく踊らせドラゴンにぶつけた!


「だあぁっ!!」

ガガガガガガッ!!!

 なっ、何をして!?


「ゴルルルル…」

キュンッキュンッキュンッ!

甲高い音を奏で、白竜ホワイト・ドラゴンから放たれた光線が一斉に襲い掛かる!
 危ないっ!!!
 

「ウスノロが」

ブン! ブン! ブン!

 えっ!? 
 光線を全部ドラゴンへ瞬間移動させた!?
 そんなことしたら…!

キュアアアアンッ!!!

「いいぞ! もっと攻撃を加えろ!」

「あはははははっ! どうした!?
 この程度かホワイト野郎!」

ドドドドドドドド!!!

ブン! ブン! ブン! ブン! ブン! ブン!

 なっ、何だこれ…?
 レイトの攻撃で発生した光線を、全て瞬間移動でドラゴンにぶつけ、それをずっと繰り返している…。
 め、めちゃくちゃだ…!


「ゴルルルル…?」

「あっ! ヴェールが!?」

 バキッ…、バキンッ!

 輝光幕ルミナス・ヴェールにヒビが入った!?
 そうか…!
 あの魔法が許容できる攻撃のを超えたんだ!
 だからレイトはあえて攻撃を何度も何度も与え続けていたのか!


「はあああっ!!!」

ガシャアアアンッッ!!!

 レイトの渾身の一閃がヴェールへ叩き込まれ、ガラスが砕け散るように破壊された!
 す、すごいっ!
 魔法を一切使わないで、完全に『輝光幕ルミナス・ヴェール』を壊したよ!
 

「ゼェッ、ゼェッ…、よぉし!
 なかなか派手にブッ壊れたな!」

「零人チャンスだ! 『逆鱗』を狙え!」

「おうっ!」

ブン!

 レイトが再びドラゴンの首元へ移動し、剣を振りかぶった時だった。
 突如、白竜ホワイト・ドラゴンの身体から眩い光が放たれた!

パアアッ!!

「ちっ!? 目眩しか!
 デケェくせに小賢しい技を!」

「いや、待て! この魔法は…」

「あっ!? なんで止め…マジか!?」


 ルカさんの一声でレイトの動きが止まった。
 その理由はドラゴンのだった。
 山のような大きさのドラゴンがみるみる小さくなっていく…!
 これってまさか!?


「フハハハハハハハハハハハ!
 よくも儂の『ヴェール』を壊してくれたのう!
 気に入ったぞクソガキども!」


 豪快な笑い声と共に光の収縮から現れたのは、角と尻尾が生えた白髪の女性…人間だった。








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