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第197話:クルゥの乗り方

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「『幻霊射ファントム・ショット』」

「『雷光射ライトニング・ショット』」

「「グギャアアア!!」」

「『大鷲グレート・アドラー』撃墜。
 周囲に敵性反応なし。二人とも隊列に戻れ」

「オッケー。ふふん、私の方が早かったわね」

「ご冗談を。
 コンマ数秒、私の攻撃が先に命中しました」


 みんなと共に、クルゥのブレイズに騎乗しながら移動すること二時間。
 チラホラと魔物の姿は見えてきているが、抗争地帯と呼べるほど数は多くない。
 炎獣イフリート曰く〝サバト〟は大小強弱、様々な種族が入り乱れるためその場の地形が変わるほどの大乱闘だそうだ。

 …頼むからドラゴンだけは居ませんように。

 ちなみに俺が気絶してるあいだ2人乗りタンデムしてた炎獣イフリートは、現在はみんなと同じように徒歩で歩いている。
 背中張り付かれると熱かったから助かったぜ。


「すごいです二人とも!
 エリザベスとフレデリカさんは遠距離攻撃の達人なんですね!」


 イザークがはしゃぎながらフレイとザベっさんに駆け寄る。
 遠距離攻撃用の武器を持つ二人のエルフコンビは、出くわした魔物を全て一撃で葬っていた。
 おかげで近接組のリックやテオ、セリーヌはずいぶんヒマそうだ。


「ふふ、別に弓だけが私の武器じゃないわよ?
 傭兵は手に握れるものなら、どんな物でも扱えるように訓練を受けるの」

「同じく戦乙女ヴァルキュリアのカリキュラムでも、戦闘において様々な状況に対応するため、近接格闘術を修める科目があります。
 …あの暑苦しい愚兄には及びませんが」


 イザークに褒められてちょっと偉そうなフレイと、対照的に少し声音を落としたザベっさん。
 そういや、エドウィンさんは闘ってるとき武器を持っていなかったな。
 しかも容赦なく敵を叩き潰していた。
 一切の迷いもなく…。


「ううん、そんなことないよ!
 今のエリザベスを戦士長が見たらビックリすると思うな。
 お淑やかさだけじゃなくて腕っ節も強く…って、ああそれは前からだっ…」

「イザーク?
 これ以上皆さまの前で私の過去を話すようなら、次はあなたにボルトを撃ち込みます」

「ひっ!? い、言わない言わない!」


 ザベっさんはギロリと、刺すような目線でイザークを黙らせた。
 ちぇ、つまんないなー、俺も知りたいのに。

 あ、そういや作戦のことで聞きたいことあったんだ。
 二人を微笑ましそうに眺めているメガネ女に声を掛ける。


「なあシルヴィア」

「なんですかレイトさん?」

「おっさん組と別れたのは良いけどよ、もし抗争地帯を見つけたときはどうやってあっちと連絡することになったんだ?」

「ああそれですか」


 シルヴィアはゴソゴソと腰に提げている自分のバックを漁り始める。
 そして手に何かを握った。


「もしこちらが先に発見した場合は、『コレ』を空に打ち上げてお二人を呼びます」


 何故かシルヴィアは、イザークから隠れるようなポジションにわざわざ移動して、俺に手を伸ばしてきた。
 手のひらには黒っぽいすごく小さな小石が乗っていた。
 …あれ? なんか妙なエネルギーが…。
 も、もしかして…!


「なぁ…! まさかこれマナスト「わあレイトさん! 具合が悪そうですね! 回復ヒアルかけてあげます!」」


 …黙ってろってことか。
 シルヴィアは軽くジャンプして下からグイッと俺を引っ張った。
 いででで! 腰の筋が切れる!


(この魔石マナ・ストーンはオズベルクさんから出発前に受け取ったんです!
 私が手に入れたわけじゃありませんからね!?)

(分かった! 分かった!
 この体勢苦しいから離せ!)


 シルヴィアがコソコソしたことには訳がある。
 『魔石マナ・ストーン』とは、魔道具アーティファクトを機能させるための原動力。
 物によっては、人や建造物をぶっ飛ばすレベルの魔石マナ・ストーンも存在する。
 本来、お国から公式認定された加工屋や武具屋だけが扱っていい代物だ。
 法と正義を遵守する『聖教士クレリック』とはいえ、小娘が持ってて良いモンじゃない。


「お前、良いのかよ?
 こんなもん街で見つかったら大騒ぎになるぞ」

「だから内密にして欲しいんですよ!
 …仕方ないじゃないですか。
 いちばん前線から遠い私が持ってろって、皆から押し付けられたんですから」


 ゲンナリとした表情で深くため息をつくシルヴィア。
 誰がそれを言ったのかは知らんが、案外マトモな理由かもしれない。
 唯一ケガを回復させることができるのはシルヴィアだけだからな。
 万が一に備えて、彼女だけは何としても守らなければ。


