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第195話:勘違い
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☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆
「『ガルドの牙』…。ああっ!
行商人さんから噂は聞いたことありますよ!
遥か西に、エルフだけの傭兵団があるって!
すごい! フレデリカさんは傭兵なんですね!」
「ふふん、そうよ。
これでも腕っ節はいちばんなんだから!」
「アハハ、イザークったらはしゃぎ過ぎよ。
ゴメンね、この子いつもお客さんが来るとあれこれ聞いちゃうの」
レイトがカーティスを迎えに行って数分。
未だにあいつは戻って来ない。
その間、私はミアとイザークの3人でお喋りをしていた。
特にイザークが私の故郷について興味を持ったらしく、とめどなく質問してくる。
この村の人達はずっとここで暮らしてるから、外の世界に憧れているのかもしれないわね。
それにここまでキラキラした目で聞かれるのは悪い気はしない。
なんとなくこの子ラムジーに似てるんだもの。
「それにしてもレイト君遅いわね。
カーティスちゃんの説得に相当手こずってるのかしら?」
「なんだかんだカーティスはレイトに懐いてるから余裕だと思うけど…。
たしかにちょっと遅いわね」
「カーティスさんってあの赤髪の竜人ですか?
貴方たちのパーティーって本当に色んな種族がメンバーにいるんですね~」
「イザーク。あの子はドラゴンよ?
オズベルクさんと同じでね」
「ええええっ!? そ、そうなの!?
…こ、こんな冒険パーティー見たことない…」
感心したように息をつくイザーク。
でも、そろそろ出発しないと。
まったく、何やってるのよレイト。
みんなしびれを切らして待ってるのに。
「…もう、しょうがないわね。
私もちょっと手伝ってくるわ」
「はい、分かりました。
あとでまたお話聞かせてくださいね」
イザークの笑顔に頷き食堂を出ようとしたその時、誰かに腕を引っ張られた。
しかし、振り向いても誰もいない。
「こ、ここだ。下を見ろフレデリカ嬢」
「あっ、テオ。どうしたの?」
…身長差があって見えなかったわ。
少し屈んで問うと、テオはモジモジと赤い顔で答えた。
「…お、俺も手伝う。
朝の訓練…、あいつに謝りたいし。
それにさっきもクルゥの件で駄々こねて…」
すると、恥ずかしそうなテオの傍にもう一人の赤髪女が来た。
ナディアは俯くテオの頭に手を乗せる。
「この通りだ、フレイ殿。
私たちのような貴族は謝罪をすると、どうしてもコトバが固くなってしまうんだ。
彼のために貴公もひと肌脱いでくれないか?」
そっか…。
テオもレイトと仲直りしたいってことなのね。
さっきのリックとのやり取りを見て、自分もアクションを起こしたくなったのだろう。
「テオ…。ふふっ、分かったわ!
そういう事なら一緒に行きましょ!」
「…っ! ああ!」
☆☆☆
「そもそもあいつに対してそこまで気負うことなんかないのよ。
私なんかガルドで暮らしてる頃、レイトとはしょっちゅうケンカばっかりしてたんだから」
「そ、そうなのか?
その時はどっちから謝ってたんだ?」
「数時間も経てばお互いケロッと忘れてるのよ。
回数重ね過ぎてそれが日常になってたからね」
「へ、へぇ…」
カーティスの部屋に向かう途中、テオにガルドにいる頃のレイトの話をしてあげた。
最初にレイトと暮らし始めたばかりの頃は、いがみ合ってばかりで全然仲良くなかった。
でもいつからか、あいつと話したり訓練したり遊んだりすることがだんだん楽しくなってきて…。
気づけば私はレイトを目で追っていた。
ふふ、人生ってどうなるか分からないわね。
半分惚気の如くペラペラ話すうちに、目的の部屋へ到着した。
「ここがカーティスとセリーヌの部屋よ。
さて、とっとと終わらせましょう」
「ああ。ついでに俺も彼に謝罪を「あんっ♡」」
「「!?」」
なっ、なに!? 今の甘ったるい声!?
部屋の中から…?
