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第188話:オズベルクの因果

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「おっさん…」

「「…聞カレテイタカ」」

「え…えっ!?」


 俺たち見上げた先には、パトロールを行なっていたオズのオヤジが空中に居た。
 翼が無い人化状態でどうやって浮かんでいるのかは分からないが、コソコソ内緒バナシは彼に筒抜けだったらしい。
 さて、どうしたもんか。

 シュタッと、おっさんは俺らの前へ降り立った。


「ね、ねぇ…。
 今、どうやって空飛んでたの?
 合体したマー坊見たいに浮かんでいたけど…」


 カーティスが質問をする。
 …って最初に聞くことがそれかよ。


「光属性と風属性の応用だ。
 我輩の翼を隠し、羽ばたき音を消しただけだ」

 パアア…

 するとおっさんの背中から、光と共に二対の翼が現れた。
 えっ、おっさんもイザベラみたいな形態にできんのかよ。

 
 「す、すごい…!
 ワタシ、人化魔法はあまり得意じゃなくて…。
 翼だけ戻すってどうやるの!?」

「おい、カーティス。
 今そんなことどうでもいいだろ」

「「ソウダ。
 器用ナ技術ハ認メルガ、先ニ問ウコトガアル。
 汝、『悪魔竜デビル・ジョー』ト『サイファー』ニ何ノ因果ヲ持ッテイル?」」
 

 そうそう、これがいちばん聞きたい疑問だ。
 炎獣イフリートのやつ、意外と頭回るな。


「どちらも我輩の『敵』だ。
 それ以上でもそれ以下でもない」

「「「………」」」


 淡々とおっさんは答える。
 これだけじゃあまだ納得できないな。


「じゃあ、何でカーティスの行き先を予想してグロックに先回りできた?
 カーティスとサイファーが話す内容を知ってなきゃ、そんなことできないよな?」


 今度は俺が疑問を繰り出す。
 するとおっさんはゴソゴソとポケットから何かを取り出して手を広げた。


「レイト。これが何だか分かるな?」

「こいつは…」


 手に乗っているのは、とても小さなエネルギーの球体。
 そのビー玉もどきからは、仄かにおっさんと同じエネルギーを感じる。


「『眼』だろ?
 おっさんの『千里眼ボヤンス』の…」

「そうだ。
 以前、貴殿には見せたことがあるな。
 これと同じ物がそこの赤竜レッド・ドラゴンの住処…『赤の洞窟』に設置してある」

「「「!」」」


 なんだと!?  …待て、そうなると…?


「エッ…エッチ!!
 ワタシの生活をずっと覗き見てたってこと!?
 信じらんない! この変態オヤジ!!」

「違うだろバカ!
 これがお前ん家にあるってことは…」

「「『赤竜レッド』ト『サイファー』ノ〝取引〟ヲ知ッテイタトイウ事ニナル」」

「あ…」


 炎獣イフリートの指摘で、カーティスのバカもさすがに理解したようだ。
 そしておっさんもまた頷いた。


「その通り。
 『眼』は古今東西あらゆる場所に置いてある。
 特に『赤の書』は、重要なだったからな。
 …既に魔族に奪われてしまったが」

「…? カーティスが隠してたっていう…?」


 たしか迷宮主ダンジョンマスターであるカーティスが用意してたんだっけか。
 詳しくは分からないけど。
 …てか今、『監視対象』って…?
 それどういう意味だ?


「ねえ! それよりワタシとサイファーの話したこと知ってたなら、なんでグロックで会った時に教えてくれなかったの!?
 オマエ、思い切り魔法撃ってきたよね!?」

「村の者へ手を出そうとしたからだ。
 それにドラゴンは基本、他人の話を聞かない。
 あの場では実力行使するしかなかったのだ」

「あーすげぇそれ分かる。
 今日だってカーティスのボケを言うこと聞かせるのどんだけ大変だったか…」

「ああ…。
 こう言ってはなんだが、よくこんなじゃじゃ馬ドラゴンを従えられたな?」
 
 「待って!!
 ワタシそんなに頭足りなく思われてるの!?」


 ギャアギャアと喚き散らすカーティス。
 おっさんを覗いて、人間とマトモに話ができるドラゴンなんてふつう滅多にいない。
 コイツだって元々の力が回復すれば、きっと暴れるに違いない。


「「ダガ汝ハ〝取引〟ヲ傍聴シタニモ関ワラズ、王都デ我々ニスラ黙ッテイタナ。
 ソレハ何故ダ?」」

「既にあの時点で決着がついたことだからだ。
 …それにまさか貴殿らが『赤竜レッド・ドラゴン』と邂逅するとは思わなんだ。
 今回、サイファーは我輩たちの標的ではない。
 貴殿たちにはあくまで『紅と黒の騎士』に集中してほしかったという思いもある」

