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第179話:センチュリーファミリー

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 宿泊の手続きを済ませた俺たちはいよいよ、ドノヴァン・ヴィレッジを統括しているザベっさんの親父…〝族長〟へ挨拶するため、彼が住む家へ伺った。
 つまり…ザベっさんの『実家』だ。


「こちらが族長の住まう家になります。
 レイト様、準備はよろしいですか?」

「んーうん…。その、ザベっさん…?」

「はい」

「…なんでそんなしかめっ面なの?」


 ザベっさんの表情は珍しく眉間にしわを寄せた、まるでフレイがキレかかる寸前みたいな顔だ。
 出会った時から無表情メイドが定着している俺にとって、今の彼女は恐ろしくて仕方がない。


「…ここに愚兄と愚父が居ますので」

「…そ、そっか…」


 ザベっさん、ドノヴァン村に入ってからホントに機嫌が悪い。
 さっきのミアって姉ちゃんに会った時は優しい顔してたんだけどなぁ…。
 まぁ、それはまず良いとして、問題は…


「カーティスー? ちょっとこっち来なさい」

「なにー? マー坊」


 ポケ~っとザベ家の実家を眺めているドラゴン女を手招きで呼びよせる。


「お前あと息すんな」

「いきなり死刑宣告!?」

「…じゃなかった。
 ザベっさん家に入ったらお口チャックね?
 余計な口を開かない、無闇に触らない、話が終わるまで大人しくすること。
 カーティス、この3つちゃんとできるか?」

「…もしかしてマー坊って、ワタシのこと幼児かなんかと思ってる?」


 三本指を立てた俺を、カーティスはジト目で睨んできた。
 いや、幼児ならまだ良いのよ。
 多少のオイタは、子供だし目をつぶってくれるだろう?

 けどこいつは…見た目は大人、中身は歩く好奇心だからな。
 人様のお家で粗相でもしたら大変だ。
 本来なら縄でも縛って宿で留守番させたいところなんだからこれくらいは守ってもらわないと。

 すると、シルヴィアが苦笑いでカーティスの手を繋いでそれを俺に見せてきた。


「シ、シル子?」

「大丈夫ですよ、レイトさん。
 ほら、私がしっかり見ておきますので」

「ん、ありがとうシルヴィア。
 けど一人だけじゃ大変だろ?
 セリーヌ、シルヴィアの援護してくれ」

「ガッテンニャ!」


 指示を受けたセリーヌは、同じようにガッチリと反対側の手を繋いだ。
 よしよし、これで良い。
 こうすりゃあ、前みたいに勝手に動き回ったりなんてできないだろ!
 

「ねぇ待って!
 二人ともワタシより歳下だよね!?
 特にセリ子なんてまだよんじ…痛い痛い痛い!!」

「これ以上口を開いたら〝メッ〟ニャ♡」


 お、さっそくセリーヌ姉さん、カーティスをコントロールしてくれてるな。
 うーし、これなら安心して挨拶に臨める!


☆☆☆


 突然だが、長らく帰っていない実家に戻ってきた時、普通の家庭ではどんな反応になると思う?

 親なら数年ぶりに見る息子・娘の成長した姿を楽しみにして出迎えてくれるよね。
 兄弟・姉妹も同様で、血の分けた自分の兄弟の帰還を心から喜ぶはずだ。
 それが普通…いや理想と言ってもいいかもしれない。

 だからだろうか…


「エリー! エリィィィ!
 ほーら、パパでしゅよー♡
 抱っこしましょうねぇ♡♡♡」

「親父! テメェは引っ込んでいろ!
 エリーは今日、俺が最初に出迎えたんだ!
 ほら、こっちに来いエリー♡
 にぃにがヨシヨシしてあげますからね~♡」

「失せろこのバカ息子! 
 赤ん坊のエリーを最初に抱えたのはこの私だ!
 お前の垢まみれの手で清廉無垢なエリーを触るんじゃなああい!!!」

「………………(ビキ、ビキ)」


 …地球に居る父と母と姉に『普通でいてくれてマジでありがとう!』と伝えたい気持ちになったのは。


「こ、困ったわね…。
 これじゃあまともに会話できないわ」

「そうだな…。
 まさかザベっさんのお父さんまで〝アレ〟とは思わなかったぜ」

「むう…、一度撤退を提案する。
 これでは意思の疎通がままならん」


 俺たちは今、二人のハイエルフによって揉みくちゃにされまくっているザベっさんを眺めている(無言だけど青筋立ってるし確実にブチギレてる)。
 ザベ家に入った途端こうなったのだ。

 …そんであの人が『族長』か。
 フレイの親父ほど厳つくはないけど、最初の印象は厳格なお父さんって感じだった。
 今は娘にデロデロしてるただの中年オヤジに書き換わったけど。

 先ほどから声を掛けるもこちらは完全に無視。
 おまけにオズのおっさんの姿も見えない。
 こんなんどうしろってんですか!