(フ、フレデリカ嬢? 今のって…)
(シッ…! ちょっと待って!)
ドアの傍に耳を近づけ中の状況を探る。
ま、まさかあの二人…?
いやいやいや!
カーティスはともかく、レイトはドラゴンが大がつくほど嫌いだし…。
そんなわけ…。
「くっ…! カーティス、すげぇ熱いよ…!」
「ハァ、ハァ…、マー坊ぉ…!
ま、まだぁ? 早くシテよぉ…っ!」
ヤッ…、ヤッてる…っ!?
これ完全に致してるじゃない!!
…いや、落ち着きなさいフレデリカ。
以前も同じことがあったじゃない。
レイトとルカが耳かきしてるとき…。
きっと今回だってそういう…
「はぁん♡! もっ、もっと優しくしてよ~!」
「し、仕方ねぇだろ!
俺だってこんなの初めてで加減が」
ぷちん
「何やってんのよこのスケベ男おおおお!!!」
バゴォン!!
「「!?」」
「フレデリカ嬢!?」
とうとう我慢できず、部屋のドアを蹴破ってしまった。
そこには…ベッドの上で服をはだけて仰向けに寝るカーティスと、さらけ出したお腹に手を当てて覆いかぶさっているレイトが…!
やっ、やっぱり…!!!
「信じらんない!!!
こんな時に女と寝てるなんて!
し、しかもよりによってカーティスなんかと…」
「フ、フレイ!? なんでエネルギーを出して…」
バチバチと、両手に雷の魔力を展開させる。
私楽しみだったのに!
いちばん最初にレイトとひとつになりたかったのは私だったのに!
「落ち着けフレデリカ嬢!
お前が暴れたら部屋が…」
「ほぇ…? だれぇ…?」
トロンとした表情で逆さまに私を捉えるカーティス。
蒸気が出そうなほど火照っていて、気のせいか部屋の温度も高い…。
ふぅん、その様子だとさぞキモチ良かったんでしょうね…!!!
ベッドに寝る二人に両手の照準を合わせた。
「げっ!? や、やめろフレイ!」
「ライトニング…」
「待つんだフレデリカ!!!
よく彼らを見ろ! レイトは脱いでいないぞ!」
「え…?」
バッと、間に飛び込んだテオがレイトに向かって指を指す。
レイトの格好は…、あ、本当だ。
上着もズボンも着用している…。
い、いやでも『前戯』をしてたなら…!
「そうだ! お前らも手伝ってくれ!
コイツ暴れるから上手くできないんだ!」
「「はあ!?」」
上手くできないって…!?
な、何をやらせようってのよ!?
そんな変態プレイするわけないでしょ!
「レイト…。ちょっと待ってくれ。
先に俺らに説明をしてくれないか?
今の発言でお嬢の殺気が数倍増した」
「あっ!? そ、そっか焦っちゃって…。
それとゴメン、テオ。さっきは助かった」
「い、いや。別に良いんだ。
というか謝りたいのは俺であって…」
「ああもう!!
いいから言うことあるなら早く言いなさい!
さもないとコレぶっぱなすわよ!?」
☆間宮 零人sides☆
「「『脱皮』!?」」
「ああ。フレイは分かるだろ?
アリーナで蛇女がやったやつだ」
いきなり部屋に突入してきた二人に事情を説明した。
カーティスはおっさんとのコンビを了承してくれたが、おっさんを守るために失った『力』を取り戻す必要があるとのことだ。
通常、ドラゴンが力を取り戻すためには安全な場所で安静に寝ることがセオリーらしいのだが、今回は急な作戦のため〝裏ワザ〟を発動した。
それが『脱皮』だ。
「でも、それならなんでこの子は人間のままなのよ?
『脱皮』は普通魔物の形態で行なうものでしょ」
「ドラゴンの身体でやるとめちゃくちゃ時間かかるんだとさ。
んで、カーティスから提案されたのが、今俺がやってた『逆鱗』の脱皮だ」
「なるほど…。
ドラゴンにとって『逆鱗』は全ての神経が集中している部位…。
そこだけでもかなり力が戻るだろうな」
テオが納得したように頷く。
どうやらリックからドラゴンについていろいろ教えてもらったらしい。
「ま、マー坊…。アソコ痒いよぉ…」
「紛らわしい言い方すんなボケ!