「それはそうとレイトさん」

「ん? なに?」

「あなたばっかりずるいですよ」

「は?」


 何かズルいことしたか俺?
 シルヴィアは不満顔でビシッと指を指した。
 その先は…


「あ、もしかしてクルゥのことか?」

「そうですよ!
 私、これでも体力には自信がないんです!
 分かったなら私もクルゥに乗せなさい」


 威張りながら言うことなんかそれ?
 ま、別に俺は構わないけど…。


「じゃ、ホラ。手ぇ掴め」

「は? 何やってるんですか?」

「? 乗るんだろ? 早くこっち来いよ」

「アホですか!?
 私、あなたと密着して乗りたいなんてひと言も言ってませんよ!
 これだから男っていやらしくて嫌なんです!」


 ああもう、ガミガミうるせぇ女だな。
 コイツ忘れてないか?
 俺が乗ってるこの魔物は…いや、どうせなら思い知らせてやるか。


「……じゃ、運転できるもんならやってみな」

「馬鹿にしてるんですか?
 クルゥの乗馬くらい私にだってできますよ」


 俺はクルゥを停め、手網を握りながら降りた。
 シルヴィアは機嫌良さそうにクルゥに手を伸ばす。


「うふふ、それじゃあ今度は私をお願いしますね、クルゥさ「ピュイイイッ!!!」」

「「「!?」」」


 シルヴィアの伸ばした手を、俺が乗っていたクルゥ…〝ブレイズ〟は羽根でバシッとはたいて拒否した。


「きゃあ!? えっ、えっ!?」


 突然のクルゥの暴れっぷりにシルヴィアは思わず尻もちをついてしまう。
 同じく他のみんなもなんだなんだとこっちに集まってきた。

 はぁ…やっぱダメダメだな。
 そんな雑な扱いでは、ブレイズは絶対に受け入れない。
 お手本を見せてやろう。


「テオー、ちょっとこっち来てくれ」

「ああ。どうした? ブレイズが暴れたのか?」

「うん。さっきシルヴィアが乗ろうとしたらこのザマよ。
 悪ぃけど手本見せてやってくれ」

「そういう事か。了解だ。
 シルヴィア嬢、よく見ててくれ」

「は、はぁ…?」


 テオはブレイズのやや後方から近づき、慣れた手つきでそっと羽根を撫でた。


「ピュイ~♡」


 するとブレイズは興奮した状態から徐々に落ち着いていき、テオに自身の頭を預けた。
 おお、だいぶ上手くなったなテオ。


「よしよし…。良い子だブレイズ。
 …よっ!」

「ピュイッ」

「えええっ!?」


 羽根を撫でてリラックスした状態を保ちながら、一気に蔵へ足をかけて騎乗に成功する。


「へぇ…?
 しばらく見てないうちに、のクルゥを手懐けるなんてやるわね」

「テオはもともとクルゥと仲良くなりたくて、がんばってアイツらの世話してたからな。
 あれは努力の賜物だろうぜ」


 近くに来たフレイと頷き合う。
 王都から出発する前に比べたら雲泥の差だ。


「ちょ、ちょっと待ってください!
 なんで私はダメでレイトさんとテオさんは良いんですか!?
 それにナディア…炎獣イフリートさんだって乗せていましたよね!?」


 シルヴィアはどうやら納得いかないようだ。
 そりゃそうだろ。なんたって…


「ブレイズはガルド産のクルゥだ。
 そんじょそこらのクルゥとは気性の荒さが違うんだよ」

「そうそう。
 ブレイズなんて特に荒くれ鳥だったのよ。
 レイトとテオは地道にお世話をしてこの子に認めてもらったの。
 炎獣イフリートは…たぶん種族的な本能で彼女に従ったんだと思うわ」

「そ、そんなぁ…」


 ガックリと肩を落とすシルヴィア。
 これに懲りたら俺に生意気な口を聞かないことだな!

ブン!

「きゃっ!?」

「おっと!?」


 そして俺はシルヴィアを騎乗しているテオの後ろへ転移テレポートさせた。


「あ…レ、レイトさん?」

「俺が嫌ってんならテオはOKだろ?
  気色悪いくらいテオのこと気に入っているし」

「あ…ありがとう、ございます」


 バツが悪そうにシルヴィアは頭をペコッと下げた。
 ま、俺もそろそろ歩きたくなってたしな。


「「「(ジー)」」」


 …何故かみんなが俺に視線を浴びせる。
 な、なんだよ?


「…こういうとこに弱いのよね」

「はい。ゴードン様が少々羨ましく思います」

「ケッ、相変わらず女に甘ェ野郎だぜ」

「レイトくん、優し~ニャ!」

「はい! 彼の思慮深さは勉強になります!」


 す、好き勝手言うな! やめろよ恥ずかしい!
 文句を言おうとした瞬間、ポンと頭に何か置かれた。
 熱い…炎獣イフリート


「なっ、なに?」

「「……。ナンデモナイ。捜索ヲ続ケヨウ」」


 そう言って前を歩き出した炎獣イフリートの表情は、とても穏やかに微笑んでいた。











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