ガチャ

「フフ、ウチの家族がゴメンなさい」

「「「!?」」」


 ルカの言うとおり一度出直すか検討していると、突然見知らぬ女性が玄関を開けて入ってきた。
  霊森人ハイエルフ…うわ、超キレイ!
 ザベっさんとは違ったタレ目の正統派美人だ!
 なんか面影もあるし、きっとザベっさんのお姉さんかな?


「えーと、あなたは?」


 俺が訊くと、女性はふんわりとした所作で胸に手を当てた。


「お出迎えが遅れちゃいましたね。
 私は『マキオン・センチュリー』。
 あそこで捕まっているエリザベスの母ですわ」

「「「母!?」」」


 ウソだろ!?
 俺らよりちょっと上くらいかなって思ってた!
 ハ、霊森人ハイエルフって若い見た目の人多いんだな…。


「貴方たちの事はオズベルクさんから聞いています。
 お恥ずかしいことに、主人と息子はああなってしまうとしばらく続いてしまいますのよ…。
 良ければ客室へ案内しますので、そちらで私から近況のお話をしましょうか?」


 マキオンさんはニコリと柔らかい表情で提案してくれた。
 あっ、今の顔ザベっさんと似てた!
 やっぱりちゃんと親子なんだな!


「た、助かります! でも、良いんですか?
 人の家にとやかく言うつもりではありませんが、娘さんあんなことなってますけど…」

「フフ、いつもなら止めに入りますが、お客さんの手前もありますので…。
 それに今日くらいは主人と息子に、愛娘との再会を喜ばせてあげたいのです」

「マキオンさん…」


 彼女はウインクをして、向こうで暴れるセンチュリーファミリーを微笑ましそうに見ている。
 なんて良い母ちゃんなんだろう。
 優しいし、気立て良さそうだし、良い匂いするし、なにげ胸デカいし…


「レイト君からエッチな匂いしてるニャ。
 いやらしいこと考えてるニャ」

「ちょっ!? バッ…」

「…レ・イ・トさん?
 既婚者相手に何を考えてらっしゃるのかしら?」

「何も考えてません!何も考えてません!
 セリーヌの冗談だって! 真に受けんな!」


 フレイがマキオンさんのような口調で、ガシリと腕を掴んできた!
 このロリババア! 余計なこと言いやがって!
 カーティスよりコイツの方が危険だった!


「たしかにレイトのエッチな動画に人妻モノはあったけど…。
 そんな不毛な人よりもっと身近の…」

「ちょっと待てやフレイ。
 なんでお前が俺の『お宝』の情報を知ってる!?」


 この女いつの間に観てやがった!?
 お宝ファイルの開き方なんて教えてないぞ!
 まさか俺の性癖がフレイにバレてんのか!?


「まあ、そんなの良いから早く行きましょ。
 マキオンさん、案内お願いするわ」

「いや良くな…ムグッ」

「はい、分かりましたわ。
 それでは皆さま方、どうぞ二階へおいでくださいな」

「ンー!」


 ちょっとぉぉぉ!?
 俺それどころじゃなくなったんだけど!
 しかしこれ以上の問答は許さんとばかりに、フレイは俺の口を封じながらズルズルと引き摺って行く。


「ウース」

「お邪魔しますニャー」

「カーティスさん、ちゃんと大人しく良い子できるんですね。
 うふふ、偉いですよ」

「…うーん、珍しく褒められてるのにぜんぜん嬉しくない…」


 それに続く『蒼の旅団』のメンバー。

 引きずられながら、最後にもう一度ザベっさんに目をやると、ちょうどあっちも俺を見ていた。
 視線が交差すると、何故かザベっさんはプイッとそっぽを向いて…あれ、頬を膨らませてる?
 いや、見間違いかな?








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