お前のせいで俺たち消し炭になるとこだったんだぞ!」
「ひゃんっ!」
ベッドでモゾモゾとしているカーティスをペチッとはたく。
コイツの逆鱗は下腹部にあるから、パッと見〝そういう行為〟をしていると勘違いされてもおかしくない。
…ったく、とんだトラブルメーカーだ。
「そういう事なら分かったわ。
なら早く済ませてしまいましょう」
「ああ、助かるぜ。
二人でカーティスの腕押さえてくれるか?」
「分かった。少し我慢してくれカーティス」
「うん…。はやくぅ…」
のしりと、二人がかりでカーティスに覆い被さるフレイとテオ。
よし、これでやっと両手が使える。
頑張って半分くらいまでは剥がせたんだ。
もうひと踏ん張りだぜ。
そっと、剥がれかけの皮を指で摘む。
「ひあっ♡! や、優しくね…?」
超敏感部位なので、ペリペリと剥がしていく。
いきなりベリッといくと下手したら死ぬとか抜かしやがったから、俺も神経すり減らすんだよな…。
「熱っ!? おい、いきなり体温上がったぞ!?」
「よ、よくこんなの触れてられたわね…。
もしかしてずっとこんな調子だったの?」
「そうだよ…。
これ数人がかりじゃないとキツい作業だろ?」
逆鱗に手を触れただけで、カーティスはビクンと身体を跳ねらせ体温を上昇させる。
当然ドラゴンの体温は凄まじいもので、おかげでせっかくおっさんに『流水回復』かけてもらったのにまた汗だくだ。
ペリ…ペリ…。
「あっ♡、あっ♡、あっ♡!
マー坊ぉ…、まだぁ…っ?」
「さっきより良いペースだ!
あと三分の一くらい!
もう少しだ、がんばれカーティス!」
「そうよ!
あんたもドラゴンならこれくらい気張って見せなさい!」
「オズベルクにひと泡吹かせる思いで耐えるんだ!
お前ならきっとできるぞカーティス!」
みんなの声援に応えるため、カーティスは歯を食いしばり顔をクシャクシャにしながら必死に耐え忍んだ。
そして…
ペリリッ!
「はああああんっ!!!!」
「剥がれた! 全部剥がれたぞ!
よく頑張ったなカーティス!」
「やったわ!」
「おお! すごいぞ二人とも!」
最後の皮が分離し、まったく新しい鱗に生まれ変わったそれは、白く…力強い光を反射した。
同時に、彼女の身体からジワジワと得体の知れないエネルギーが溢れてくる。
こ、これは…っ!
「ハァ、ハァ…! マー坊…、みんな、ありがと」
「す、すごい! なんて魔力…!
これが赤竜の本来の力なのね…」
「リックがドラゴンにいれ込むのも頷けるな。
こんな圧倒的な魔力を間近で感じられるとは…」
「すげ…! 身体につんざくエネルギーだな…」
もしドラゴンの形態なら迷わず逃げ出しているくらいのエネルギーだ。
うう、恐ろしや恐ろしや…。
やがてカーティスは溢れるエネルギーを封じ込め、荒れた息を整えた。
そして、彼女はニコニコしながら俺の前へすり寄ってくる。
なんだ?
「マー坊」
「ん?」
するとなぜかカーティスはおもむろに部屋の窓に首を向けた。
「あっ! あそこに巨乳のエルフが歩いてる!」
「なにぃ!? どこだ!?」
カーティスの言葉に釣られ、俺も同じ方向へ首を向ける。
は!? 居ねぇじゃん!
つーか外にいるのムサそうな村の戦士だけ…
チュッ
「あああああああああ!!?
なっ、なにすんのよカーティスぅぅ!!?」
「えへへー、今回のお礼♡
マー坊のほっぺた柔らかいね~」
「だ、大胆だなドラゴンは……あれ? レイト?」
………………………………………………………
「たっ、大変だ!!!