「「フム…」」


 炎獣イフリートは顎をさする。
 とりあえずはおっさんの言い分を聞き入れたようだ。
 しかし俺は…


「レイト…。まだ我輩を疑うか?」


 おっさんは少しだけ、寂しそうに問いかける。
 …分かってるよ。
 ホントは俺だって自分の師匠を疑うなんてしたくない。


「……。じゃあこれだけ答えてくれ。
 カーティスも聞きたがってたことだけど、おっさんがこのアホンダラを助けたホントの理由はなんだ?」

「………」


 おっさんは少し考えている。
 言うべきか迷う…って具合みたいだ。


「ねえ、ナディ子。
 ワタシの疑問を代わりに聞いてくれたことにお礼を言うべき?
 それとも悪化しつつあるあの減らず口をパンチするべきかな?」

「「私ハ『ナディ子』ジャナイ。
 黙ッテ彼ノ言葉ヲ待テ、『ピーマン女』」」

「…!??
 なんか今すっごい悪口言わなかった!?」

「「気ノセイダ『単細胞トカゲ』」」

「やっぱり言ってる!!!」


 …横がうるさい。
 カーティスが炎獣イフリートをポコポコ叩いてジャレ始めた。
 ザベっさん家みたいに大人しくできないのか?

 するとおっさんは俺の傍に近付き、ごくごく小さい声で耳打ちをしてきた。


(…赤竜レッド・ドラゴンは年月を経て忘れているようだが、『赤の書』を〝起動〟させるには彼女の〝生体データ〟が必要なのだ。
 故に、彼女を魔族ガイアに渡さないため逃がした。
 …すまないが、いま貴殿に言えることはここまでだ。
 貴殿もこの事はまだ誰にも話さないでくれ。
 いずれ、我輩から皆に全てを打ち明ける)

「え!?」


 なっ…、なんだと!?
 〝生体データ〟…。
 つい最近聞いたコトバだ…!


「ん? どうしたのマー坊?
 …って、あっ!? どこいくのノゾキオヤジ!」

「えっ!?」


 耳打ちが終わると、おっさんは再び翼を広げて上へ飛翔し始めていた!
 おいおいおい! まさかここで逃げる気か!?


「我輩はひと足先に村へ戻る!
 貴殿らも一通り気が済んだら戻りたまえ。
 明日は久しぶりに稽古をつけてやろう!」


 ビュン!と、村の方へ向けて飛んで行った!
 ああクソ! ルカ居ないから追いかけらんね!
 

「はあ!? 待てえぇぇこの育成オヤジ!
 さっき重要なことを……チッ、逃げられた」


 あのオヤジ…っ!
 最後の最後にめっちゃ気になること言い残しやがって…!


「ね、ねぇ…、ワタシまだ答え聞いてなかったんだけど、結局アイツなんて言ってたの?」


 カーティスが腕を掴んで問いかけてきた。
 ……クソ、オフレコって言われたんだよな…。
 何かそれらしい別の理由を…。

 …いや、カーティスだし別にいっか。
 アリーナん時の蛇女ラミアみたいにテキトー言っておけば。


「本当はお前の体臭がヤバすぎて、一刻も早く遠ざけたかったんだと」

「はあああああ!? ワタシ臭くないよ!
 ちゃんといつも『洗浄ウォッシュ』してるもん!」

「「イヤ失礼ダガ、私モ汝ノ臭イハ少々…」」

「ナディ子まで!? う、うあああああん!!
 みんながワタシをいじめるー!!!」


 カーティスは大泣きしながら村の方へ走り去って行った。
 あっ、途中で転けた! 膝擦りむいてないかな?
 俺と炎獣イフリートは顔を見合わせる。


「俺たちも村に戻ろっか」

「「ソウダナ。
 ツイデダ、コノ場デナディアへ身体ヲ返ソウ。
 …久シブリニ〝オ喋リ〟シタノデ疲レタ。
 シバラクコノ子ヲ頼ムゾ」」

「えっ…あっ!? おい!?」

 ヨロッ

 そう言うやいなや、炎獣イフリートは俺に体重を預けるようにのしかかってきた!

 ああっ、ちょっ!?
 まさか宿主に身体返すと立ってらんねぇのか!?
 慌てて彼女を抱き寄せる。
 それなら帰ってから返しなさいよねもう…。







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