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第177話:ドノヴァン・ヴィレッジ

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 イザークとザベっさんの話題で盛り上がっていると、いたたまれなくなったのか、フレイ達のグループに行ってしまった。
 俺らもやり過ぎたと反省し、重要な本題である先ほどの魔族について話していた。


「ええっ!?
 さっきみたいな襲撃が頻繁に!?」

「はい。といっても、戦士長とオズベルクさんのお陰で今のところは目立った被害はないですけどね」


 そして彼に軽く聞いた話では、オズのおっさんは数週間前にドノヴァンここへ既に到着している。
 おっさんの来訪目的を伝えるも、現在ドノヴァン山では魔物の縄張り争いが活発化しており、『紅と黒の騎士』の調査が思うように進まないとのことだった。
 それに加え、先ほどのような魔族も介入しているため、よほど手こずっているようだ。


「あの人から聞きました。
 なんでもこの近辺で〝サバト〟が行われるそうですね」

「ああ、魔物同士が一堂に集結して暴れ回るっつー最悪なイベント…。
 まさか本当に起こってるとはな…」

「ええ…。でも、今回は魔族の襲撃とはいえ、レイト達のお陰で本当に助かりました。
 改めてお礼を言わせてください」


 イザークはニコリとはにかみ、会釈程度に頭を下げてきた。
 ふふ、礼儀正しくて話しやすい男だな。


「もうまもなく村へ到着します。
 詳しいお話は〝族長〟とオズベルクさんからあると思います」

「ああ、分かった。…ちょっと緊張するな」


 霊森人ハイエルフだけが住む村…。
 ノルンみたいなことにならないといいけど。


☆☆☆


「ここが、ザベっさんの故郷…」

「『ドノヴァン・ヴィレッジ』。
 …なるほど、今までの町や村に比べてエネルギーの質がかなり高潔だ」


 ほお…と、ルカと共に感嘆の息を吐く。

 山中に佇むその村は、まるで時が涼んでるような…喧騒とは無縁の静かな雰囲気だ。
 木材で造られた入り口を潜ると、石畳の道が広がり、木々に囲まれた住宅などの建物へそれぞれが伸びていた。
 至る所に自然との調和を目指しているかのような生活感が窺える。

 そして、今ルカが言ったように、村全体から感じられるエネルギーはとても清らかに澄んでいた。
 ずいぶんスピリチュアルな場所だな…。
 ここパワースポットとして名所登録してもいいんじゃね?

 ちなみに俺ら以外のメンバーも同様に、この村の景観に圧倒されていた。


「わあ…、すごく空気が美味しいわ。
 山の中なのに全然臭くないし…」

「は、はい…。
 まさかエリザベスさんの故郷がこんなステキな村だったなんて…」

「私も警備隊の座学で聞き齧った程度の知識だったが、実際に目にしてこうも印象が変わると思わなかったな…」

「おお~、エリーちゃんみたいな魔力マナがいっぱいあるニャ~」

「むむむ…、このような清廉な集落とは…。
 マスカットの主として絶対に失礼な態度を取るわけにはいかないな」

「なんでも良いけどよォ、休ませてくれや…。
 オレもうクタクタだぜ…」

「だらしないねーリク坊!
 それでも竜の血を引いてる男子か~?」


 しばしみんなでキョロキョロと見渡していると、イザークがいつの間にか気絶したエドウィンさんを抱えてこちらにやって来た。


「レイト、ルカさん。
 ここから右手にある建物が村の民宿です。
 まずはそちらに行って宿泊の手続きを行なってください。
 僕はひと足先に、族長の家に行って報告をしていますね!
 あとであなた達も来てください!」


 『民宿』…?
 あれ、霊森人ハイエルフだけが住んでるんじゃ…ってそりゃそうか。
 外との交流を完全に断つなんてことをしたら、生きていくための物資を得られないもんな。
 きっと行商人やジオンの父ちゃんみたいな人達を想定した施設なんだろう。


「ああ、ここまでありがとうな。
 …てか、意外と君って力持ちなんだね」


 イザークの体格は俺と似ていて細身なんだが、自分より大きいエドウィンさんを軽々と背負っている。
 すげぇな。俺がやったらギックリ腰なりそう。


「えへへ、これでも鍛えてますからっ」

「お。どんなトレーニングしてんだァ?
 筋トレの事ならあとで語ろうぜ!」

「はい、良いですよ! それではまた後ほど!」


 イザークはリックと俺に笑顔で手を振って、他の戦士たちと共に、村の中でも特に大きい建物へと向かって行った。

 …エドウィンさんといいイザークといい、話してみたらムダに緊張してたのがバカみたいだ。
 いったい何を怖がっていたんだ俺は?


「レイト様。
 宿泊施設へご案内いたします。
 キャラバンを駐車するスペースと厩舎もございますので、どうぞクルゥもお連れください」

「おっけー。行こうぜ、みんな」


 …せっかく帰省したのに、ザベっさんあんまり嬉しそうじゃなさそうだな。
 まあ、村の風習が嫌いで家出かますほどだし、仕方がないと言えば仕方ないのかな?
 大所帯になりつつある『蒼の旅団』を引き連れて、俺たちはザベっさんについて行った。










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