レイトが息してないぞ!!!」
「「ええええ!?」」
「『ガルドの牙』…。ああっ!
行商人さんから噂は聞いたことありますよ!
遥か西に、エルフだけの傭兵団があるって!
すごい! フレデリカさんは傭兵なんですね!」
「ふふん、そうよ。
これでも腕っ節はいちばんなんだから!」
「アハハ、イザークったらはしゃぎ過ぎよ。
ゴメンね、この子いつもお客さんが来るとあれこれ聞いちゃうの」
レイトがカーティスを迎えに行って数分。
未だにあいつは戻って来ない。
その間、私はミアとイザークの3人でお喋りをしていた。
特にイザークが私の故郷について興味を持ったらしく、とめどなく質問してくる。
この村の人達はずっとここで暮らしてるから、外の世界に憧れているのかもしれないわね。
それにここまでキラキラした目で聞かれるのは悪い気はしない。
なんとなくこの子ラムジーに似てるんだもの。
「それにしてもレイト君遅いわね。
カーティスちゃんの説得に相当手こずってるのかしら?」
「なんだかんだカーティスはレイトに懐いてるから余裕だと思うけど…。
たしかにちょっと遅いわね」
「カーティスさんってあの赤髪の竜人ですか?
貴方たちのパーティーって本当に色んな種族がメンバーにいるんですね~」
「イザーク。あの子はドラゴンよ?
オズベルクさんと同じでね」
「ええええっ!? そ、そうなの!?
…こ、こんな冒険パーティー見たことない…」
感心したように息をつくイザーク。
でも、そろそろ出発しないと。
まったく、何やってるのよレイト。
みんなしびれを切らして待ってるのに。
「…もう、しょうがないわね。
私もちょっと手伝ってくるわ」
「はい、分かりました。
あとでまたお話聞かせてくださいね」
イザークの笑顔に頷き食堂を出ようとしたその時、誰かに腕を引っ張られた。
しかし、振り向いても誰もいない。
「こ、ここだ。下を見ろフレデリカ嬢」
「あっ、テオ。どうしたの?」
…身長差があって見えなかったわ。
少し屈んで問うと、テオはモジモジと赤い顔で答えた。
「…お、俺も手伝う。
朝の訓練…、あいつに謝りたいし。
それにさっきもクルゥの件で駄々こねて…」
すると、恥ずかしそうなテオの傍にもう一人の赤髪女が来た。
ナディアは俯くテオの頭に手を乗せる。
「この通りだ、フレイ殿。
私たちのような貴族は謝罪をすると、どうしてもコトバが固くなってしまうんだ。
彼のために貴公もひと肌脱いでくれないか?」
そっか…。
テオもレイトと仲直りしたいってことなのね。
さっきのリックとのやり取りを見て、自分もアクションを起こしたくなったのだろう。
「テオ…。ふふっ、分かったわ!
そういう事なら一緒に行きましょ!」
「…っ! ああ!」
☆☆☆
「そもそもあいつに対してそこまで気負うことなんかないのよ。
私なんかガルドで暮らしてる頃、レイトとはしょっちゅうケンカばっかりしてたんだから」
「そ、そうなのか?
その時はどっちから謝ってたんだ?」
「数時間も経てばお互いケロッと忘れてるのよ。
回数重ね過ぎてそれが日常になってたからね」
「へ、へぇ…」
カーティスの部屋に向かう途中、テオにガルドにいる頃のレイトの話をしてあげた。
最初にレイトと暮らし始めたばかりの頃は、いがみ合ってばかりで全然仲良くなかった。
でもいつからか、あいつと話したり訓練したり遊んだりすることがだんだん楽しくなってきて…。
気づけば私はレイトを目で追っていた。
ふふ、人生ってどうなるか分からないわね。
半分惚気の如くペラペラ話すうちに、目的の部屋へ到着した。
「ここがカーティスとセリーヌの部屋よ。
さて、とっとと終わらせましょう」
「ああ。ついでに俺も彼に謝罪を「あんっ♡」」
「「!?」」
なっ、なに!? 今の甘ったるい声!?
部屋の中から…?
(フ、フレデリカ嬢? 今のって…)
(シッ…! ちょっと待って!)
ドアの傍に耳を近づけ中の状況を探る。
ま、まさかあの二人…?
いやいやいや!
カーティスはともかく、レイトはドラゴンが大がつくほど嫌いだし…。
そんなわけ…。
「くっ…! カーティス、すげぇ熱いよ…!」
「ハァ、ハァ…、マー坊ぉ…!
ま、まだぁ? 早くシテよぉ…っ!」
ヤッ…、ヤッてる…っ!?
これ完全に致してるじゃない!!
…いや、落ち着きなさいフレデリカ。
以前も同じことがあったじゃない。
レイトとルカが耳かきしてるとき…。
きっと今回だってそういう…
「はぁん♡! もっ、もっと優しくしてよ~!」
「し、仕方ねぇだろ!
俺だってこんなの初めてで加減が」
ぷちん
「何やってんのよこのスケベ男おおおお!!!」
バゴォン!!
「「!?」」
「フレデリカ嬢!?」
とうとう我慢できず、部屋のドアを蹴破ってしまった。
そこには…ベッドの上で服をはだけて仰向けに寝るカーティスと、さらけ出したお腹に手を当てて覆いかぶさっているレイトが…!
やっ、やっぱり…!!!
「信じらんない!!!
こんな時に女と寝てるなんて!
し、しかもよりによってカーティスなんかと…」
「フ、フレイ!? なんでエネルギーを出して…」
バチバチと、両手に雷の魔力を展開させる。
私楽しみだったのに!
いちばん最初にレイトとひとつになりたかったのは私だったのに!
「落ち着けフレデリカ嬢!
お前が暴れたら部屋が…」
「ほぇ…? だれぇ…?」
トロンとした表情で逆さまに私を捉えるカーティス。
蒸気が出そうなほど火照っていて、気のせいか部屋の温度も高い…。
ふぅん、その様子だとさぞキモチ良かったんでしょうね…!!!
ベッドに寝る二人に両手の照準を合わせた。
「げっ!? や、やめろフレイ!」
「ライトニング…」
「待つんだフレデリカ!!!
よく彼らを見ろ! レイトは脱いでいないぞ!」
「え…?」
バッと、間に飛び込んだテオがレイトに向かって指を指す。
レイトの格好は…、あ、本当だ。
上着もズボンも着用している…。
い、いやでも『前戯』をしてたなら…!
「そうだ! お前らも手伝ってくれ!
コイツ暴れるから上手くできないんだ!」
「「はあ!?」」
上手くできないって…!?
な、何をやらせようってのよ!?
そんな変態プレイするわけないでしょ!
「レイト…。ちょっと待ってくれ。
先に俺らに説明をしてくれないか?
今の発言でお嬢の殺気が数倍増した」
「あっ!? そ、そっか焦っちゃって…。
それとゴメン、テオ。さっきは助かった」
「い、いや。別に良いんだ。
というか謝りたいのは俺であって…」
「ああもう!!
いいから言うことあるなら早く言いなさい!
さもないとコレぶっぱなすわよ!?」
☆間宮 零人sides☆
「「『脱皮』!?」」
「ああ。フレイは分かるだろ?
アリーナで蛇女がやったやつだ」
いきなり部屋に突入してきた二人に事情を説明した。
カーティスはおっさんとのコンビを了承してくれたが、おっさんを守るために失った『力』を取り戻す必要があるとのことだ。
通常、ドラゴンが力を取り戻すためには安全な場所で安静に寝ることがセオリーらしいのだが、今回は急な作戦のため〝裏ワザ〟を発動した。
それが『脱皮』だ。
「でも、それならなんでこの子は人間のままなのよ?
『脱皮』は普通魔物の形態で行なうものでしょ」
「ドラゴンの身体でやるとめちゃくちゃ時間かかるんだとさ。
んで、カーティスから提案されたのが、今俺がやってた『逆鱗』の脱皮だ」
「なるほど…。
ドラゴンにとって『逆鱗』は全ての神経が集中している部位…。
そこだけでもかなり力が戻るだろうな」
テオが納得したように頷く。
どうやらリックからドラゴンについていろいろ教えてもらったらしい。
「ま、マー坊…。アソコ痒いよぉ…」
「紛らわしい言い方すんなボケ!
お前のせいで俺たち消し炭になるとこだったんだぞ!」
「ひゃんっ!」
ベッドでモゾモゾとしているカーティスをペチッとはたく。
コイツの逆鱗は下腹部にあるから、パッと見〝そういう行為〟をしていると勘違いされてもおかしくない。
…ったく、とんだトラブルメーカーだ。
「そういう事なら分かったわ。
なら早く済ませてしまいましょう」
「ああ、助かるぜ。
二人でカーティスの腕押さえてくれるか?」
「分かった。少し我慢してくれカーティス」
「うん…。はやくぅ…」
のしりと、二人がかりでカーティスに覆い被さるフレイとテオ。
よし、これでやっと両手が使える。
頑張って半分くらいまでは剥がせたんだ。
もうひと踏ん張りだぜ。
そっと、剥がれかけの皮を指で摘む。
「ひあっ♡! や、優しくね…?」
超敏感部位なので、ペリペリと剥がしていく。
いきなりベリッといくと下手したら死ぬとか抜かしやがったから、俺も神経すり減らすんだよな…。
「熱っ!? おい、いきなり体温上がったぞ!?」
「よ、よくこんなの触れてられたわね…。
もしかしてずっとこんな調子だったの?」
「そうだよ…。
これ数人がかりじゃないとキツい作業だろ?」
逆鱗に手を触れただけで、カーティスはビクンと身体を跳ねらせ体温を上昇させる。
当然ドラゴンの体温は凄まじいもので、おかげでせっかくおっさんに『流水回復』かけてもらったのにまた汗だくだ。
ペリ…ペリ…。
「あっ♡、あっ♡、あっ♡!
マー坊ぉ…、まだぁ…っ?」
「さっきより良いペースだ!
あと三分の一くらい!
もう少しだ、がんばれカーティス!」
「そうよ!
あんたもドラゴンならこれくらい気張って見せなさい!」
「オズベルクにひと泡吹かせる思いで耐えるんだ!
お前ならきっとできるぞカーティス!」
みんなの声援に応えるため、カーティスは歯を食いしばり顔をクシャクシャにしながら必死に耐え忍んだ。
そして…
ペリリッ!
「はああああんっ!!!!」
「剥がれた! 全部剥がれたぞ!
よく頑張ったなカーティス!」
「やったわ!」
「おお! すごいぞ二人とも!」
最後の皮が分離し、まったく新しい鱗に生まれ変わったそれは、白く…力強い光を反射した。
同時に、彼女の身体からジワジワと得体の知れないエネルギーが溢れてくる。
こ、これは…っ!
「ハァ、ハァ…! マー坊…、みんな、ありがと」
「す、すごい! なんて魔力…!
これが赤竜の本来の力なのね…」
「リックがドラゴンにいれ込むのも頷けるな。
こんな圧倒的な魔力を間近で感じられるとは…」
「すげ…! 身体につんざくエネルギーだな…」
もしドラゴンの形態なら迷わず逃げ出しているくらいのエネルギーだ。
うう、恐ろしや恐ろしや…。
やがてカーティスは溢れるエネルギーを封じ込め、荒れた息を整えた。
そして、彼女はニコニコしながら俺の前へすり寄ってくる。
なんだ?
「マー坊」
「ん?」
するとなぜかカーティスはおもむろに部屋の窓に首を向けた。
「あっ! あそこに巨乳のエルフが歩いてる!」
「なにぃ!? どこだ!?」
カーティスの言葉に釣られ、俺も同じ方向へ首を向ける。
は!? 居ねぇじゃん!
つーか外にいるのムサそうな村の戦士だけ…
チュッ
「あああああああああ!!?
なっ、なにすんのよカーティスぅぅ!!?」
「えへへー、今回のお礼♡
マー坊のほっぺた柔らかいね~」
「だ、大胆だなドラゴンは……あれ? レイト?」
………………………………………………………
「たっ、大変だ!!!
レイトが息してないぞ!!!」
「「ええええ!?」」
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